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「ひきこもり親子 公開対論」より ひきこもりの父親カズさんとの対話 第1回

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ひきこもりの息子を外に出す理由 写真:PhotoAC

 

文・ぼそっと池井多

 

 

VOSOT(チームぼそっと)では、ときどき「ひきこもり親子 公開対論」というイベントを開催させていただいている。

それは、このようなきっかけから始まった。

www.hikipos.info

 

そこでどんなことが「対論」されているのか知りたい、というお問い合わせを多くいただくのだが、登壇して発言してくださったご本人の諒解をとるのが難しく、なかなかリクエストにお応えできない。

しかし、そうした中で前回、6月1日に蒲田でおこなった第3回「ひきこもり親子公開対論」では、ひきこもりのお父さんとして登壇してくださったカズさん(仮名)が、本人が特定される情報を削除することを条件に、内容を公開することに同意してくださった。

ありがたいことである。

そこで、それを連載させていただこうと思う。

 

息子がかぶっている布団をひっぺがして

ぼそっと池井多 それでは、本日の「お父さま」に登壇していただきましょう。カズさんです。(会場拍手)

ようこそいらっしゃいました。まずはカズさんの概略を教えていただけますか?

カズ 私は50代に入ったばかりで、息子は2人おり、上の長男が20代で、今は社会人になっておりますが、彼がひきこもりになったのは、高校受験を間近に控えた中学3年生の秋ごろでした。

突然、学校に行けなくなりまして、高校受験には何とか行ったんですけれども、ほとんど失敗しました。

唯一、滑り止めの高校に受かり、そこに通い始めたんですけれども、一学期でまた学校に行けなくなり、そのまま中退してひきこもりの状態になりました。

なので、高校の一時期を除いて、中学3年生から高校3年間の4年弱ぐらい、自宅でガチなひきこもりでした。

何とかその後、高卒認定試験を受けて大学に入り、社会人になりました。その経緯は、また後ほどお話しますが、概略はそんな所です。

ぼそっと池井多 ありがとうございます。
今は長男との軋轢とか、対話の不在とかはないのですか?

カズ 表面上はないですけども、ひきこもっていた当時のことを腹を割って話せているかと言うと、やはりまだ腫れ物に触るような所があり、話せておりません。

ぼそっと池井多 ひきこもっていた当時は、やはり親子の対話は不在だったんですか?

カズ そうですね。中学3年生の秋口に学校へ行けなくなった時は、私は単身赴任で関西にいたんですけれども、家内から状況を聞いて、

「そのうち学校に行くだろう。色んなプレッシャーで、疲れて休んでるんじゃないか」

と軽く考えていたんです。

ところが、年末になっても、いっこうに学校に行く気配がなくて。

さすがに、高校受験がもうすぐに迫ってきてましたので、焦りが出てきまして、ある日、息子がかぶっている布団を無理やりひっぺがして、

「いつまでこんな所で休んでるんだ!
高校受験をする気がないなら、もう出ていってしまえ!」

と言ったのです。

そうしたら息子はパジャマのまんま、ほんとうに寒空の中へ家を出て行ってしまいまして、私は警察に捜索を頼んで、ようやく近くの公園で見つけました。

それが本人のトラウマになってしまい、その後も対話どころか、視線も合わせられない状態になりました。

ぼそっと池井多 それは大変でしたね。警察に息子さんが連れ戻された時、お父さまとして息子さんにどういう言葉をかけてあげましたか?

カズ 言葉はかけられないですね。
自分が「ひどい言葉を言ってしまった」という罪の意識があって、全くかける言葉がなかったです。

 

何をきっかけにひきこもりを脱したか

ぼそっと池井多 その息子さんは今は社会人で、すでにひきこもりではなくなっているという事ですけれど、多分、今日この(「ひきこもり親子 公開対論」の)会場にいらしている親御さんの最大の関心事は、どうやって息子さんはひきこもりから抜けたか、ということではないかと思うのですが、その点に関しては、いかがですか?

カズ 正直を申しまして、息子がひきこもりを脱するのに、「これが決め手になった」というようなことは、私も家内も分からないと思うんですね。

状況的に言いますと、息子は高卒認定試験を受けて、受かった。

本人はどうしても大学に行って、高校受験が思い通りに行かなかったのをリベンジしたいという強い気持ちがあったので、
それを本人なりに受けて、受かったこと。

もう一つは、高校中退者向けの予備校があって、1年間だけ、大学受験前に通うようになりました。同年代と違う道を歩んだ引け目をあまり感じなくて済む、同じように中退した人たちが通ってる空間なので、そこが息子なりの居場所だったと思うんですね。

ぼそっと池井多 だとすると、特別に何かをしたから、息子さんがひきこもりを脱したというわけではないということですね?

カズ そうですね。私はずっと単身赴任で家にいなくて、つぶさに息子の状況を見ていないのですが、私からいえば、そういうことになります。いっぽう家内は相当に苦しんで、病んでしまい、精神科のカウンセリングに行きました。

そこである先生に、

「この子は安心感が足りないので、
3歳の子どもと同じように接してあげてください」

と言われたんです。
それが息子本人の安心感に繋がったのかな、という気はしています。

ぼそっと池井多 よく親御さんのお話を聴いていますと、ひきこもりは親と子の問題であるように見えて、じつはそこに埋もれているのは、親御さん夫婦の関係性の問題であったりする、と思うんですね。

例えば、お父さまが単身赴任で、奥さまが全部それを抱え込んで、

「あなたは関西で仕事してるから良いかも知れないけれど、
わたしは大変なのよ!」

な~んていう話は奥さまからありましたか?

カズ ええ。家に電話するたびにかなり愚痴を言われました。いろいろ相談したところ、奥さんばっかりじゃなくて、父親だって本気で息子のことを心配してると、息子本人にちゃんと態度で示した方が良い
と言われまして、そうするように心がけたのですが、ただやっぱり、どう声を掛けて良いか分からない。息子にかける言葉がないのです。

なので、私がやったことといえば、一緒にラーメンを食べにいくことぐらいですね。

ぼそっと池井多 ラーメン?

カズ ええ。ラーメンです。
息子はほとんど家に引きこもっていましたけど、
「本人も、たまには外に出たいだろう」
と思って、ラーメンを食べに誘ったんです。

「いつまでひきこもってるんだ、外に出ろ」

などと言っても、首を振ることはないだろうな、と思って、何か外出の口実を探していた時、息子がラーメンが好きだったことを思い出しました。
私もラーメンは好きで、

「昔、あそこのラーメン、美味しかったね。
今度、こういうラーメン屋あるけど知ってる?」

みたいな会話をしていたのを思い出しまして、

「ちょっとラーメン、喰いに行かない?」

と、一回連れ出したところ、息子は渋々とついてきたんです。

これだったら、一緒にラーメンを食べに行く目的があるので、あまり本人に干渉せずに連れ出せるんじゃないかな、と思いまして、それからは単身赴任先から帰るたびに、いっしょにラーメンを食べに行きました。

ぼそっと池井多 ラーメンを食べに行きながら、息子さんとどんな話をされたんですか。

 

・・・「カズさんとの対話 第2回」へつづく

 

ちなみに「ひきこもり親子 公開対論」の次回は、

第4回 ひきこもり親子 公開対論
2019年8月24日(土)14:00 - 16:30

練馬区光が丘区民センター 2階 集会洋室
(都営大江戸線終点「光が丘」駅直結)
お問い合わせ・申込 vosot_just@yahoo.co.jp
(「@」を半角に変えてください)

イベントページ
https://www.facebook.com/events/463569321118901/

という要領で開催させていただきます。

まだまだ受け付けております。

ご関心のある方はどうぞいらしてください。