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私がまなざしに苦しまなかった外出先5選 トーキョー・ヒキコモリ・ウォーカー

 

(文 喜久井ヤシン)

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ほぼすべての人の役に立たないお出かけ情報を紹介

 通り過ぎる人全員が、自分をテストしているように感じることがある。視線が針みたいに突き刺さって、自分の顔や身振りは、すべてがおかしいと思われてくる。人からのまなざしは痛い。とはいっても、一歩も外に出たくないわけではない。ずっと部屋に閉じこもっていて居心地が良いわけでもないし、親と同じところに居たくない心境もある。まなざしに苦しまない外出先を見つけることは、私にとって喫緊の課題だった。

 今回は、視線恐怖や対人恐怖的なものがある中でも、最低限耐えることのできた場所をいくつか紹介しようと思う。一種のお出かけ情報になればと思うけれど、外出が困難な時の外出先、という矛盾した企画ではある。そもそも悩んだことのない人にとっては、何でこんな特集がいるのか理解できないかもしれない。さらに私が東京で育ってきたため、リストの中には都市部にしかないものを含んでいる。結果、ほぼすべての人の役に立たないまとめ情報ができあがっているかと思う。 

 

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#01 名画座

 一か所目は名画座。通常の映画館だと、カップルや親子連れでにぎわっており、設備やスタッフもキラキラしている場合が多い。しかし旧作を上映している名画座であれば、客層が異なっており、せかせかした雰囲気も少ない。
 個人的なお気に入りは、新宿区にある早稲田松竹。チケットは自動券売機で買えるため、受付に顔を見られる心配がない。うつむきながら館員の前を通り過ぎ、すみやかにうす暗い場内へ入れば、人と目を合わせなくてすむ。すいていることが多いため、背後からの視線で緊張しないよう、一番後ろの座席に座ることもできる。一日のうちの最後の上映作品だけを鑑賞する場合、800円で鑑賞できる「ラスト一本割」があり、財布にもやさしい。(とはいっても、無職の私には奮発せねばならない額だけれども。)
 二時間ほどのあいだは、自分を責めることを休んで、スクリーンの中の物語に没頭することができる。体がぐったりしていても、目だけ開けていれば観たことにできて損はない。外出先兼家からの避難先としては、比較的リラックスすることのできる場所かと思う。

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#02 一人カラオケ専門店

 歌うか悲鳴をあげるかしたくなった時には、一人でカラオケ店へ行くことがある。行き先は単なるカラオケ店ではなく、都内に複数ある一人カラオケ専門店だ。店内に入っても騒いでいるグループがおらず、ドリンクバーのセルフサービスなので、店員もウロウロしていない。他のお客とすれ違う時にはビクッとなるけれど、相手も間違いなく一人客のため、通常のカラオケ店の緊張とは異なっている。友達同士・恋人同士で来ている人がいない空間なので、「お一人さま」を気に病むことはない。

 デメリットとしては、会員登録の際に身分証の提示が必要で、店員とやりとりせねばならないことがあげられる。カラオケ店で働く人の中には、チャラチャラした感じの人がいるので警戒することもあった。けれどそれを乗り越えれば、プライベートな空間が待っている。あとは中島みゆきの「誕生」を泣きながら歌うだけだ。

(参考 「『糸』は論外。ひきこもり目線で選ぶ中島みゆきの三曲」) 

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#03 大学構内

 私はこれまでに職務質問を二回受けたことがあるけれど、それはどちらも平日の昼間だった。挙動不審で全身黒の服装をしていたため、警官も見逃せなかったのだろう。街中や公園を歩きたいと思っても、それが平日の昼間で、特に成人男性だと「不審人物」になってしまう。
 散歩できるような広い場所で、公園のように緑が多く、なおかつ職質を受けにくい場所はどこか……。私なりの解答としては、「出かけない」ということが一番で、二番目の答えに「大学構内」をあげる。
 決定的なのは、平日の昼間に私服でいても怪しまれないところだ。東京大学早稲田大学のキャンパスなどは、適度に閑散としているため、公園よりも歩きやすい。時に誰でも参加できる無料講座を開いているので、それを目的にすれば外出のきっかけにもなる。(やろうと思えば本講義のモグリもできるだろう。)

 けれどデメリットもある。私は学校に関して心的外傷を負ってきた。気力がない時には学校に近づくだけで心筋梗塞のようになるため、体調と時機をうかがわねばならない。それ以外では、(うまくいっている人たちへの憎悪を別にすれば、)建物が綺麗だし、眺めも良い。散歩コースにできると思う。

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#04 名曲喫茶

 中高年世代でなければ存在を知られていないけれど、名曲喫茶というものがある。レコードが高価だった時代に、良質なオーディオでクラシック音楽を鑑賞するためにできた喫茶店のことだ。渋谷にある老舗「ライオン」をはじめ、都内ではまだ十店ほど確認できる。
 クラシックがただのBGMになっている店もあれば、昔ながらの私語厳禁の店もある。
 私の知る限りもっともストイックなのは、文京区本郷三丁目の「カデンツァ」だ。これは例外的に新しくできた名曲喫茶で、内装は潔癖でモダンな作りになっている。音楽を聞くための空間なので、注文の時も声を出さずにメニューを指させばいい。座席はすべてオーディオ(数百万円相当)を向いているため、視線がすべて一方向になり、他の来客と視線があわない。疲れ切った顔で呆然としていても、店内が暗いので周りからバレにくいという利点もある。クラシックが苦痛でなければ、コーヒー一杯の値段で数時間居座っていられる所だ。
 コストパフォーマンスが良く、居心地の悪くない外出先として、名曲喫茶くらいのところはなかなかない。(行きたい人がどれだけいるか疑問に思いつつ、オススメする。) 

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番外編 満員電車

 不社交的な生活をしていると、何年も人の体にふれることがない。私の家にはペットもいないので、他の生き物の体温を感じたり、不測の動きに合うこともない。
 そんな中、例外的に生き物の体と密着するのが満員電車だ。都市部の朝夕の電車に乗れば嫌でも経験できる。混んだ車内では誰も自分の外見のことなど気にかけないし、そもそも身動きがとれないので見えない。
 作家のエリアス・カネッティには、群衆について研究した著作がある。それによれば、群衆の中にいることで、自分と他人との境界線を失う心理状態があるという。満員電車は、大勢の人が半ば感覚をマヒさせて、黙って長い時間揺られているという空間だ。ぎゅうぎゅう詰めになって周囲の人と一体化するというのは、個人的には不愉快さの感覚だけではない。自室に閉じこもっているだけでは感じることのない、生命的な力動を経験しうると思う。

 ただ、わざわざ乗りに行きたいかというと、まったくそうは思わないけれども。

 

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#05 墓地

『二十分も墓地を歩いてみるんだね。そうすれば君の悲しみは消えないにしても、ほとんど乗り越えられていることに気づくよ』 ――E・M・シオラン

 「まなざしに苦しまななかった外出先」、最後を飾るのは墓地だ。敷地が東京ドーム27個分という多磨霊園をはじめ、都内には広大な墓地が多数ある。墓地では誰もはしゃいでいないし、デートしていない。仕事中の会社員もいなければ、職務質問してくる警官もいない。清潔な園内は電線がないので空がよく見え、人生の無常観まで感じられてくる。散歩というには不謹慎だけれど、外出時の緊張をやわらげる条件がそろっている。

 それに著名な故人への墓参は、外出の動機として十分ではないだろうか。私が多磨霊園へ行った時には、三島由紀夫の墓に手を合わせてきた。他にも岡本太郎江戸川乱歩等の墓があり、思い入れのある人に花をたむけることができる。

 私は外を歩いていて、理由もなく涙のこぼれてくることがたまにある。(それがどこまで情緒不安定なことなのかはともかくとして、)霊園の中であれば、絶望の表情で涙を流していても不自然でない。むしろ墓地にもっともふさわしい心身状態ともいえる。

 ――私は墓のあいだを歩きながら哲学する。成功も失敗も帳消しにして、膨大な数の人々がこの世を去っていった。それを思えば、自分の一生の出来事なんて実に小さなものにすぎない。そうであるならば、今生きている自分が、もう少し幸せになることを許してもいいのではないか。もう少し楽になって生きてみてもいいのではないか――。そんな思いを浮かべつつ、私は墓地からの家路につく。(もしくは、単に人生など無意味だと憎みながら帰る。)

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 「まなざしに苦しまななかった外出先」の紹介は、ひとまずこれで以上となる。都市部であれば、何らかの居場所や自助会の開催は多い。私はそれらも生活の一助になったけれど、人と会うことが耐えられない時もある。一人で部屋にいることも、誰かの目線に晒されることも耐えがたいという時、ここに挙げた場所はささやかな救いになってきた。どうやって毎日の時間をやりすごしてきたかの、個人的な実践の記録にもなったように思う。なので、お出かけ情報としてはやっぱり役に立たないだろうとあらためて思う。

 

 施設情報

早稲田松竹
住所:新宿区高田馬場1-5-16
料金:一般 1,300円、学生1,100円、シニア・小学生900円(すべて二本立て料金)。
各種割引あり。
早稲田松竹 OFFCIAL WEB SITE http://www.wasedashochiku.co.jp/

ひとりカラオケ専門店 ワンカラ
ホームページ https://1kara.jp/
※筆者が行ったのは「ワンカラ」の上野店(東京都台東区上野6-16-15 4階)。料金は平日(月~木曜)30分450円など。ヘッドホンレンタルをする場合別途料金が必要。

名曲喫茶 カデンツ
住所:文京区本郷7-2-2本郷ビル地下1階
営業時間:平日 14:00~22:00 土・日・祝 14:00~20:00
ホームページ http://music.geocities.jp/cafe_cadenza/

多磨霊園
住所:東京都府中市多磨町4-628
開門時間:季節によって時間が異なる
都立公園公式サイト「TOKYO霊園さんぽ」 http://www.tokyo-park.or.jp/reien/park/index077.html