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「ひきこもりは最強の生き方」 新型コロナウィルスと未来型ライフスタイル

(文 喜久井ヤシン 画像 pixaday)

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新型コロナウイルスの感染拡大にともない、各地で混乱がひろがっている。

政府は不要不急の外出を控えるように呼びかけ、全国の学校に臨時休校の要請が出された。

企業でも時差出勤やリモートワーク(在宅勤務)の実施など、感染防止策がとられている。

 

そんな中、にわかに注目されたのが「ひきこもり」だ。

あたり前の話だが、「外出を減らす」ことも「人との接触を制限する」ことも、自室中心で生活している者には関係がない。 

「ひきこもり」の言論で知られる斎藤環氏も、ツイッターでやや挑発的な意図を込めて以下の発信をした。

 

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(Twitter @pentaxxx「新型コロナ蔓延のおかげで、ひきこもりがいかに最強の生き方かわかったでしょう」2020年2月23日)

 

感染防止策と生活との関係は、「不登校」の子どもにもあてはまる。

臨時休校によって、「共働き家庭はどうすればいいのか」という批判が起きた。

しかしそれは「不登校」の子どもがいる家庭ではすでに経験済みの課題だ。

多くの人の生活が揺らいだ中で、「ひきこもり」や「不登校」の当事者のライフスタイルに根本的な変化はない。

 

社会通念的な価値観だと、「子どもは学校に行かねばならない」、「大人は会社に行かなければならない」と思わされる。

しかし感染防止策で求められたように、実際は柔軟なライフスタイルを送れる方法もある。

当然ながら、学校通学と会社通勤が唯一無二の人生のあり方ではない。

ホームエデュケーションやリモートワークなど、本当はシステム上の柔軟さも手立てもある。

「ふつうと違う」ことが忌避され、柔軟な制度が活かされてこなかっただけなのだ。

今回のウイルス禍は、旧来の社会構造に対する衝撃という側面もあったように思う。

 

 

「ひきこもり」は未来のライフスタイル

 

「ひきこもり」のライフスタイルは、今後の社会で主流になっていくかもしれない。

国や自治体の調査によると、「インドア派」は過去50年でもっとも多くなっている。

国土交通省や東京都などが、住民に移動に関する状況を尋ねた。その結果、一日の外出率は76.6%と、1968年の調査開始以来、もっとも低いという結果が出た。

要因の一つは、ネット通販の利用拡大によって、買い物目的の外出が減ったためではないかという。

 

私自身の生活も、ネットによって大きく変化している。

映画を観るにしても、映画館やレンタルショップに行く必要がなく、オンラインで即座に鑑賞できる。

スマホで観ることもできるため、テレビ画面や自分だけの部屋もいらない。

プライベートな時間を過ごすことが、これほど簡単になった時代もないだろう。

 

また、変化という点でVR(仮想現実)の進化は注目すべきものだ。

VRは「移動」の概念そのものを変えると言われている。

ゴーグルをつけただけで仮想空間へ行くことができれば、通勤や通学の必要性が激減するだろう。

仮想空間で質の高いコミュニケーションができるとなれば、会社に行って会議に出ることもない。

地元の学校に歩いて通うよりも、自宅学習(ホームエデュケーション)で世界最良の授業を受ける選択肢も出てくる。

近い将来、「一人で家にいること」の意味は大きく変わるだろう。

VRは脳が体験する「どこでもドア」となって、いつでも、どこでも、誰とでもつながれるものになるかもしれない。

 

さらにつけ加えると、数十年後にはシンギュラリティ(技術的特異点)がやってくるといわれている。

AI(人工知能)が人間の能力を越える分岐点であり、人間が働かなくても社会や経済が回るようになると想定されている。

学校で勉強すべき内容も、人が労働をする意味も、根本的に問い直されることになるだろう。

 

1980年代後半から、「ひきこもり」はなにかと非難されてきた。

「健康なのに昼間からゴロゴロしている」とか「夜中にずっとパソコンをしている」とか、悪くもないことを悪いといわれてきた。

しかし一面では、たんに「外出率が低いライフスタイル」というだけのことだ。

多くの人が在宅で過ごし、室内で多様なコミュニケーションをとっている社会なら、「ひきこもり」はもはや特別なものではなくなる。

人と直接的な交流の少ない「ひきこもり」のライフスタイルは、未来のスタンダードかもしれない。

 

コロナウイルスの蔓延によって、社会的な制度や日々の生活が混乱した。

しかしその災禍の中で、世の中の構造が変わっていく途上の、未来的な可能性も垣間見えたように思う。

 

 

参照 朝日新聞 2019.12.6 朝刊「都市圏『インドア派』増える?」/赤津慧著 鳴海拓志監修『VRが変えるこれからの仕事図鑑』光文社 2019年

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 執筆者 喜久井ヤシンきくい やしん)

1987年生まれ。8歳から学校へ行かなくなり、20代半ばまで断続的な「ひきこもり」を経験している。2015年シューレ大学修了。『ひきポス』では当事者手記の他に、カルチャー関連の記事も執筆している。ツイッター  喜久井ヤシン 詩集『ぼくはまなざしで自分を研いだ』2/24発表 (@ShinyaKikui) | Twitter

 

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