ひきポス -ひきこもりとは何か。当事者達の声を発信-

『ひきポス』は、ひきこもり当事者、経験者の声を発信する情報発信メディア。ひきこもりや、生きづらさ問題を当事者目線で取り上げます。当事者、経験者、ご家族、支援者の方々へ、生きるヒントになるような記事をお届けしていきます。

ぼそっと池井多さんの活動まとめ 1本のキュウリから「世界のひきこもり」まで

(文 喜久井ヤシン

今回は、「ひきこもり」の世界をさまざまな角度から探求している、ぼそっと池井多さんを特集します。「8050問題」への取り組みから、語学力を活かした「世界のひきこもり」インタビューなど、その活動は多岐にわたります。当サイト『ひきポス』でも多くの記事をアップしており、翻訳・編集したものを含めると、その数はすでに130本以上。これまで掲載されてきた記事を中心に、活動の一端をご紹介します。

 

 

「ひきこもり放浪記」&当事者手記

 ぼそっと池井多さんは、30年余りの「ひきこもり」経験を元に、自身の多くの体験を書きつづってきました。自伝の「ひきこもり放浪記」では、 就活時の苦悩をきっかけに、世界各地を放浪した時代の経験が書かれています。

 

 日常生活のトラブルを切り取ったエッセイも多く、「あなた何してる人?」というシリーズでは、ご近所付き合いの悩みがユーモラスに語られます。連載の中では、近所の菜園でとれた一本のキュウリをもらったことで、「ひきこもり」であることの苦悩が展開。哲学的な記述にもかかわらず、どこか笑いがまじります。


 

メディア出演と「ひ老会」「ひきこもり親子 公開対論」

 近年では複数のメディアに登場しており、昨年はNHK「ハートネットTV」に出演。「ひきこもり放浪記」の一部を朗読しました。また、別日に放送の同番組でも、池井多さんの活動の一つである「ひ老会」が特集されました。「ひ老会」とは、「きこもりといを考える」として定期開催予定の集まりであり、以下の記事で紹介されています。

 また、「ひきこもり」の高齢化は、現代日本社会に差し迫った課題として注目されています。 親が80歳代、子どもが50歳代というケースが多いことから、「8050問題(はちまるごおまるもんだい)」の名称がついています。

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そして、8050問題による孤立は、ひきこもり家庭における親子のコミュニケーション不全にあるのではないか、という考えから「ひ老会」の発展版、「ひきこもり親子 公開対論」というイベントを不定期で開催しています。

 

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  •  「ひきこもり親子 公開対論」の様子

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ひきこもりになった経緯

 情報サイト『日経DUAL(デュアル)』で、ぼそっと池井多さんを取材した記事が掲載されました。母親からの精神的虐待が、「ひきこもり」体験を生み出した経緯がまとめられています。

dual.nikkei.co.jp

 

  • 『AERA dot.』難関国立大卒、大手企業内定し30年以上ひきこもり 57歳男性が社会に問う「恥とは何なのか」
    2019年6月25日掲載

dot.asahi.com

  • 「そとこもり」になったプロセス
    「海外ひきこもりだった私(22)」

vosot.hatenablog.com

 

「VOSOTぼそっとプロジェクト」・「GHO(世界ひきこもり機構)」

 ぼそっと池井多さんの中心的な活動が、「VOSOT(ぼそっとプロジェクト)」といえるでしょう。『ひきポス』では「ひきこもり」の当事者・経験者が中心となっていますが、このブログでは、成育歴における虐待や、それを治療するはずの精神療法に被害を受けてきた人たちが、あるべき精神医療とは何かを問う営みを中心として、生きづらさに悩む人たちが幅広く取材されています。人生の苦しみに耐えてきたサバイバーたちの、「ぼそっとつぶやく」声を社会に発信する取り組みです。

vosot.hatenablog.com

  

 また、池井多さんは英語・フランス語など複数の言語を駆使して、世界のひきこもりをつなぐネットワークを作っています。

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 これは世界でもぼそっと池井多さんにしかできない、唯一無二のプロジェクトでしょう。すでに国際的な反響があり、ヨーロッパの放送局が企画した、ひきこもりの特集に直接的な影響を与えています。

 ヨーロッパでの「ひきこもり」への反応は、日本と大きく異なっています。視聴者の感想の中には、「アメリカ主導のこの世界をひっくりかえしてほしい」といった、ななめ上をいくものもありました。それらの反響については、以下の記事で取り上げられています。

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世界各地の「ひきこもり」へのインタビュー

 「ひきこもり」状態といえば、かつては日本でしか起きていないことだと考えられていました。しかし現在では、世界中で起きていることがわかっています。池井多さんの多言語によるインタビューは、世界各地の「ひきこもり」の貴重な声を記録。旧来の「ひきこもり」のイメージを打破するインパクトをもっています。

 

   一例を挙げると……

 日本から見れば、地球のほぼ反対側に位置するアルゼンチンから届いた当事者の声です。マルコ・アントニオは自身がひきこもった経緯を語り、「少なくともぼくの国には数千人単位でひきこもりがいる」と言います。親から「勉強しろ」、「外に出ろ」と言われたという経験は、日本と変わらないプレッシャーを感じさせます。

 

 これまでの「ひきこもり」への批判の中には、「富裕な家の子どもが、甘やかされた結果ひきこもりになる」というものがありました。しかし上記の記事では、バングラデッシュの貧しい家で暮らす「ひきこもり」の青年が登場。家庭環境への批判に根拠のないことが、この対話からわかるのではないでしょうか。

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   その他の「世界のひきこもり」の記事

 名前 / 国 (現在までに公開されている記事の数)

 少女時代の記憶から、軍隊に入ろうとした経験などを語る。

 『NHKへようこそ』で「ひきこもり」を知った。日本アニメファン。

 「ひきこもり」がテーマの作品を制作した映像作家との対話。

「ひきこもりは富裕な先進国の副産物」という定説をくつがえしたインタビュー

アメリカ文学の香りのする手記

ひきこもり支援者になろうと奮闘するシチリアの女子高生との愉快な対話

おそらく西洋人で初めて日本の精神科医になろうとしている青年のインタビュー。精神医学的なひきこもり考察が山盛り。

壮絶な性虐待を回想する。どうしてひきこもりになったのかを探る手記。

 

 特別寄稿

※「世界のひきこもり」のタグを選択すると、記事の一覧を見ることができます。

 

 

当事者たちへのインタビュー

 もちろん、日本の「ひきこもり」当事者・経験者へのインタビューも数多くおこなっています。生きづらさをもった当事者の声が動画付きで公開されており、文章だけではわからない、生きた〈語り〉の記録となっています。

 

   一例を挙げると……

 『安心ひきこもりライフ』(太田出版 2011年)などの著書がある、自称「ひきこもり名人」の勝山実さんへのインタビューです。ユニークで脱力的な語り口から、「人生八十年、働いている場合ですか」「この国から家賃を廃止すべきだ」など、名言と迷言がいくつも飛び出します。

 

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 「不登校・ひきこもりだった私」では、「ひきこもりUX会議」や「ひきこもりUX女子会」などの活動で知られる、林恭子さんが登場。これまであまり語られてこなかった女性の「ひきこもり」への言及とともに、「母親問題」から自身の過去が語られます。

 

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 ひきこもりの時期を経て、就労への道を選び、現在はひきこもりのための当事者活動の場で活躍するサイトウマコトさんの講演を採録したものです。本誌のなかでは、配信初日のアクセス数が最高を記録したことから、講演者の人気をうかがい知ることができました。

 

 

※「インタビュー」のタグを選択すると、記事の一覧を見ることができます。

 

ひきこもりと地方

 ひきこもり当事者や経験者・関係者へのインタビューのなかで、ぼそっと池井多さんにとって大きな比重を占めているのが「地方」という問題軸です。東京など大都市の近辺と、地方の村落部などでは、同じひきこもるにしても、取り巻く社会的状況が大きく違います。それらを理解していかないと、ひきこもりのほんとうの問題は語れないのでは、とぼそっと池井多さんは言います。

 また、少子高齢化とともに人口減少に悩む地方の問題は、今後の日本社会が抱える大きな課題であり、それらをひきこもりという視点から考えていくことは、長い目で見た時に重要だと考えられています。

 今はまだ、この「ひきこもりと地方」のテーマで出ている記事は少ないようですが、これからどんどん出てくる予定です。 

 

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 最後に

 ところで、こんなに活動的でも「ひきこもり」というのか?と、疑問に思う人もいるかもしれません。一歩も外出せず、誰とも交流することのないことが「ひきこもり」のイメージであれば、それもやむをえないでしょう。

 複雑な内容になっていますが、池井多さんはそんな疑問・批判にも答えています。

 一つは、「ひきこもり概念の拡大」について。言葉の使われ方の変化を、数十年の歴史を振り返りつつ書いています。

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 この記事は国際的に需要があるため、プロのヨーロッパ人の翻訳者により翻訳され、前篇・後篇とも英語版が公開されました。現在、フランス語版が製作中です。

 

 また、「当事者発信の不可能性」では、「ひきこもり」として活動し始めた瞬間から、本当の「ひきこもり」とはみなされなくなることについて書いています。

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 どちらも少々難しい記事ですが、読み進めることで、新しい「ひきこもり」像を切り開くことにつながるかもしれません。

 今回の「ぼそっと池井多さんの活動まとめ」が、少しでもその案内になれば幸いです。