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今こそ!〈世界ひきこもり名言集〉 孤独の楽しさと苦しさにのたうちまわった古今東西の哲学者たちの言葉44選!

(文・編 喜久井ヤシン 画像 Pixbay)

 

人間の不幸などというものは、どれも人間が部屋にじっとしていられないがために起こる。部屋でじっとしていればいいのに、そうできない。そのためにわざわざ自分で不幸を招いている。
(哲学者 ブレーズ・パスカル) 

 

 序

ひどい気分だ。

いきなり私事だが、ここのところ、私はひどく落ち込んでいる。

新型コロナウイルスのせいで息抜きになるものがなく、

仕事もなければお金もない。

このままの生活でいいのか?

(前からだが)家にいてばかりでいいのか?

不安だらけだし、先行きが見えない。

 

しかし、さまざまな本を読んでみると、

古今東西の偉人たちも〈ひきこもり〉生活に悩んできたのだとわかる。

 

哲学者や詩人たちのパワーワードを集めたら、

読む人の時間つぶしにもなるし、ちょっとしたブックガイドにもなるかもしれない。

 

というわけで、今回は〈世界ひきこもり名言集〉だ。

混迷する現在にこそ、強く響きわたる言葉がある(かもしれない)。

 

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働きたくない!〈引きこもる自由〉を考える言葉

働かないと「ダメ人間」みたいに言われる。ほんときつい。

しかし、一人で自由に過ごすことのどこが悪いのか。

私は以下のような言葉から、一人で生きていくための勇気(とずうずうしさ)をもらってきた。

 

誘惑が去ってしまわないうちに 急いで誘惑に負けよう。

(古代の哲学者 エピクロス)

 

飲め、遊べ、人は死ぬもの。地上ですごす時の間はわずか。死んだが最後、死は不死ときている。

(古代の哲学者 アンピス)

 

目を覚ませ、世の子ら、酒を酌め、旨酒(うまさけ)を、

命の酒がさかずきから涸れはてぬまに。

(詩人 ウマル・ハイヤーム)

 

私の願望の本質を要約すれば、これに尽きる―― 一生を寝て過ごす。 

(詩人 フェルナンド・ペソア)

 

としより「いい若者がなんだ。起きて働いたらどうだ」

 若者「働くとどうなるんですか」

としより「働けばお金がもらえるじゃないか」

 若者「お金がもらえるとどうなるんですか」

としより「金持ちになれるじゃないか」

 若者「金持ちになれるとどうなるんですか」

としより「金持ちになれば寝て暮らせるじゃないか」

 若者「はあ、もう寝て暮らしてます」

(江戸小噺)

 

「暑い季節にはなにしていたの。」

アリは借り手のセミに訊く。

「夜も昼も、みなさんのために、

歌をうたっていましたの、すみません。」

「歌をうたって?そりゃけっこうな。

それじゃこんどは、踊りなさいよ。」

(詩人 ラ・フォンテーヌ「寓話」)

 

彼女は十時半に床に就くと、たちまち彼女のいわゆる「おねんね」をし、十時に起床、昼まで身繕いをし、夕食までよそのお宅を訪問したりする。子供もなければ、亭主の手伝いもしない。

「ご自分がどんな役に立っているのか、教えていただけますか?」

「自分を幸せにするのに役立っているのですわ」

(作家 ジュール・ルナール)

 

牛になる事はどうしても必要です。吾々はとかく馬になりたがるが、牛にはなかなかなり切れないです〔…〕あせつては不可(いけ)ません。アタマを悪くしては不可ません。根気づくでお出でなさい。

(作家 夏目漱石)

 

上の言葉は、夏目漱石が芥川龍之介に送った手紙から。

先を急ぐ「馬」ではなく、地道に行く「牛」となって、物事に根気強く取り組むようにと言っている。

 

つづいては少し趣向を変えて、いくつかの詩を紹介する。

中原中也は自身の楽しみ(たとえば文学)を「おもちゃ」に喩え、「金銭的な価値で計るな」とブチギレている。

 

おれはおもちやで遊ぶぞ

おまへは月給であそび給へだ

あのおもちやはおれの月給の何分の一の値段だなぞと云ふはよいが

それでおれがおもちやで遊ぶことの値段まで決まつたつもりでゐるのは滑稽だぞ

(詩人 中原中也)

 

もちろん

僕は太陽や

微笑みや、空気のようには

人々に必要とされていない。

でも時には

汚い水たまりに

遠い星が

映し出されることもある。

(詩人 ニコライ・ベルリンスキー)

 

ひとつの心が破れるのを止められるなら

無駄に生きたことにはならない

ひとつの生の痛みを和らげられるなら

ひとつの痛みを冷やせるなら

 

気を失いかけたコマドリを助けて

巣に戻してやれるなら

無駄に生きたことにはならない。

(詩人 エミリー・ディキンソン) 

 

これ以上 何を望まん

遠いところがある

近いところがある

(詩人 コ・ウン)

 

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生活がきつい!孤独に苦しんだ言葉

しかしそうはいっても、現実問題として生活は苦しい!

はっきりした問題がなくとも、「日々を過ごすこと」自体がきついのだ。

そして当然ながら、日々の生活に苦しんできた偉人たちもいる。

私が100%共感できた言葉を紹介する。

 

情念もなく、仕事もなく、気ばらしもなく、専心すべきいとなみもなしに、まったき休息のうちにあることほど、人間にとって耐えがたいことはない。彼はそのとき、自己の虚無、自己の遺棄、自己の依存、自己の無力、自己の空虚を感じる。たちまち、彼の魂のおくそこから、倦怠、憂鬱、悲哀、苦悩、悔恨、絶望がわき出るであろう。

(哲学者 ブレーズ・パスカル)

 

目的のない生活は味気なく、目的のある生活はわずらいだ。

(作家 ヘルマン・ヘッセ)

 

とにかくわれわれは、すべてのうちで一番不愉快な、一番きたない肉体を、愛したり、面倒見たりしているのだ。というのはただの五日間でも隣人の肉体を面倒見ねばならないとしたならば、われわれは辛抱することができないだろうから。朝起きると他人の歯を磨いてやり、何かやむを得ないことでもしたら、その局部を洗ってやるということはどんなことか考えて見るがいい。毎日そんなに世話のやけるものを愛するということは、実際驚くべきことだ。
(古代の哲学者 エピクテトス)

 

孤独をよろこぶ者は神か野獣かだ〔…〕本当の友だちをもてないのは、まったくのみじめな孤独である。友だちなければ世界は荒野にすぎない。
(哲学者 フランシス・ベーコン)

 

幸福とはその人間の希望と才能にかなった仕事のある状態をさす。不幸とは働くエネルギーを保ちながら、無為な状態にあることをさす。

(革命家 ナポレオン・ボナパルト)

 

私は病気でも健康でもない。

(哲学者 セネカ)

 

完全に健康な人間なんて、わたしはまだ一度もお目にかかったことがありませんな。

(作家 トーマス・マン)

 

世界に別れを告げる日に

ふとは一生をふりかえって

じぶんが本当に生きた日が

あまりにすくなかったことに驚くだろう

(詩人茨木のり子)

 

人といふ人のこころに一人づつ囚人がいてうめくかなしさ

(歌人 石川啄木)

 

長い時間が挿入された鎧、その間、鎧は自分に耐えなければならないだろう。 

(詩人 ルネ・シャール)

 

人間の基本的な弱さは、たとえば勝利できないといったところにあるのではなく、勝利を利用し尽くせないところにある。青春はすべてに勝利する。根源的な欺瞞とか、もっとも隠微な悪魔的行為とかに。けれども勝利を受けとめたり、生きいきとさせることのできる者は誰もいない。その時には青春もすでに過ぎ去っているのだから。老年は勝利にはもはや手を触れようとはしないし、新しい青春は、すぐにも始まる新しい攻撃に苦しめられて、独自の勝利を望む。こうして悪魔はつねに勝利を奪われるが、決して滅ぼされることはない。

(作家 フランツ・カフカ)

 

小説家のカフカは、断片的な言葉の名手でもあった。

「日記」をひもとくと、素朴な絶望感が記されている。

 

目だたない生活。目立つ失敗。
(〃)

 

寝入る前、軽い両腕についたこぶしの重さを感じた。
(〃)

 

眠っては目を覚まし、眠っては目を覚ます浅ましい生活。
(〃)

 

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遊びか仕事か!? 人生の選択に捧げられた言葉

それにしても、なんでこんなに不安なのか。

生きがいとなる仕事があれば、たぶん少しはマシになるだろう。

しかし、いつどのような仕事をするべきなのか?

そんな悩みをもったときこそ、作家たちの言葉の出番だ。

 

生活はすべて次の二つから成り立っている。

したいけれど、できない。

できるけれど、したくない。

(作家 ゲーテ)

 

  選択

人生を完成させるか、仕事を完成させるか、

人間の知性は否応なく選ばねばならない。

もし第二の道を選ぶなら、天の宮居(みやい)

拒み、暗黒のなかで荒れ狂わねばならなう。

つまるところ、どうなる?

うまくいこうといくまいと痕跡は残る。

あの相も変らぬ困窮が、空っぽの財布が、

でなければ、昼間の自惚れと夜の悔恨が。

(詩人 イェイツ)

 

私たちはどうも、なすべき唯一のことをしていないときにもっとも忙しいようである。

(思想家 エリック・ホッファー)

 

「俺たちが一生懸命働いたり、色んなことで時間をつぶしたりするのは、生きるってことが――中身の濃い純粋な生き方をするってことが――耐えがたいほど苦しいからだと思うんだ。働いたりするのは、人生を水で薄めて生きやすくする方便みたいなもんだ」

(作家 ブライアン・W・オールディス)

 

そうさ、うまくいかない時、おれは理屈で言い訳しようとする。「まあ、100年たちゃあ、誰も気にしないだろう」と。たしかに100年もすれば大丈夫だろうが、これから何時間、いや何日、何週間の間には、大いに問題だから困る。

(作家 ハービー・ピーカー)

 

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私は不安のせいで、どんどん悲観的になってくる。

もっとも、悲観は哲学者たちの十八番だ。

絶望まっしぐらの、以下のような言葉もある。

 

……私は呼吸する――それだけで、私を病院に閉じ込めるに足る口実になる。

(思想家 シオラン)

 

誕生と死の間にあったのは、いつだって同じものだった。見てのとおりさ。人生という暴力だよ。

(画家 フランシス・ベイコン)

 

人はすべて死刑を宣告されている、ただ死刑執行の日が決まらないだけだ。

(哲学者 和辻哲郎)

 

明日死ぬとわかるのも恐ろしければ

明日死なないとわかるのも恐ろしい

(詩人 フアン・ヘルマン)

 

人間にとっては唯三つの事件しかない。生まれること、生きること、死ぬこと。生まれる時は感じない。死ぬ時は苦しい。しかも生きている時は忘れている。

(作家 ラ・ブリュイエール)

 

我々は現実よりも想像に苦しんでいる

(古代の哲学者 小セネカ)

 

これは地獄だ。我々の時代には、地獄とはこうなのだ。だらんとした大部屋に、疲れきったまま立たせ、水のしたたる蛇口をすえつけておくが、その水は飲めず、何かきっと恐ろしいことが起こるはずなのだが、いっこうに何も起こらず、しかも何も起こらない状態がずっと続くのだ。

(詩人 プリーモ・レーヴィ)

 

上記は強制収容所での体験を描いた『アウシュビッツは終わらない』から。作家は過酷な出来事ではなく、「何も起こらない」ことに現代的な地獄があると言っている。

私はよく死を思うときがあるが、不安は命がけの苦しさだ。

しかし、ただ「死にたい」という思いにながされるのではなく、はっきりとその思いと向き合ってみることで、わずかに気分がマシになることがある。

 

死ぬと腹を据えるがよい。死ぬにせよ、生き延びるにせよ、それで気持ちが軽くなる。

(作家 シェイクスピア)

 

上記の言葉とともに、江戸時代の僧侶で、歌人としても知られる良寛(りょうかん)にも共通した思念がある。

 

災難に逢う時節には災難に逢うがよく候

死ぬ時節には死ぬがよく候

これはこれ災難をのがるる妙法にて候

(僧侶 良寛)

 

良寛が地震に被災した友人に送った言葉で、

意訳すると、

「苦しむときには苦しみなさい

 死ぬときには死になさい

 そのように受け入れられるところに

 苦しみから逃れさせる不思議な力がある」

というところか。

 

現在の私のメンタルと生活は、非常にきびしい状態だ。

でもダメならダメで、いったんそれを「受け入れよう」と思うと、少しだけ耐えられる気がする。

少なくとも本を読んでいるときに、苦しさはわずかばかり遠のく。

長い年月を越えて伝えられてきた言葉は、心を慰める助力となるものだ。

 (あとは「どうぶつの森」でもやって、今日という苦しみを乗り越えていくほかない。)

 

 

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 執筆者 喜久井ヤシンきくい やしん)

1987年生まれ。8歳から学校へ行かなくなり、20代半ばまで断続的な「ひきこもり」を経験している。2015年シューレ大学修了。『ひきポス』では当事者手記の他に、カルチャー関連の記事も執筆している。ツイッター喜久井ヤシン 詩集『ぼくはまなざしで自分を研いだ』2/24発表 (@ShinyaKikui) | Twitter

 

 

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