ひきポス -ひきこもりとは何か。当事者達の声を発信-

『ひきポス』は、ひきこもり当事者、経験者の声を発信する情報発信メディア。ひきこもりや、生きづらさ問題を当事者目線で取り上げます。当事者、経験者、ご家族、支援者の方々へ、生きるヒントになるような記事をお届けしていきます。

君に届け~ポケモンGOが僕にくれた最高のギフト~

f:id:buriko555:20181017152609j:plain

 

ポケモンGOでひきこもりから抜け出したというニュースを聞いたことがある。眉唾に思う人もいるだろう。僕もその一人だった。でも、単発であれば抜け出すことができたんだ。ソースは僕だ。

 

二年前だったと思うけれど、ポケモン目当てで生まれて初めて上野にある不忍池(しのばずのいけ)に行った。

 

当時、世界遺産に登録されたばかりの西洋美術館を鑑賞したあと、おもむろにスマホを取り出した。対照的なカルチャーがぶつかり合い、融合する場所に自分がいることがとても不思議だった。

 

ポケモンGOを起動させた。……ポケモンって、面白(おもしろ)! 

 

さらに面白いのは、大のおとなが自分たちのスマホを見て一喜一憂していることだった。スマホとタブレットの二台持ちという強者がいた。ポケモンの位置がわかるアプリがあるらしく、ポケモンを見つけては走りだす、がきんちょ軍団も存在感があった。

 

酔っ払いやゴミのポイ捨てをしている人が多かったらしく、いまの不忍池ではポケモンGOは禁止になったという。

 

あのときの喧騒をリアルタイムで見ていたけれど、なんかホッとした。みんな、ちゃんとしていないじゃん。社会人として常識だという言葉に萎縮していたけれど、完璧な人間なんていないじゃん。

 

僕のほうがマナーが良く、礼儀正しいことが証明されたと思った。変な話だけど自信になった。

f:id:buriko555:20181017152805j:plain

 ポケモンGO セカンドシーズン

しばらくポケモンGOから離れていた。飽きたってわけじゃないけれどなんとなく。そういうことってあるんだ。タイミングが合わなかった。ただ、それだけだ。

 

社会復帰にむけていろいろ準備を始めていた。ウォーキングもそのひとつだった。千里の道も一歩から。フツーの人にとっては小さな一歩だけど、僕にとっては大きな飛躍なんだ。

 

どうせならポケモンGOをプレイしながらのほうが散歩もはかどると思って再開した。ひさしぶりのポケモンGOは、アップデートしまくっていて様々な機能がついていた。フレンド登録という機能まであった。

 

SNSを通じてフレンド募集した。嬉しいことに何人ものフレンドができた。フレンドと言っても、言葉をかわすことはできない。できるのは、アイテムの詰まったギフトを贈ることくらいだ。

 

僕は、地元のポケストップで手に入れたギフトを贈った。そうすると、相手からギフトが贈られてくることがある。東京や愛知や茨城などで手に入れたギフトだった。もちろん、相手の顔も名前もわからない。でも、遠く離れていても存在を身近に感じることができた。 

ウォーキング・デッド

f:id:buriko555:20181017152937j:plain

 今年の夏は記録的な猛暑だった。僕のおさんぽ計画も頓挫しかけた。無理やり歩く姿はまさにゾンビ。ウォーキング・デッドだった。

 

暑いんだから仕方がないと思えなかった。ダメ人間だから歩けないという風に考えてしまう。ダメだな。

灼熱の太陽で自分のダメな部分を燃やしたい気持ちがあったけれど、あきらめることにした。

 

夏という季節は好きだ。その暑さは天然の精神安定剤のようで、よけいな思考力を低下させてくれる。それでも今年の夏はきつかった。ドバイ、ドーハ、デスバレー、クマガヤ……。日本の暑さもワールドクラスになってきた。オーケー、素直に認めようじゃないか。

君に届け

 夜に散歩をすることにした。湿気が不快だったけれど昼間よりもいくぶんマシだった。歩くことで頭と身体のバランスが取れていくような気がした。からだからあふれ出す汗が、不安や恐怖を洗い流してくれるようだった。

 

散歩をしながら次々とポケモンをゲットしていく。ポケモンGOプラスというデバイスを利用することで、わざわざスマホを見るために立ち止まる必要がない。

 

一休みするために公園のブランコに腰をかけた。ふと空を見上げると無数の星が輝いていた。いくら手をのばして決して届くことはない。自分と社会の距離を思わせ、悲しくなった。気づくと涙を流していた。

 

ポケモンGOを起動した。ピカチュウが愛らしくほほえんでいる。スマホの明かりがうす暗い公園をほのかに照らした。

 

あるフレンドから東京のギフトが届いていた。相手の言葉は届かない。でも、気持ちは届いている。また、涙があふれてきた。涙に色はないけれど、今度の涙はうれし涙。

 

東京近郊に住んでいることしかわからないフレンド。どんな名前なのだろうか。どんな顔をしているのだろうか。アバターをみると女性なのかもしれない。

 

時々、この人が何者か気になることはある。でも、何者でなくてもいいんだ。世界のどこかに僕を気にしてくれる人がいる。それだけで十分だ。

 

僕もギフトを贈りかえし、星空につぶやく。

 

「君に届け」

f:id:buriko555:20181017153011j:plain

 

 執筆・イラスト さとう学

(Twitter:@buriko555 )

1977年生まれ。 小学生のときに不登校。中学で特殊学級に通うものの普通学級への編入をうながされて再び不登校。定時制高校に進学するが中退してひきこもる。

 

大学を一年で中退してしばらくひきこもる。障害者枠で働き始めるがパワハラをうけてひきこもる。2017年にひきこもり支援を訴えて市議選に立候補。落選して再びひきこもる。