ひきポス -ひきこもりとは何か。当事者達の声を発信-

『ひきポス』は、ひきこもり当事者、経験者の声を発信する情報発信メディア。ひきこもりや、生きづらさ問題を当事者目線で取り上げます。当事者、経験者、ご家族、支援者の方々へ、生きるヒントになるような記事をお届けしていきます。

ひきこもりとは無関係な人たちの前で「ひきこもりとは何か」を語ってみた

自治会の集会所で「ひきこもりとは何か」について語ることにした。いや、語ることになってしまった。

 

自治会の新年会に参加したとき、となりにすわったお年寄りに「選挙に出るなんてえらい! もっとあなたのことが知りたいから、集会所でみんなを集めてひきこもりについて話したらどうだ?」と言われたのだ。

 

なるほど、それは妙案だと思った。いままでは行政やNPO法人などが用意した場でしかひきこもりについて語ったことがないし、見たことがない。ある意味、守られているために安心感がある一方で広がりに欠けている面は否めない。

 

一般の人はひきこもりなんて興味はないのだ。しかし、福祉や医療のほかにひきこもりを包摂するのは地域だと思う。地域がひきこもりを生んだ側面もあるが、受け皿としての可能性も感じていた。秋田県の藤里町はその一例だろう。

 

自治会という“アウェイ”の場で2時間ほどのトークイベントをする。遠慮なくひきこもり批判をしてもいい。
「自衛隊に入れればいい」「家から放り出すべきだ」……etc

 

そういう意見もオーケー。かかってこいや!

 

うちの自治会は560世帯もある。人口にすれば1,200人くらいだろうか。ポスターが、主要な掲示板や団地の各階段の掲示板に貼られた。回覧板でも回される。全ての世帯の郵便ポストにチラシも入れられた。もうあとには引けない。

 

f:id:buriko555:20190318104833j:plain

(団地中のいろんなところに貼られたポスター。ふつうに学生も通る道なので絶対にネタにされている)

 

f:id:buriko555:20190318105001j:plain

(夜にみると、はまるでホラー映画のポスターのようだ。近所の人に「めちゃくちゃインパクトがある」と褒められた?)

 

講演会当日→チョー逃げたい

 

オーディエンスの半分近くが、僕が自治会の活動で知り合った人だった。

 

珈琲や手作りのケーキを用意してくれた方たちもふくめると、25名前後はいたと思う。さすがにあの集会所の大きさで30名以上は厳しい。

(※23名参加とのこと。それ以外に自治会長や自治会の役員、管理組合のえらい人をふくめると30人前後だと思います)

 

聴衆の年齢層は、30~80代までと幅広い(親と一緒についてきた小さい子どもはのぞく)。マスコミの方も来ていた。

 

正直、何を話すかまったく考えていなかった。ぶっつけ本番。やばい、どうしよう。その場で考えた。

 

まず、僕が障害者枠で働いたことから話を始めた。障害者枠で働くには、障害者手帳が必要なこと。でも、精神科にいくときに家族から反対があったこと。働けたのはいいもののパワハラにあったことなど。もちろん、マイナス要素だけ話したわけではない。

 

働くことは、殿上人がするようなことだと思ったけれど意外とできちゃったこと。社員もずっと働きっぱなしではなくテキトーにサボったりタバコ休憩を頻繁にする人が多いこと。ブラックな部分もあったけれど、それを一般化するつもりはないということ。

 

いったん休憩して第二部に入る

 

少し反省した。自分ばかり話している。白熱教室のマイケルサンデル教授のような授業の進め方をするつもりだったのに……。

 

というわけで、第二部では「質問がある人はいませんか?」と聴衆に投げかけた。一人が質問をすると連鎖的にみんな質問をするようになった。狙いどおり(にやり)。ここから会場に熱が帯びてきたような気がする。

 

やはり、聴衆も参加している感があるほうが盛り上がるし、話を傾けてくれる。

 

意外なのは、批判的なものが少なかったこと。あえて言うと、「仕事はつらいものだよ」くらいだろうか。もちろん、その通りでそういう意見はウェルカム。癒やし要素が強い居場所でわざわざそれを言いに来る人は無粋だと思うけど、今回のような場ではチョーOK。

 

歩み寄る大切さ

 

社会がひきこもり以外の人でほとんど構成されているわけで、どこかでこちらから歩み寄る必要がある。

 

だけど、当事者は弱者である。弱者に対して傷つくことを言うのはいけない。傷つく基準は当事者が決める。そして、社会の基準は当事者スタンダードであるべきと言い出したら、たぶん決裂する。

 

だって、ほとんどの人はひきこもりがどうなろうと知ったことではない。そんなことより夕飯の献立のほうが気になる。

 

こちらが歩み寄るということは、すべてを相手に投げるということではない。歩み寄った人間に対し、相手も歩み寄ってくれる可能性が高まる。そうでない相手も当然いるだろうけれど、それはどこの世界でもあるんだと思う。

 

幅広い年齢層の方が25名前後も参加してくれたのは大きい。彼らが家族や友人に今回の話をしてくれたとしたら? かりに3人に話をしたら、100人がひきこもりについて少しのあいだだけでも意識がいくようになる。

 

一番怖いのは、無関心だ。それをふせぐ試みとして、今回の講演会は成功だったと思う。

 

※なんと近所のタバコ屋さんがスポンサーになって一万円を出してひきポスを買ってくれた。そのひきポスを参加者に配ってくれた。ありがたいことである。

 

執筆・写真 さとう学

 

1977年生まれ。 小学生のときに不登校。中学で特殊学級に通うものの普通学級への編入をうながされて再び不登校。定時制高校に進学するが中退してひきこもる。

 

大学を一年で中退してしばらくひきこもる。障害者枠で働き始めるがパワハラをうけてひきこもる。2017年にひきこもり支援を訴えて市議選に立候補。落選して再びひきこもる。

 

noteで「ひきこもり男子の日常」を毎日更新。絶対見ちゃダメ。恥ずかしいから→https://note.mu/buriko555