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フランスのひきこもり当事者インタビュー 第2弾 ギードの場合 第2回「親との関係、そして支援」

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ジャパン・エキスポ2016 Photo by Wikimedia

(文・ぼそっと池井多)

 ・・・「ギードの場合 第1回 ひきこもりだって恋をする!」からのつづき

 

日本へ魅せられて

ぼそっと池井多: きみは前回、彼女とジャパン・エキスポ2016へ行った日が人生で最高の日だったと話してくれたんだったね。

きみはオタクかい? アニメが大好きなの。

ギード: うん、ぼくはオタクだよ。アニメが好きで、日本が好き。

ぼそっと池井多: 日本のどこが好きなの?

ギード: 文化、食べ物、風景、そして歴史。とくに日露戦争から第二次世界大戦にかけての日本の歴史は、めっちゃ面白い。1868年、明治維新のあと、日本はものすごい勢いで近代化を推進したでしょ。あれって、ほんとに信じられない。19世紀中ごろには、まだ封建制の真っ只中にあった国が、わずか50年で大国ロシアを敗(やぶ)るなんて! 

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安藤広重 「万国入船双六」 Photo by Wikimedia

 ぼそっと池井多: いつか日本に来てみたい?

ギード: 行きたい、行きたい。あなたの国にはいつかぜひ行きたいです。日本が好きな他のフランス人とちがって、ぼくの場合、東京はあんまり行きたい街じゃないんだ。むしろぼくは日本の田舎に惹かれている。もう長いあいだ、ぼくの頭から離れない一つの村がある。白川郷です。あれは美しい。とくに雪におおわれている、あの情景は! 草津のような温泉に行くこともぼくの夢です。お気に入りの地方は北海道。あの大自然がたまらない。札幌は美しい街だと思う。 

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草津温泉 by PhotoAC

ぼそっと池井多: アニメは何が好き?

ギード: 「めぞん一刻」、「レイン」、「モンスター」、「物語  <モノガタリシリーズ>  」、「カウボーイビバップ」、「サムライチャンプルー」、「コードギアス」、「NHKにようこそ」、「魔法少女まどか☆マギカ」、「ヱヴァンゲリヲン」、「寄生獣」、「シュタインズ・ゲート」とかいろいろ。

ぼくは日本文学も好きだ。とくに村上龍三島由紀夫。……太宰治も入るかな。『人間失格』は大好き。

ぼそっと池井多: オンラインゲームはよくやる?

ギード:  やるよ。でも、アニメを観るのに比べたらずっと少ない。ぼくはサッカーを観るのが好きだから、PS4FIFAシリーズをプレイする。ときどきFPS(*1)のゲームもやる。ぼくは独りでプレイするものが好きだ。J-RPG(*2)も好き。ダーク・ソウルのシリーズはみんな好き。魔界戦記ディスガイアのシリーズも。あとはファイナルファンタジードラゴンクエストマザー(*3)……。(*4)

  • *1. FPS : First Person Shootingの略。主観視点で戦うジャンルで、おもに戦場が舞台の射撃ゲーム、海外ではとても人気がある。

    *2. J-RPG : Japan-made Role Playing Gameの略。ロール・プレイを内容とする日本製のゲームの意。西洋圏で製作されているW-RPGと対比されるためによく用いられる用語。

    *3. マザー(Mother): 海外版では「Earthbound」。

    *4. なお、この節においてアニメとゲームの日本語訳に関してはToshl Honda、Tomoko Itoの両氏にご助力いただいた。

 

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ぼくのモニターで見るサッカー試合 Photo by ギード

ぼそっと池井多 : 何時に寝て、何時に起きてる?

ギード: それはいちばん難しい質問だな。ぼくには一日のリズムというものがない。今日は午後1時に寝て夜10時に起きたかと思ったら、次の日は午後3時に寝て夜中の1時に起きるというような毎日さ。非常に不規則です。まあ、だいたい、昼起きて夜寝るよりも、夜起きて昼寝るほうが好きかな。

 

両親との関係

ぼそっと池井多: きみがひきこもりであることに、ご両親はどのように言ってる?

ギード:ぼくはママと住んでる。ぼくの親は離婚してるんだ。父を最後に見たのが、ぼくが3歳の時。父親は暴力的で有害な人だった。いなくなって、せいせいしてるよ。

ぼそっと池井多: きみのお母さまはどんな方。

ギード:  ぼくのママはとても理解ある人だよ。ママのおかげで、ぼくは今日あるような読書家になったんだ。ぼくが小さい子どものころからママが読み聞かせをしてくれたからね。その結果、ぼくは他の子よりも早く読み書きができるようになった。フランスでは、ふつうは6歳だけど、ぼくは5歳でできたんだ。

ママは、ぼくを受け容れてくれるし、ぼくがひきこもりである事実も受け入れてくれている。ぼくの親戚も。

ぼそっと池井多: そういうことを聞くのは、とても興味深い。なぜならば、日本では概してひきこもりと親の関係は険悪なんだよ。親戚もね。

お母さんについて、もっと話してくれる?

ギード: ママはときどき、ぼくがもっと活動的になってくれたら、という希望をもらす。 ママは、ぼくが人生をともに花開かせるような彼女を作ってくれれば、と願っている。ママは、いつか「おばあちゃん」になりたいんだ。でも、ママにはわるいけど、ぼくは子どもを作りたいとは思っていない。

ぼそっと池井多: それはよくわかるなあ。私もひきこもりだし、子どもを持たない人生を選んだ。その二つのことは、私の中で、深い所でつながっている気がするんだ。

ギード: ともかく、ぼくのママはとてもやさしくて、ぼくがひきこもりであることに、なんら偏見を持たないで接してくれる。若い頃、彼女にも何か問題があったらしい。だからかもね。

高校を退学になったとき、ぼくはとてもみじめな思いをした。そのときママはぼくに、「何かやることを見つけたら」と提案してくれたけど、そんなにしつこく主張することはなかった。ママと一緒に住んでいることは、ぼくにとってはとてもうまく行っている。この点、ぼくはきっとラッキーなんだろう。 

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小さな家 Image: Pixabay

経済問題

ぼそっと池井多:  経済的には、どういうふうに暮らしているの?

ギード: いまはお母さんの収入で暮らしてる。でも将来的には、ぼくは自分で生活保護を受けるつもりだ。フランスでは、25歳からRSA(*5)という社会保障が受けられる。

それは、働く能力があろうとなかろうともらえるものなんだけど、働く意思があるということを表明しないともらえないんだ。でも、働く意思があるふりをすることは簡単さ。フランスでは、たくさんの人がそうやってこの年金を受けて暮らしている。ぼくもそうしたいと思う。

受け取れる金額はわずかだ。月510ユーロ(*6)。でも、最低限生き延びるには十分だと思うし、住宅扶助、公共交通パスなどがつくのは大きい。また、貧困層のために食糧を提供している場所へ行く権利も与えられる。ぼくは、生活においてはミニマリスト(最小主義者)だ。パソコンと、ベッドがあれば十分だ。巨万の富は要らない。

  • *5. RSA (Revenu de Solidarité Active / 直訳:連帯労働年金)

    フランスの社会保障制度の一つ。それ以前の社会保障制度では、利用者が社会復帰しにくいといった観点から、2009年に新しく導入された。受益人口は250万人(2016年)。主旨としては失業者のための年金といったところだが、ここではギードのとらえ方を加味して、二人で協議の上、あえて「生活保護」と訳した。なお、それは日本の生活保護利用者・受給者が働く意思があるふりをしているという意味では、まったくない。

    *6. 510ユーロ : このインタビューが行われた時点のレートに基づくと67,320円。

 

フランスのひきこもり支援

ぼそっと池井多: どうしてひきこもりになったの。

ギード: まあ、ようするに、学校と地域社会だね。

ぼくはとっても内向的な少年なんだ。他の人といっしょにいると、くつろぐまでにとても時間がかかってしまう。リアルな世界というのは、ぼくから見ると、あまりにも表面的で、偽善的で、面白くなく映る。まわりの人々を見ると、馬鹿に見えてしまう。

ぼくは、社会から刺激を受けることはない。人々が話していることを聞くと、どれもこれも些細なことばかりで、つまんない。ぼくは、彼らみたいな人生には意味がないと思う。

だから、ぼくは他人とは深く関わらない。彼らはぼくのことを「変なやつ」とか「習慣を知らない(*7)とかいうけれど、それはぼくが、彼らのうわっつらだけの会話に参加しないからなんだ。そういうぼくを、彼らは言葉でいじめた。

  • *7.「習慣を知らない」:原語では「peu conventionnel」。ニュアンスとしては日本語の「空気読めない」に近いかも。

 

ぼそっと池井多: そうか。日本にもそういうひきこもりはたくさんいるよ。

ギード:2012年のはじめ、ぼくが17歳のとき、ぼくは不登校になった。そのとき以来、ぼくはひきこもりとして生きてる。ここ三年くらいは、ほとんど家の外へ出ることもない。

ひきこもりが始まった直後は、まだぼくは会う友達がいた。それからぼくは就労支援(*8)も受けた。2015年に2か月半ほどね。でも役には立たなかったよ。 

  • *8. 就労支援原語では「la formation」。直訳すると、むしろ「訓練」に近い。フランス語には、英語のサポート(support / 支援)に相当する「soutien」という語もあるが、なぜかこのような現場では使われていない。

 

ぼそっと池井多: どういうところがその支援をやっているの。

ギード: 支援は、いくつかの機関によって行われている。25歳以上に対してはポール・アンプロワ(*9)がやっている。そこは、もともと失業者を支援する公的機関だ。

16歳から25歳までは、ミシオン・ロカル(*10)の管轄だ。そこは、不登校の子どもやニートの若者を民間の会社へ試験的に派遣して、それをきっかけに社会へ復帰させることをめざしている機関だ。いずれも、若者が未来のフランス社会へうまく統合されることをめざしている。

  • *9. ポール・アンプロワ(Pôle Emploi) : 日本でいえば「ハローワーク」か。

    *10. ミシオン・ロカル (Mission Locale) : 正式名称はMissions Locales pour l'Insertion Professionnelle et Sociale des Jeunes(青少年の職業的かつ社会的統合のための地方事業団)

 

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リヨンの「ポール・アンプロワ」    Photo by Wikipedia

 ぼそっと池井多:  就労支援の中身って、どんな感じ?

ギード:  それは、若い人たちを社会へ「再統合」するための2ヶ月半、ということになってる。

ぼくの場合は、いま住んでいる村から13キロ離れている、もともとぼくが生まれたサン・フロレという町でそれを受けた。ママが毎朝、車でぼくを連れていってくれた。試用期間で働いた分の給料は支払われる。ぼくは月に450ユーロ(*11)もらっていた。それでぼくはパソコンを買ったんだ。

  •  *11. 450ユーロこのインタビューが行われた時点のレートでは59,400円

 

ギード: 就労支援は、16歳以上の失業者だったら誰でも受けられるものだった。ぼくが入ったグループでは、19歳が最年少だった。最年長の人は56歳。

ぼそっと池井多: 最年長の人は、いまの私ぐらいだったわけだな。

ギード: 支援プログラムの中では、まずゴールが設定される。それぞれの職業のため計画を立てて、それぞれの人なりの人生を追求できるような道を見つけること、というのがゴールだった。はじめは、履歴書と送付状の書き方から教えられた。それから、いろいろな関係者がぼくたちを訪ねてきて、彼らの仕事についてのプレゼンをした。ときには、彼らの仕事場の様子を自分の目で見るために、ぼくたちは近くの町まで連れていってもらえた。

ぼそっと池井多: ふむふむ。ちょっとした小旅行だな。

ギード: これらはみんな、ぼくたちが人生で何をしたいかについて、考えを得るためのものだった。訓練期間が終わるに当たって、ぼくたちはそれぞれが選んだ仕事場でインターンをこなさなければならない。ぼくは本屋さんでのインターンを選んだ。

ぼそっと池井多: 本屋さんか。君らしいな。

ギード: その後、ぼくたちの指導者はそれぞれの受講者の評価をして、ぼくたちが支援プログラムで何をどのくらい達成したかを査定するんだ。指導者が「それはいい」と思えば、ぼくたちが選んだ道をそのまま進むのを彼らは助けてくれる。同意しなければ、指導者たちは、ぼくたちが訓練期間を延長するか、もしくは受けるのを止めるかを提案してくることになる。

ぼそっと池井多: それで、きみの場合はどうしたの。

ギード: ぼくは、「自分は文学の勉強がやりたい」って指導者に言ったんだ。理解のある指導者で、「おおいにやれ」って言われた。

ぼそっと池井多: よかったじゃないか。

ギード: でもね、ほんとうは、ぼくは早く給料をもらって訓練期間を終えてしまいたかったから、そう言ってみたのにすぎなかったんだ。

ぼそっと池井多:あははは…

ギード: パソコンを買うお金さえもらえれば、もう十分だと思った。ぼくは、その2ヶ月半の訓練でグッタリ疲れ切って、それが終わってからは、またガッツリとひきこもったよ。

ぼそっと池井多:  その支援事業というのは、財政的にどういうふうに支えられているのかな。受けた人は450ユーロ支払われると、さっき君は教えてくれたね。財源はどうなっているんだろう。支援に申し込むときに、きみか、お母さんがいくらかお金を払ったの。

ギード:  払わないよ。申し込みは完全に無料だ。だって、政府の事業だもん。支援をおこなっている事業体「ポール・アンプロワ」は国家機関の端くれだし、必要経費は税金によって賄われる。こういう公共事業は、失業者とか、不登校とか、ニートとか、お金を稼げない人たちを対象としているんだから、有料にしたら誰も来なくなっちゃうよ。

ぼそっと池井多: 言われてみたら、そうだな。でも日本では、お金がない人を喰いものにする事業もたくさんあるものだから、念のために訊いてみたんだよ。えへへ。

 

・・・「ギードの場合 第3回 なぜひきこもったのか」へつづく

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