ひきポス -ひきこもりとは何か。当事者達の声を発信-

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一人一人が100%働けなくても、何人かで100%にする

(取材/編集 Toshi・石崎)

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前回

 

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ボランティアから正社員まで、柔軟な働き方を用意

 

質問:「めちゃコマ」で働きたいという、ひきこもり当事者がおられたら、応募すれば働けるような仕組みがあるのでしょうか。

 

佐藤:何段階かの働く仕組みを用意しており、「サポーター会員、ボランティア、業務委託、アルバイト、正社員」の5つのステップで考えています。

 

一番ハードルが低いのが「サポーター会員」ですね。会員には、ご希望に応じて名刺をお渡しいたしますので、色々な活動を行えます。

 

その後はボランティア的に一緒に入っていただく形ですね。私たちは、ボランティアはすごく大事だと思っていまして、ひきこもり当事者の方が、いきなり正社員で週40時間働くのは、なかなか難しいという要望がございます。

 

自分が働けるかどうか、我々のメンバーとの相性が合うかどうかを、責任があまり高くない状態で入っていただいて、お互いの相性などを見極めていただいて、希望があれば、業務委託で仕事をお渡しします。

 

そして、やって行けそうというお話になりましたら、アルバイトとして、時給制でお支払いします。そこで実績を積んでいただいたら、正社員採用ですね。

 

これは個人個人で、どこで止まっていただいても良いと思います。正社員は厳しいからアルバイトとか、単発の仕事で、業務委託で月1回という形もあるでしょうし、お金をいただくことに抵抗感を感じる方もおられたら、そこはボランティアと、柔軟に対応ができます。

 

そして仕事の割り振りに関しては、社員で調整します。一人一人が100%働けなくても、何人かで集まって100%にしようよという発想で行きたいと思います。

 

質問:応募したい時は、ホームページからでよろしいですか?

 

佐藤:はい。サポーター会員の応募からです。

 

会社全体が自助グループの役割を持つ

 

質問:メンタル面のケアについて対策がございましたら教えてください。

 

山瀬:まず業務の基本は、オンラインのリモートワークを前提にします。

今はITの進化で、昔はちょっと難しかったことが、オンライン会議も含めて、リアルと同じように出来るようになっています。

 

労務管理という言葉が適切かは分かりませんが、定期的にオンラインの仕組みで、声かけをやっていければと思います。

 

もう一つはチーム化ですね。チームというと、日本だと集団主義と言われますが、最近は個人主義、自己責任、成果主義と言って、社員の成長を見守ることをせず、面倒見も悪くなっていると思うんですね。

 

僕自身が、会社で勤めていた経験から言いますと、本当は一人一人、ちょっと声をかけていれば辞めずに済んだのに、一人で抱え込んでしまって、鬱になってしまう。

 

だから我々、当事者ならではのノウハウによる、こまめな声かけですね。的外れな声掛けは、うるさいだけなんです。

 

当事者は一人ひとり背景が違うので「私は当事者だから、あなたのことは何でも分かる」という勘違いはしないですが、皆に生きづらさがあると踏まえて声かけをする。

 

決して、自己責任という名目で、仕事を切り売りしているんじゃないという意味で、リモートワークでも機能する開発チーム、ビジネスを作りたいと思っています。

 

また、ひきこもりの仲間が増えてくる事で「こういうケースがあるんだ」という、ノウハウの蓄積をしたいと思っています。会社の業務の他に、発達障害者の労務マネージメントにも繋がると思いますので、これもノウハウとして、ビジネスの領域に入ると思います。

 

佐藤:補足として、メンタル面のマネジメントについて言いますと、ひきこもり当事者の、色々な自助グループがあるのですが、弊社の場合も、在籍している人間が当事者経験ありなので、この会社自体が自助グループ的になっていると思います。

 

その繋がりで、当事者経験に基づいた話をしたり、自分たちで出来ることは、自分たちでする事を考えております。もちろん専門的な精神疾患などが関わる時もあります。

 

その際は、外部で連携している「KHJひきこもり家族会連合会」さんのカウンセラーのお力をお借りしながら、対処する事もあると考えております。

 

プログラミング講座における「めちゃコマ」の特性

 

質問:この「めちゃコマ」では人材育成をして、人手不足のシステムエンジニア界に繋げて行くのだと思いますが、母体のフロンティアリンクさんで教育を受けて、ここで働けるようになった方にお尋ねしたいと思います。ここが一般の会社、学校の教育と、どう違うのかを教えていただきたいのが一点目です。

 

平野:「ウチらめっちゃ細かいんで」も、教育事業でプログラミング講座を行いますが、このフロンティアリンクの社会人向け教育システムを、基本的にそのまま使っています。

 

基本的にはビデオを見ていただいて、何か質問があったら、スマホで講師に聴けたり、あるいは地方では質問ボタンを押す形で、基本的に遠隔で対応しております。

 

これはすごく良いシステムだと思っていて、普通の学校だと、クラス30人に対して、1人か2人の先生が、全員にしゃべらないといけないわけです。

 

そうすると、生徒ごとに理解度の差があり、質問したい所も異なると思います。そして理解度の高い人に合わせてしまうと、理解度の低い人は、何を言っているのか分からないと不安を持つ。理解度の低い人に合わせると、理解度の高い人は退屈。

 

ビデオにすると、その両方の不安が無くなります。質問ボタンを押したら、講師はマンツーマンで、その人の理解度に合わせた対応ができます。自分の質問で、授業の進行をさえぎらない。これが、フロンティアリンクの社会人向けに提供している講座で、ご好評いただいている点です。

 

もちろんスタッフが24時間付いていることは難しいので、講師がいる時間に対応しますという事にはなりますが、いつでも質問が出来るので、理解度が低いままだとマズいのではという部分を、なるべく避けられるように、濃い密度で、なるべく満足度を高めて勉強していただけるシステムになっていると思います。

 

そして、プログラムの用語説明とか、文法の説明、こう書くんだよという部分は、基本的に、誰が説明しても同じになります。

 

その部分が講師によって変わってしまうという事は、講義の質が変わっているという事です。誰がやっても同じ部分は、受講者のペースでやっていただく。

 

知っている動画であれば、早送りで聞いていただいても構いませんし、何回か見てもいい。もちろん、ただビデオを見ているだけだと「eラーニング」と変わりませんので、講師が遠隔にいて質問できる、ハイブリッドの形ですね。

このシステムはアンケートでも、満足度や理解度が上がると、ご好評いただいている点です。

 

私は基本的にフロンティアリンク以外の経験が無いので、他社と比較はできませんが、普通の学校と比較して一番助かったのは、先ほどの通信制大学のお話と重なりますが、受講はいつでも良いんです。

 

昼間やっても、夕方やっても良いし、夜の2時、3時でもいつでも出来ます。質問を投げるのも、社内のSNSで投稿するのも、真夜中でも禁止していません。

 

また回答する側も、真夜中の2時、3時に質問が来たから、回答しないといけないかと言うと、回答しなくても良い。「この時間に質問しては悪いんじゃないか?」という物は、恐らく普通の学校や会社ではありうると思いますが、それを気にしなくて良いのです。

 

ひきこもり当事者は、やはり気を使いすぎる特性があると思うんですね、こんな質問をしては迷惑なのでは、とか。その特性は、細かい所で気を使えるという意味で、長所なのですが、それで自分自身の不安が増進されてしまっては良くないので。

 

だから質問は何時でも良いです、回答する側はいつでも良いですよ、と取り決めをすることで、必要以上の不安を感じさせない。それにより信頼関係を結びやすく、話しやすくする事で、関係を築きやすくなります。

 

岡田:まず教材が優れています。実務に即して作られていて、様々な団体、企業さんの研修に使われている物を使っています。

 

家にいなくても、パソコンとインターネットがあれば、いつでもどこでも動画を見られます。他にプログラミングの学習サイトがあると思いますが、そこは趣味的なものが多く、実務で役に立つように作られているのは少ない。その点でも、教材は非常に優れていると思います。

 

もう一つは、講師をひきこもり経験者がやっていますので、体調が悪いなどの事態につきましても、実体験に基づいて関われます。その意味で、かなり研修もフレンドリーになると思っております。

 

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「全てが100%出来なければ」から「得意、不得意があるのが普通」の新しい働き方へ

 

質問:こういう珍しい会社が出来ることで、客観的には、成果や業績が上げられるのかという所があると思います。具体的に、一年目でどれぐらいの成果を上げたいなどがありましたら、お願いします。

 

佐藤:「ウチらめっちゃ細かいんで」の収益は果たしてどうなのかという質問だと思いますが、正直、今のところは収益が出ることはあまり考えていません。社会から求められている物に対しては、利益は自動的に後からついてくる物だと思っているんですね。今はまだ、私が始めた実験的なものなので。

 

仮に、新年度に売上目標5000万と掲げても、それにどれぐらい意味があるのか?絵に描いた餅になっちゃうと思うんです。

 

この会社の本質は新しい働き方なんですね。今の社会に求められている人は、働くのなら100%何でも出来ないといけない、それ以外は働いちゃいけませんし、仕事先もありませんという所がある気がしているんです。

 

でも人間、デコボコがあるのが普通だと思います。得意なところを活かし、不得意をカバーしながら働く。週5日、40時間が難しい人でも、週一とかでも良いですよという、新しい働き方の実験だと思っているんですね。

 

そうした物が、きちんと社会から受け入れられて来ると、恐らくホームページの作成や、IT企業への社員の派遣などで、利益は後から付いてくると思うんですね。今はあえて目標設定せず、どう社会に受け入れていただけるのかを見極めて行きたい。それが本音ですね。

 

会社が1年、2年と続いて、ある程度回ってきた段階で、目標を考えることは出来るかも知れませんが、現時点では考えていません。それが出来るのは本体のフロンティアリンクが安定しているためで、そこでカバーできるかと思っています。それもありNPOではなく株式会社として、利益を求めていく団体ではありますが、まず実験的に環境を用意しました。

 

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すべてがすぐに解決できなくとも、最初の一歩を

 

質問:ひきこもりの定義については、人間関係があるか無いかで分けられると思いますが、仕事として、こういう形で就職できたとしても、リアルな人間関係が築けなければ、本当にひきこもりから脱出できたのか、ちょっと僕にとっては疑問がつきます。

インターネットを通しても関係はできると思いますが、本当にひきこもりから脱出するという意味での、ネットの先の人間関係の形成は、どう考えておられるのでしょうか。

 

山瀬:ネットだけではどうなの?という質問ですが、僕自身の経験では、ネットから始まって、そこで自信がついて、リアルの場に出られるようになりました。そういう人もいるのでは?というのが一点で、また仮に出られなくても、ネットでの関係性がある方が、全くゼロでひきこもっているより、良い状態なのではと思います。もちろん、それは解決では無いと考えていますが。

 

もう一つは、実際に繋がって物を作ることで、何らかのボランティアへの参加や、お礼、具体的な金銭報酬でもいいですが、それ自体は成功体験となって、自己肯定感が上がるきっかけになるのではないかなと思います。

 

平野:ひきこもり状態とは、一つは家で何もしないこと、もう一つは、人間関係が無いことだと思いますが、何事も同時に行うのは難しい。その両方を同時に解決しようとして、何かをしながら、しかもリアルでの人間関係を作るというのは難しいと思います。

 

「スモールステップ」という言葉があるんですが、いきなり大きい問題に取り組むのではなく、まずは分割して考える。例えば、人間関係が先にクリアできた場合はそれで良いと思いますが、それが難しい場合は、まずはこういう講座を受けて、それで、もしかしたら自信を取り戻して、本当に次に進めるかも知れないと思います。

 

リアルな人間関係については、私個人の考えとしては、確かに実際に繋がれた方が良いと思います。ただし、いきなりは難しいと思います。例えば交通費がかかるとかの問題もあります。

 

ただし、何かしら、自分の行動に反応があるのは非常に大事で、弊社のイメージキャラクターの「めちゃコマ」は、元ではなく、現在の当事者の方が、まさに書いてくださった作品です。

 

私はその人とは、お目にかかったことが無いのですが「凄いですね」と言いました。わたし、本当に凄いと思ったから、そう言ったんですよ。そして「ありがとうございます」と言ってくださった。そういう関係性があると思うので、必ずしもバーチャルな人間関係が不足か?というと、100%では無いですが、少なくとも50%ぐらいはある。そして、そこから成長していく可能性もあると思います。

 

岡田:ひきこもりから出る、出ないも重要ですが、出られるか出られないかを、自分で選べるのが大事だと思っていて、その一助としてインターネットの繋がりがあるのではないかと思います。

 

質問:資格の勉強には脱落者が出て来ると思いますが、それが成功体験ではなく、失敗体験として、ひきこもり当事者にとってマイナスに影響する可能性について、どう対策を考えておられますか。

 

佐藤:全員が全員、プログラムを身につけられるわけでは無いと思っています。ただし、この会社には色々な可能性があると思っています。

 

この新しい会社のポイントとして、今回はITという分かりやすい切り口で話をしていますが、それ以外にも、ひきこもり当事者に向いた仕事が、色々あると思っています。

 

その可能性を、逆に講師や受講生など、当事者からも伺えたらと思っています。例えば、自分達はこんな仕事なら出来るという声を集めて、じゃあやってみましょうと。

 

決して、我々の考えている事だけが全てとは思っていません。ひきこもり当事者の方、そうでない方、皆さんからもご意見いただきながら、こういう形があるのではと、当事者の皆さんと我々で、一緒に成長できればと思っております。

 

そして、「自分はこれやってみたかった、でも上手く行かなかった」という事は、当然あると思うんですよ。それは失敗ではなく、学習と思っていただけるようなサポートをして行きたいと思っています。

 

世の中でよく言う失敗は、つきものだと思うんですね。失敗と捉えるのは本人次第と思いまして、本人が失敗と思わなければ、それは失敗じゃなく学習になると思うんです。

 

例えばプログラムをやってみたけど、上手く行かなかった。なら他の選択肢が提示できればと思います。希望的観測ですが、いつか何か、その方にフィットする物が見つかるのではないかと、私は考えております。

 

(終わり) 

 

 「(株)ウチらめっちゃ細かいんで」公式サイト

 

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