ある日、障害者就労支援センターの結衣さん(仮名)からこんな話をされた。
「ご家族が学さんの病気に理解がないと仕事を続けるにあたって弊害になるかもしれない。だから、一度話がしたい。それから、お家の経済的な状態も聞きたい。いまの生活がどれくらい続けられるかどうか判断したいから。それによって働き方も変わってくるし、福祉サービスの利用も検討できる」
兄は神奈川に住んでいるため、結衣さんが会うのは難しい。だから、姉に頼んだ。姉は近所に住んでいるし、距離的にじゅうぶん可能だ。しかし、忙しいからと断られた。
「1時間ていどで済むらしいんだけどその時間も取れないのかな」と僕。
「取れない」と姉はつめたく言い放った。
姉は市内でソーシャルワーカーの仕事をしている。そのため、障害者就労支援センターの職員と顔を合わせたくないのが本音だと思う。仕事の関係でその人たちと顔をあせたら気まずいのだろう。
家族に福祉の専門家がいてもなかなか僕が福祉につながれなかった理由のひとつだ。
亡くなった母は保健師だった。僕が医療にかかることをずっと反対していた。最終的に医療につながることができたが、それまでに膨大な時間を無駄にして病気も悪化してしまった。
そのため、医療・福祉という飛車角落ちでこの生きづらい世界を生きてきた。ハードモードが生ぬるく感じるナイトメアモード。だけど、悪夢じゃない。現実なんだ。
我が家のトランプ
ラスボス的な存在の父に話すことになった。できれば姉に話を通し、外堀を埋めてから父を攻略したかった。ファイナルファンタジーⅢの最後のダンジョンなみに難易度が高いミッションに挑むことになった。
父に障害者就労支援センターの職員に会ってくれないかとその理由をふくめて話を切り出した。
「そんな連中と会うつもりはない!」と父は怒りはじめた。
僕はとまどった。就労センターの職員に会うことがそんなにいやなのだろうか。父にどんな不利益があるのだろうか。
「障害者なんて生きているほうがおかしいんだ。本来なら淘汰される存在だ。とにかくそんな連中と会うつもりはない!」父は興奮しながら怒気をおびた声で言った。
僕はひどくショックをうけた。
いま目の前にいる、あなたの息子も淘汰される存在なのか。福祉施設で知り合って僕をはげまし、勇気づけてくれる障害者の仲間たちも淘汰される存在なのか。
その夜、僕は自殺をはかった。
遺言代わりのメール
睡眠薬をたくさん飲もうとしたがすごく難しかった。のどに引っかかる感じがして不快だった。水もそんなに飲めない。死にたいのに不快なのはいやなんて人間はなんてわがままなのだろう。衝動的に死のうと思ったが、薬を飲むのに手間取ったせいか徐々に冷静になってきた。
このまま死んだら僕のお金の大半は父のもとにいってしまうのではないだろうか。あんなやつにお金がいくのは死んでもいやだ。遺言代わりにひきこもり自助グループのボランティアのNさんにメールを送った。
「今から死ぬんですが頼みがあります。僕の財産を姪っ子の学費に使うように周りに伝えてください。遺言の代わりになるかわかりませんがお願いします。父には絶対にお金が渡らないようにしてください」
というような内容だったと思う。
後編は、11月5日(月曜日)が更新予定となっています。
ひきこもりだった僕が、なぜお金をもっていたのかその理由が明らかになります。宝くじに当たった? だれかの遺産? 竹やぶから一億円が入ったカバンをひろった? 後編の公開を待つんだ。
そして、このまま死んでしまうのか。いや、生きているからこうやって記事を書けるんですけどね(笑)。次回の更新をお楽しみに!
執筆・イラスト さとう学
(Twitter:@buriko555 )
1977年生まれ。 小学生のときに不登校。中学で特殊学級に通うものの普通学級への編入をうながされて再び不登校。定時制高校に進学するが中退してひきこもる。
大学を一年で中退してしばらくひきこもる。障害者枠で働き始めるがパワハラをうけてひきこもる。2017年にひきこもり支援を訴えて市議選に立候補。落選して再びひきこもる。