今週の10月26日(土)に、シューレ大学で「研究イベント」が開催されます。イベントでは、学生たちが自分の生きづらさと向き合った成果を発表。身近な悩みを掘り下げた「当事者研究」は、聞く人に新たな気づきをもたらすかもしれません。シューレ大学の卒業生で、『ひきポス』第6号「ひきこもりと父」の表紙イラスト製作者の山本菜々子さんによる案内をお届けします。
気になって頭から離れないことはありませんか
(文 山本菜々子)
日ごろ、気になって頭から離れなかったり、気が付くとその事ばかり考えてしまうという事はないですか。人に話しても、「気にしすぎだ」と言われたり、「考えても仕方ないから行動しろ」と言われたり。「自分のことばかり考えても仕方ないから、もっと外に目を向けなさい」、と言われることもあるかもしれません。
「そんなことが出来れば今頃楽しく生きてるわ」、と思いますよね。でも、このまま一人で考えてても進まないし、生きるのが辛い。このエネルギーを活かして発電でもできればいいけれど、そんな技術は開発されていません。
私の通ったシューレ大学では「自分から始まる研究」というやり方で、自分ののっぴきならないこと・切実なことをテーマに研究する講座があります。私が一番初めに研究したテーマは、「人が生きるときに表現はどれくらい必要なのか」ということでした。食べるものや水がなければ人は生きていけないけれど、表現はなくても生きていける。では、人の人生に表現がある意味などあるのか。お金にならない表現をしていた自分はそのことが気になって仕方なかったのでした。
こんなきっかけで、研究のテーマは決まっていきます。シューレ大学では毎年一般の方々に開いて、研究発表会を開催しています。今年もその季節がやってきました。
今年の研究を少しご紹介したいと思います!
Kさんの研究「コミュ障な自分を知られたくない でも人と繋がりたい 本当の自分を知ってもらいたい でも人と繋がりたくない」
「他人から見られてる自分と自分で思っている自分はなんか違う!」という思いから始めたというKさん。人から何か話しかけられたり、自分のことについて質問されたとき、相手に笑われたり嫌われるのが怖い。そういう自分を守るために「私、コミュ障なんです」と先に名乗ってしまうことで、人から近づいてこられることを防ぐという対処法を実行してきました。自分は人とつながりたいと思っている、その反面でつながるのは怖い、繋がりたくない。どうして人とつながりたくないと思ったのか、その過去を紐解きます。
Sさんの研究「私の絵が描きづらい状態とはどんな状態かを解体する」
子どもの頃から絵を描くのが好きなSさん。今もシューレ大学で美術講座に参加し、毎年絵画展に絵を出品しています。けれど、絵が描きたいのに描けなくて辛い状態に、毎年おちいるそう。「絵が描けないのは才能がない、下手だから描いても仕方がない」という思いに支配され、絵画展のぎりぎりまで絵を描くことができない状況がありました。自分がどうやって描けない状態に飲まれていくのかを見ていくと、「自分の絵の下手さが露呈し、人から見放される」怖い気持ちと、「期日までに、また自分は描きあげることができないんじゃないか」という不安のループがあることが見えてきます。なぜ下手ではいけないのか、人から見放されるのはどのような不安なのか、構造を明らかにします。
Oさんの研究「説明が苦手な自分に抱く私の否定感の正体とは何か」
シューレ大学の講座などで、新しく入った人に説明をするときや、調べてきたことを発表するとき、頭が真っ白になってうまく話せなくなることがあるというOさん。人に説明をできないと「みんなが出来ていることができない自分はダメだ」と思って辛くなるそうです。説明するときの怖さを「説明する人に対して、間違ったことを伝えたらどうしよう」という不安だと初めは解釈していました。しかし研究を進めていくと、自分はみんなと共有してきたことを理解していないことが露呈し、見捨てられるのではという不安がある事が見えてきます。説明ができないことと、人から見捨てられることがどのように関係しているのかを探ります。
〈研究イベント〉を開催します
さて、3人の研究の例をご紹介してきました。研究の講座のメンバーには、社会学者のスタッフと他の学生を合わせて15人位がいます。その中で各々が用意してきたレジュメを発表し、メンバーから様々な質問が飛び交います。自分で考えていただけでは気がつかなかったことや視点など、思いもよらない発見をしながら、テーマや関心を深めていくのです。始めは自分事だったことが、講座に参加するメンバーも似たような思いを持っていて、自分だけじゃない事に気が付いたり、自分の価値観が形成された元をたどれば、学校経験や他者との関係の中で構築されたものだったりと、突き詰めていくとだんだんと社会の問題につながっていく面白さもあります。
こんな発表がほかにあと4本ある「自分から始まる研究イベント」。パワーポイントを駆使しながら、エンターテイメント性を発揮して発表する人もいます。秋は物思いに向いた季節です。
この自分から始まる研究の発表会に、ぜひ遊びに来ませんか?
基本情報
日時:2019年10月26日(土)
13:30開始(開場13:00)
会場:シューレ大学特設会場
新宿区若松町28-27 シューレ大学
都営大江戸線「若松河田」駅下車 「若松口」より徒歩5分
参加費:1000円(シューレ大学研究資料冊子付き)
ゲスト:最首悟(思想家・シューレ大学アドバイザー)
主催:NPO法人東京シューレ シューレ大学
お問合せ:TEL:03-5155-9801(平日10:00~19:00、水曜のみ13:00~19:00)
Email: univ@shure.or.jp
■シューレ大学HP
■シューレ大学当事者研究イベントFacebookページ
https://www.facebook.com/events/1317349801776257/
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執筆者 山本菜々子
1983年生まれ。小2から不登校。13歳まで家で育つ。セツ・モードセミナー中退。シューレ大学で表現活動を中心に、生き方を創ることを試行錯誤する。在学中にシューレ大学の仲間と(株)創造集団440Hzを設立し、デザインを担当している。また2015年にはシューレ大学のOGと「劇団ふきだし」を立ち上げ、公演活動も行う。
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