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働くことの意味に答えてみた

(文・万年ダイエッター)

 

あなたは誰かに「働くことの意味」を問われたことはあるだろうか?

 

 

私はある。しかも、だいぶ唐突に。
それは2月のこと、取引先に向かおうと地下鉄に揺られていた。花粉で朦朧としながらスマホを眺めているとLINE通知がぽこっと現れた。

 

 

 “お久しぶりです。今色んな人に聞いているんですが
働くことの意味ってなんだと思いますか??”

 

以前ひきこもりや不登校の当事者イベントで知り合い、妙なハイテンションで意気投合、朝まで飲んだ勢いでLINE交換した青年からだった。

以来、やり取りはなく、これが初めての連絡。一瞬「新手の詐欺?」「宛先間違い?」なんて言葉が頭をよぎったが、質問の答えを返すことにした。

実は「働くことの意味」は、私自身、ずっと自問自答していることだ。

 

大学卒業後、私は希望の職業に就職。順調な社会人生活をスタートし、「頑張る自分」に酔っていた。その職業はやりがい搾取が横行するブラック業種。調子に乗りまくっていたが、休めない・眠れない・終わらない仕事に追われ、気がつけば頭の中は「帰りたい」ばかりに。しかも年々仕事は複雑になり、責任も増していく。私は大ポカを重ね、20代後半には働くこと自体に怯え始めていた。28歳には、逃げるように会社を辞めた。

 

ともかくたくさん眠り、自由を謳歌した。次第に定職を持たない後ろめたさがやってきた。「無職」「ニート」と見下されている気がして、どうしても日中の住宅街を歩けなかった。貯めたお金も、すぐ底をつき、失業手当の支給期間はあっという間に終わった。
「早く働かないと…!」
頭はその言葉でいっぱいに。

 

 

離職率が高く、常に人手不足の業界。選ばなければ仕事はすぐ見つかった。働くのが怖くて、半分フリーランス、半分社員のような扱いで、休みを取りやすい形で雇ってもらった。
それでも、心にやすらぎは訪れなかった。忙しいときは「これが終わるまでの辛抱」と必死に耐え、仕事が落ち着けば「もっと働きたいなぁ」と激務が恋しくなった。同時に「普通の人みたいに、もっと働かないと」という強烈な焦りと不安に囚われた。

 

こんなに辛いのに、なぜ働かずにはいられないのだろう?
いつも自問自答していた。

 

意識高い系、「だるい」「働きたくない」のダウナー&メンヘラ系、労働問題の運動家まで。答えを求めて、何にでも食いついた。
そんな中、私は「働く」の中にはたくさんの意味があるということに気がついた。人は一部の意味だけを抽出し、それぞれ都合の良い「働く」論を語っているだけだとも。
では、私は、その働く事の一体何に苦しんでいるのか?じっくり考える中、届いた青年の疑問。

 

 

”働くことの意味ってなんだと思いますか??”

 

言葉にできそうになっていた、まさにそのタイミングだった。なんだか嬉しくて「まさに、飛んで火に入る夏の虫よのぉ」と、つい心の中で悪代官チックにほくそ笑んでしまった。
LINE受信から13分、約500文字を一気に書き上げ、速攻返した。

 

”私は4つの意味があると思っています。

 

1.生活のため(お金を稼ぐため)
2.身分を得るため(社会的な地位、アイデンティティの構築のため)
3.人とつながるため(人の役に立ちたいとかの生きがい、人間関係のため)
4.仕事自体が遊び(死ぬまでの暇つぶし)

 

人によってバラバラで、比重はそれぞれだろうけど、私は家族と暮らしているので生活のための要素は弱いです。収入も少ないし。
身分を得るため、は結構大きいかなぁ。
人とつながるため、もでかいです。もし家族と縁が切れた時に仕事の人間関係があれば、生活のための比率をあげることもそう難しくはないかと。ただ、その側面が強くなりすぎると、私の体力以上に働かないと生活できない可能性もあるので、金のために働く比率はあんまり上げたくはないけど。
私にとって一番大きいのは仕事自体が遊び、かも。ゲームも寝るのも楽しいけど、私にとっては仕事は博打性の高い遊びみたいなものでもあるかなぁ。
その時の抱えている仕事や精神状態によって重視する比率は変動するけど、平均すると、
お金:身分:つながり:遊び=1:3:2:4
くらいの比率かなぁ。”

 

読みやすいよう、多少言い回しを変えたが、ほぼ原文のままだ。(一発目のレスポンスで長文って、どう考えてもキモいんだけど…。)

 

私が働かなくちゃと焦ったのは「1.お金のため」。
住宅街を歩けなくなったのは「2.身分のため」。
働くのが怖い&仕事で認められたいのは「3.人とのつながり」を欲して。他人から無能だと思われるのが怖かった。
それら全部取っ払っても、「この仕事を続けたい」という思いが消えないのは…きっと今の仕事が私にとっては「4.遊び」だからだ。人生をベットするギャンブル性が高い一番の遊びなんだろう。
……まぁ、人生を終えるとき「完全にイカれたワーカホリックだったなぁ」と思うかもしれないけれど。

 

仕事だけで1〜4全部満たそうとするのはきっと無理だし、なにより傲慢だ。そんなことができるのは、本当に一握りの人だけだろう。私はどれを優先して、どれを諦めたらいいのか?逐一チューニングしていくしかない。方法は、じっくり考えていくつもりだ。

 

20分後、青年からリアクションが返ってきた。

 

”凄いです!!!マジやべー(いい意味で)”

 

うん、謎に意気投合してオールしただけのことはある!
とても嬉しかった。今度は”ありがとう”とだけ返し、スマホをポケットにしまった。そして取引先へ。ほんの少し背中を押してもらえた気がした。

 


(余談だけど、万年ダイエッターは最近、働く場所を変えました。もっと早く辛さから逃げればよかったです。ときには環境を疑うことも必要だよなぁ…。)