カトーコーキさんのデビュー作「しんさいニート」(イースト・プレス)は、3・11の震災で、福島の故郷を失うところから始まり、やがてうつを発症し、自分自身の半生と向き合っていく。正しさを押しつけてくる父親との葛藤など重厚な読み応えのエッセイ漫画です。なぜこの漫画を描こうと思ったのかインタビューしてみました。
漫画を書くきっかけ
うつになった時、カウンセラーさんに「とにかくやりたい事をやって下さい」と言われたのが始まりです。
きっと生まれ直したかったのだと思うんです。厳しかった父は、自分のルールや価値基準を押しつけ、逸脱を許さず、常識的な成功を求める為、ボクは失敗を許されなかった。
例えばギャグを言ってスベることが許されなかったら、人を笑わそうとギャグを言わなくなりますよね。常に「ダメだったらどうしよう?」と考えると、何事にも夢中になれない。余力を残して、「最初からやる気なかったし」と逃げ道を作るのが、自分を守る鎧。でも生まれ直すには、その鎧をすべて脱がないといけなかった。
うつになった事、恋人にやってしまった事、仕事を辞めてニートになった事は、非常に恥ずかしく、およそ他人に言えるような事ではありませんでしたが、包み隠さずケツの穴まで見せる事が生まれ直すために必要でした。恥部をさらして自分の人生を表現したいと思った時、僕にとっては漫画が一番適していたんです。
カトーコーキさんの当事者体験
10代以前から幸福感を得られない苦しみと、良い子を演じないといけないという気持ちがありました。苦しさを自覚していなくて、人間関係が上手く作れないのは何故?と、頭の中で反すうしていました。
父親の教育で「考えない事は罪」と植えつけられ、ひたすら考えて原因を突き止めようとしますが、解決法が出なくて同じ事を繰り返す。「否定されて育っているので、他人を否定する事でしか自分を肯定できない」悪循環に陥っていたと思います。顕著になるのが暗黒期のような大学時代。
東京なら何かあると思って上京して、好きな音楽をやっと始められましたが、結局、自分を肯定できなくて苦しむ。他人との境界線も上手く引けず、閉鎖的、排他的に。どんどん心が暗くなり、内にこもってぐるぐるやっていた。
僕は「心を閉ざしているけど、人の輪の中にいたい」面倒くさいタイプで、中身は空っぽだから、自分を守るために表面を繕っている。そして大学でも高校でも、女性に依存していました。相手が好きだと言ってくれる事で自分を肯定していましたが、自分が父親にやられた事を彼女にやってしまい、婚約者と破局。それで決定的になります。自分を愛せていない人間は、他人を愛せないのだと。
それが父親との関係が原因と突き止めても、解決策だけが見出せない。幼少期からの失敗を取り返そうとしても生殺しみたいに苦しんで。そして震災、原発事故と生活環境の変化で、膿が一気に吹き出しました。
自分を責めることはない
ひきこもっている人の原因は「自己否定」が大きいと思っています。自分が悪いと思いがちですが、実は育っている環境に原因がある事が多く、また親が悪いかというと、親も否定されて育っている可能性が高いんです。ボクが、もしかしたら自分のせいではないんじゃ?と思ったのは、どん底まで落ちたからです。衝撃的な出来事がない限り、生殺しの状況が続くかもしれませんが、あなたじゃなくて環境が悪いのだから、改善できなくても自分を責める必要はないと強く言いたい。
僕らがコントロールできる「自分」は、心で言えば「意識」のみで「無意識」はコントロール出来ない。その「無意識」をコントロールするため、プロの力を頼るのは決して恥ずかしい事では無いし、その行為が苦しんでいる人を幸せに近づけると確信しています。僕らは不幸になるために生まれたのではないし、笑って幸せになって良い。それは叶えられる事だと思うんです。
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