ひきポス -ひきこもりとは何か。当事者達の声を発信-

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ワケあり女子のワケのワケ⑫ 教師がくれた手紙と差別

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こんにちは!ワケあり女子です。
世間はお盆休みのようですね…お盆とか関係なく常に休んでいたいです。
平成最後の夏とか言われても特にやることないですね。
てかいろんな事情で来年以降も各所で平成使われ続けるんですよね?
じゃ別にいいじゃん!と開き直っております。
ひきこもってていろんな卒業年が人と違って元号計算が大変面倒くさいんですが、
さらに面倒になるのかと思うとなにやら感慨深いです。
元号計算のウェブサイト作ってる方には感謝しかありません。

それでは「ワケあり女子のワケのワケ」、今週もお楽しみください!

 

www.hikipos.info

(これから記述するひきこもり期、おもに15歳から18歳頃までの出来事については、
 本人の記憶が曖昧なため、時系列など一部正確でない可能性があります。)

 

 手紙が重くのしかかる

相変わらず学校に行かずひきこもっていた、17歳前後の交友関係を思い出してみる。
これも記憶が曖昧なのだが、とても複雑な感情を抱いていたように思う。
かろうじて繋がっていた携帯電話を通じて何人かの友人が連絡をくれていたが、
私はそれに応えられないことの方が多かった。
実家の田舎の電波がとてつもなく悪かったという物理的事情もあるが、
(メールは数時間遅れで届くのが当たり前だった)
やはり精神的に辛くて、携帯の電源を切って押入れの奥に封じ込めていた時期もあった。

高校の友人はほとんどいなかったが、
自らも摂食障害だったというクラスメイトから担任を通じて手紙をもらったことがある。
嬉しいのか苦しいのか自分でも判別がつかないまま、結局彼女には返事もせず会わずじまいとなった。

母の知り合いの娘さんで、私と同世代の不登校の子からも手紙をもらった。
彼女もずいぶん人との交流がなく、
「できれば会いたい」という内容だったように記憶しているが、それにも応じることができなかった。

似たような境遇の人には「私に救いを求めないでほしい」と当時は思っていた。
会っても私にできることはないし、自分の話を聞いてもらえるなんて考えもしなかった。

私に向けたあらゆる提案が当時は重く感じたし、
普通に学校に通っている友人たちは眩しすぎて、会うどころかメッセージを読むのも辛い。
自然と、一緒に憂さ晴らしをしてくれそうな、
夜遊びをたくさん知っている友人たちとの付き合いが濃くなった。
真っ当な世界ではない場所に居場所を求めたかったのだ。

「女は結婚すればいい」?

そんなある日、下宿先の部屋に担任の教師が様子を見に訪れた。
以前から相談室に出入りしてくれていた彼とは、なんとか顔を合わせて話ができる間柄だった。
学校に来ていない私を特に責めはせず、他愛ない世間話や父の話をした。
最近読んだ本とか、興味があることの話などもした。普通に楽しい会話だった。
が、その流れの中で、ごく自然に、当たり前のように、こんなことを言われた。

「まあ、外に出ないと結婚もできないからな」

あまりにナチュラルだったので一瞬聞き逃しそうになった。
しかし直後の一言が決定打となった。

「せっかくそんなにきれいな容姿をしているのに」

おそらく褒め言葉のつもりなんだろう。
でも明らかにいま私はおかしいことを言われている。
聞き逃したり、忘れたりしてはいけない、と思った。

他愛ない会話をしながらもそれとなく、
私の進路や将来や人生のヒントになる話題に繋げてくれていると思っていたのに、
なぜ彼はいきなり結婚の話を出してきたのだろう?

「女は学校に行かなくても、結婚すれば人生なんとかなる」と言われたも同然だと思った。
しかも「見た目が美しければ結婚できる(=そうでなければ結婚できない)」
という容姿差別までついている。

私が進学を希望していて、成績もさほど悪くなかったことを知っている、
福井県でいちばん進学率の高いの高校の教師に、そんなことを言われたのが信じられなかった。
女子の進学に、少なくとも地元ではもっとも理解あるはずのこの学校の先生でさえそうなら、
他校の教師や、あるいは世間一般ならどうなってしまうんだろう?

そう思いを馳せた途端、これまでの様々なエピソードが一気に胸に溢れかえってきた。
どれだけ勉強して成績を維持しても(成績トップ層はだいたい女子だった)、
何かにつけて「女の子だからね」と言われてきた。
女の子の学費が出し惜しまれるなんて当たり前で、
男兄弟は進学させてもらえるけど、
女である自分は諦めなければいけない…という話は本当にたくさん聞いてきた。
あまりにも当たり前すぎて、女の子たち自身もその価値観を内面化してしまっていた。

幸い私は一人っ子だったうえに、
私の父が、能力がありながらも家庭の事情で進学を諦めた人だったので、
私の進学を昔からとても応援してくれていた。
だからいまこの瞬間まで、自分はそのような価値観とは無縁で生きてきた、と思っていた。
でもそうじゃなかったんだ。
親は理解してくれていても、様々なところから様々なものを浴びせられていたんだ。
私はただそれらに気づかないふりをしていただけなんだ。

現代の世の中は男性も女性も平等ですと学校で習ったのに、
男女差別なんて昔のことだと思っていたのに、
全くそうではない現実に直面し、困惑した。
それはまるで呼吸をするかのように、人々の身体と意識の深いところにいまも根づいている。

目の前の男性教師は、自分がたったいま女性差別をしたなんて夢にも思わぬ顔をしていた。
その日の夜は眠れなかった。

(つづく)
(著・ワケあり女子)