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コロナ時代のひきこもり支援 ~ 底辺の当事者にスマホの無料配布を

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いまや情報は電気・ガス・水道に準じるライフライン

文・写真・ぼそっと池井多

 

プレコロナ時代のひきこもり支援

今年の2月ごろ、ひきこもり界隈ではこんなことが言われていたものだ。

 

就労支援の時代は終わった。

これからのひきこもり支援は、居場所支援だ。

 

そこへコロナ禍が始まった。

緊急事態宣言は解除の方向へむかっているが、それでコロナがきれいさっぱり終息するとは思えない。元のような世界に戻るまで、あと二年ぐらいはかかるなどと言われている。

その間、ひきこもりの関連のイベント開催も、プレコロナ時代のようには開けないということだろう。

こうなると、前コロナ時代に語られていた「居場所支援」なるものを、はたしてそのまま唱えていればよいのか、という問題がある。

 

もっとも、ほんらい居場所とは、ひきこもり当事者本人が「居場所」と感じるところの概念であって、自分のひきこもり部屋でも、行きつけのカフェでも、あるいは愛する人の心の中でも、どこでも居場所になりうる、というのが私の持論である。

その意味においてならば、今後とも変わらぬ「居場所支援」を唱えていることは、それほど的外れではないのかもしれない。

しかし、どうも一般に「居場所支援」が語られるときは、「居場所は公共施設のような空間」という前提であることが多く、そういう空間を各自治体に開設し運営することが「居場所支援」である、と考えられているきらいがある。

こうなると、「居場所」はコロナ時代には避けるべき三密の空間となるのである。

 

オンライン当事者会に参加できない当事者たち

いっぽうでは、コロナ禍によって、ひきこもり当事者会も通信アプリを使ったオンラインで開催されるのが主流になってきた。

かくいう私も、ITにはとんとうといくせに、主催している「ひ老会(*1)などを、慣れない手つきで失敗しながら、オンライン開催したりしているのである。

*1. 参照

www.hikipos.info

 

オンラインの当事者会は、実際に顔を合わせるリアルな当事者会の完全な代替物にはならず、しょせんは別物であるが、オンライン当事者会が、多くの当事者たちにとって、コロナ自粛期における社会的な孤立から免れる一つの手段となっていることは確かだと思われる。

多くの識者が指摘するように、オンライン当事者会にはさまざまな可能性が眠っている。

しかし、そこでは一つ基本的な現実が忘れ去られている。すなわち、多くのひきこもり当事者は貧しくて、スマホやパソコンなどオンライン当事者会に参加できる端末機器デバイスを持っていない、という事実である。

また、「ひ老会」に来てくださる人々のように、高齢化したひきこもりや親御さんであると、若い世代のひきこもり当事者たちと比べて、端末機器を持たない割合はさらに高くなる。

かくいう私自身も、スマホを持つようになったのはつい昨年のことであった。

こうなると、ほんらい最も当事者会につながってほしい人々が、当事者会に参加できずによけい孤立するという世の中になっていく。

格差社会の残酷さが、こんなところにも押し寄せているのである。

 

行政はスマホを配布せよ

このような時期に、公共施設的な空間に力を注ぐ「居場所支援」なるものが、はたしてどれくらい有効であろうか。

ましてや、新しいハコモノをつくるとなると、なおさらである。

いま行政が「ひきこもり支援」を考えるならば、それは端末機器デバイスを持っていない当事者に、スマホの一つでも無償で配布することだと思う。その方が、三密の空間となる「居場所」の建設や開設よりも、よほど実効性のある支援となるのではないだろうか。

また予算的にも安くあがるかもしれない。

かねてより私は、行政がおこなうべきひきこもり支援は、既存の当事者活動の後方支援だと申し上げてきたが、底辺のひきこもり当事者が当事者会に参加するための機器を配布することは、まさしくその観点から言っても理に適っているのである。

 

ひきこもり相談窓口でスマホを教える

この案の良い所は、機器ハードウェアを配っただけで終わりとならず、支援の「次の段階」へと発展していくことが期待できる点にある。

機器をもらっても、すぐ使いこなせるわけではない。オンライン当事者会に参加できるようになるまで、少しばかりの習熟が必要となる。

そこで、ひきこもり相談窓口でスマホやパソコンの初歩を教え、各自が自分の部屋からオンライン当事者会に参加できるようにしてあげるのはいかがであろうか。 

こう言うと、たちまちお叱りを受けるかもしれない。

「いったいひきこもり相談窓口を何するところだと思ってる。行政の相談窓口は、スマホのショップや家電販売店ではないのだ」と。

そんなことは百も承知だ。しかし、真正面から、

「ひきこもりに関するご相談を承ります」

と構えられると、かえって当事者はどこから相談してよいかわからない、ということがあると思う。

相談員からすれば、クライエントの状況はいくつかのパターンに類別され、整理して語れるものかもしれないが、相談する当事者にとって困り事とは、たいてい自分を取り巻く深い霧のように捉えどころのないものだからである。

さらに、自分を開かないと、霧の一端も語り得ない。ところが、ひきこもりは自分を開くことが大の苦手ときている。

何かきっかけとなる話題が他にあった方が、人は自分を開きやすい。相談員と当事者のあいだの人間的な関係も、そこから生まれる。生活の実情など、個人的な話が切り出せる空気が醸成されるまで、初めのうちは「スマホやパソコン」などという話の種があっても良いではないか。

そこで相談員は、なにも「スマホやパソコン」に関して、プロ並みの知識を持つ必要はない。自分が知っている範囲のことでいいし、それでもわからないなら、

「私もわかりません。ITって難しいですよね。知ってる人に聞いてみようっと」

などと言えばよい。

 

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ひきこもり当事者向け「ヒキ割」を開始せよ 

貧困層である私は、昨年ようやくスマホを手にして、最低限の定額プランで携帯通信会社と契約した。スマホ初心者は、そういう人が多いと思う。

すると、せっかく端末機器を手にしても、通信容量の上限がひっかかってオンライン当事者会に参加できない、ということが起こる。

なぜならば、オンライン当事者会は、音声だの映像だの、けっこうな通信容量を消費するからだ。いわゆる「ギガ死」というやつだ。

 

そこで、私としては、携帯通信会社に一肌脱いでもらいたいと思うのである。

貧しい学生たちに向けて売り出している「学割」のように、「ヒキ割」みたいな制度を始めていただけないだろうか。

5Gが普及していけば、上限そのものがなくなっていくのかもしれないが、それまでの間だけでもよい。ひきこもり当事者が、通信量を気にしないでオンライン当事者会に参加し、他の人々とつながり社会的な孤立を免れるように、そういう申請を出したひきこもり当事者には、通信容量の上限を超えても同じ料金で使えるようにしていただくのである。

 

とはいっても、携帯通信会社も民間企業だから、儲けが見込めなければ「ヒキ割」に踏み出さないだろう。

大丈夫。メリットはあります。

昨年2月、内閣府の調査により日本のひきこもりの総人口は115万人という推算がおこなわれたが、まだこの数字はたぶんに低く見積もられている、と私などは思う。ひきこもり界隈の感触からすると、実際は300万人ぐらい行くのではないか。

さらに、当事者の周囲には、ひきこもり問題で悩む家族の方々もいらっしゃる。そういう人口なども含めると、もしかしたら日本全国で1000万人近くがひきこもり問題で悩んでいる推算になる。

もしこういったサービスを始めれば、携帯通信会社はその恩恵にあずかる、日本の人口の少なからぬ割合を占めるひきこもり関係人口を味方につけることができるはずである。

 

「ヒキ割」受付はひきこもり相談窓口で

「そんなことをしたら、通信容量を増やしたいために、みんながひきこもりになりすまして、『ヒキ割』を申し込んでしまう」

と心配をする人が出てくるだろう。

そこで、この「ヒキ割」の申請は、行政のひきこもり支援窓口で受け付けるようにしてはどうかと思う。そして申請者情報を携帯通信会社と共有するのである。

このようにすれば、ほんとうに困っている人だけが恩恵にあずかれるように、一つのフィルターがかかる。

また、これによって行政のひきこもり相談機関は、ひきこもり当事者のメールアドレスを知ることができる。行政にとって、支援の対象者の所在がわかることは、とても有用であるはずだ。

すると今度は、

「それでは個人情報を行政に取られる」

と不安に思うひきこもり当事者が出てくるかもしれないが、これはひきこもり当事者にとっても、そんなに悪い話ではないように思うのである。

なぜならば、今後の展開として、高齢化したひきこもり家族の孤立死などを防ぐために、民生委員やケースワーカーがひきこもりの家庭を個別訪問することが、あちこちの自治体で論議されているからである。

私は一人のひきこもり当事者として、これに小さな脅威を感じている。人が訪ねてくるのが非常に嫌だからだ。もしそうであるならば、同じ役所から人よりもメールが来た方がよっぽど良いではないか。

「孤立死していないか」「生活に困っていないか」などの安否確認ならば、わざわざ訪ねてきてもらう必要はない。

システムの作り方次第によっては、行政は当事者たちへ定期的なメールを出し、当事者たちはそれにただ返信するだけで、役所に健在を知らせることができる。家庭訪問に踏み出すのは、「何度メールしても返信がない」といった場合に限ればよい。 

私は生活保護を受けているので、管轄の福祉事務所と頻繁にやりとりしているが、現在、住民と行政担当者の連絡は、電話かファックスか郵便に限定されており、メールは許されていない。これはすでに時代遅れと言わざるを得ない。

行政のひきこもり相談窓口で「ひきこもり当事者」申請をおこなうことによって、携帯電話会社で「ヒキ割」が受けられ、通信量を気にせずオンライン当事者会に参加できて、社会的孤立をまぬがれる。行政は当事者の所在と状態をメールで把握できる。

……そんなシステムは、できないものだろうか。

 

コロナ禍を機に福祉行政のデジタル対応化を

以上、おそらくツッコミどころ満載の、きわめて粗い改革案である。

もともとITに疎い中高年のひきこもりが書いているものだから、通信や行政の仕組みについてまるでわかっておらず、トンチンカンな提案をしている部分もきっとあると思う。

また、なかには「スマホを持ちたくない」「行政にメールアドレスを知られたくない」「当事者会にもつながりたくない」といったひきこもり当事者もいるだろう。そういう当事者の意思も、しっかりと尊重されなくてはならない。

しかし、ひきこもり当事者会がオンライン化されていく、このコロナ時代にあって、行政がひきこもり支援そのものをオンラインで対応できるように変えることによって、支援にいっそうの実効性を持たせていくことを強く願うものである。

 

 (了)

 

 ぼそっと池井多いけいだ 東京在住の中高年ひきこもり当事者。横浜に生まれ、2歳まで過ごし、以後、各地を転々とする。大学卒業時23歳よりひきこもり始め、「そとこもり」「うちこもり」など多様な形で断続的に今日までひきこもり続けている。VOSOT(チームぼそっと)主宰。GHO(世界ひきこもり機構)代表世話人。facebookvosot.ikeida twitter:  @vosot_just

  

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