ひきポス -ひきこもりとは何か。当事者達の声を発信-

『ひきポス』は、ひきこもり当事者、経験者の声を発信する情報発信メディア。ひきこもりや、生きづらさ問題を当事者目線で取り上げます。当事者、経験者、ご家族、支援者の方々へ、生きるヒントになるような記事をお届けしていきます。

引きこもりの時間は、長い視点で見ればプラスになる

はじめまして。私は、安西直紀(あんざい なおき)と申します。
私は高校時代のある日、学校で学ぶ意味が分からなくなり不登校になりました。家族同士の関係もギクシャクする中で、10代から20代にかけて約3年間の不登校・ひきこもりとなり、その間に高校留年や大学中退を経験しました。
当時は、不登校・引きこもりの日々を光が見えないトンネルを彷徨うかのような暗黒時代であると感じていました。

しかし、今振り返ってみると、短い視点で見ればマイナスと捉えられがちな不登校・引きこもりも、長い視点で見れば大きなプラスになり得る可能性があると感じるようになりました。
この度、ひきポス編集部の方々とお会いする機会があり、当事者同士の繋がりが存在することに嬉しい驚きを感じて、私も原稿を書かせていただきたいと考えるようになりました。

当時の自分に向き合いながら書いてみたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。

 

 

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(文章、図:安西直紀)

 不登校時代の三権分立

思い返せば、高校時代に数学の授業で「サイン・コサイン・タンジェント」を学ぶ意味が分からなくなった私は、学校を休みがちになり不登校に突入しました。

もともと勉強があまり得意ではなく成績も低空飛行でしたが、義務教育ではない高校の授業において、人生で不必要に感じる勉強に時間を費やすことにフランストレーションを感じていました。

クラスの友人は皆、いい人たちではありましたが、学校で習う勉強についてどう思うか、テスト至上主義の教育システムについてどう感じるかなど、根本的な悩みや疑問点を相談できる人はいませんでした。(勇気を出して相談しても惹かれてしまう)


不登校に突入した私は、それ以来学校へほとんど行かずに、「深夜ラジオ」、「プロレス観戦」、そして歴史シュミレーションゲーム「信長の野望」の3つの趣味に特化した生活を送っていました。

これを私は「不登校時代の三権分立」と呼んでいます。 

弱小大名で徹底抗戦

「不登校の三権分立」の重要な一角を占める「信長の野望」は、これまで15作品もリリースされてきた歴史シュミレーションゲームの名作です。

シリーズの中で、特に「信長の野望 天翔記」にハマった私は、一日最大16時間プレイして8時間就寝する、円グラフが2種類で完結する日々を送りました。

 

ゲームの中で私は敢えて弱小大名を選択して、強い大名に徹底抗戦することが好きでした。

例えば、姉小路家や一色家といった在りし日の名家や、滅亡寸前時の尼子家でプレイして、鈴木重秀や稲富祐直をはじめとする鉄砲の名手と、風魔小太郎や百地三太夫といった「暗殺」が使える忍者や謀略に長けた武将を配下に加える。

そして、転戦を続けた後に上田城や月山富田城といった難攻不落の城に立てこもり、攻め寄せる巨大勢力に対して、奇策を持って少数精鋭の陣営で撃退する戦いに熱中しました。

 

「難攻不落の城で、巨大勢力に対抗して奇策を持って立てこもる」…。

 

もしかしたら、私はゲームで選択した弱小大名に思いを馳せて、不登校となった自分の姿を投影していたのかもしれません。

 

長い目で見れば、プラスになり得る

当時は、自分の中に人生の明快な目標や答えがあるわけではありませんでした。
また一方で、学校にも答えがあるとは全く思えない中で、悶々とした不登校・引きこもりの日々を過ごしていました。

当然のことながら、親に叱られ、先生に心配されて、友達からは変わった目で見られました。
自分の中で自問自答しつつも、学生の本分である「学問」をしていないことや、親が悲しい顔をすることに対して、後ろめたく、非常に心苦しくなる時もありました。

 

しかし、今思い返せば、周りに流されずに自分だけの時間を徹底的に過ごしたからこそ、今の自分があると、自信を持って言うことができます。

 

あの時、「信長の野望」を1日16時間もプレイしたおかげで、私の頭の中には日本全国の戦国武将と城の名前がインプットされました。

今も日本各地を訪れれば、その地で活躍した武将の顔が浮かび、どの出身地の人とも共通の話題で盛り上がることができます。

 

これは私が不登校・引きこもりを経験したからこそ、結果として得ることができた大きな副産物の一つです。

 

そして、当時一人きりになって自分とは何か、自分が本当に好きなことややりたいことは何かを問い続けて、悩み抜いた日々は全く無駄ではなく、自分の今や未来を構築する重要な自己研鑽の時間であったと断言できます。

 

短い視点で見ればマイナスと捉えられがちな不登校・引きこもりも、長い視点で見れば大きなプラスになり得る日々に昇華すると、私は思います。

 

執筆者 安西 直紀(あんざい なおき)
1980年東京生まれ。高校時代に「サイン・コサイン・タンジェント」を学ぶ意味が分からなくなり、不登校に突入。大学は取得単位ゼロで中退。約3年間の不登校・引きこもりの経験がある。左利き。