(絵 まる 文 喜久井ヤシン)
今回は、十年以上のひきこもり経験をした、まるさんのイラストを紹介します。
まるさんは小学校6年で不登校になって以来、長いあいだ部屋に閉じこもり、家族とも会話をしなかったといいます。
以下は、まるさんの言葉です。
僕には友達が一人もいなくて、家族とも顔を合わせる事が出来ず、本当に誰との関わりもないまま、どこにも出口が見えませんでした。心の中にはいつも憎しみと悲しさと寂しさがいっぱいで、自分は苦しむためだけに生まれて来たのか…という気持ちでした。
精神的に追い詰められていたためか、22歳のある日、まるさんは過呼吸におちいりました。
長年顔を合わせることもできなかった両親に、「病院に連れて行ってほしい」と助けを求め、そこから、「ひきこもり」の生活が変化していったそうです。
現在33歳のまるさんは、ご両親の支援を受けながら、一人暮らしをしています。
人とのつながりが深まるようになり、アルバイトも経験してきました。
まるさんは個展やコンテストなどには「積極的になれない」と言います。
そのため、今回ご紹介するイラストは、すべてメディア上で初公開の作品です。
まるさんの作品がこのまま知られないでいるのは、もったいないことだと思います。
どうかご覧ください。
上の作品では、細かな色と線が、パズルのピースのようにつながっています。
カラフルな色は、感情の豊かさと同時に、バラバラになった破片を思わせなくもありません。
粉々になった心が、なんとか一つのつながりを保っているような、支えるための強度とバランスの悪さが同居しているようです。
それはまるさん自身の、人との関係の結び方が表れているようにも思えます。
まるさんの言葉を紹介します。
間違いを恐れて何も行動出来ずに「しなかった後悔」だらけの中で死んでしまうかもしれないのが、本当に嫌でした。
生きているのがとても怖い、生きていたいと強く思うほど、生きているのがとても怖い。
まるさんは、うつ病の診断を受けたこともあるそうです。
さびしく、孤独な時間を過ごすなかで、独自の表現が研ぎすまされていったのではないでしょうか。
創作の経験を重ねながら、作風や画材は変化しています。
2016年頃に制作された作品は、日本画の顔彩という画材を用いて、内省的にに描かれています。
まるさんは「ひきこもり」の経験を経て、人とのつながりの大切さを実感したそうです。
軽くユーモラスなイラストも数多く描いていますが、そのあたたかな絵柄は、信頼できる人と出会えた、安堵のようなものからきているのかもしれません。
まるさんのイラストには余白が多く、ナイーブな雰囲気もただよっています。
しかし、描かれている人や生き物にはたしかな生命力があり、生き抜いていこうとするたくましさが宿っています。
にんげんになりたい(2016年)
まるさんは、
「多くの人に助けられてきたので、その人たちにもらったものを、次の誰かに渡していくことが出来たらいい」
と言います。
「誰かの幸いにつながる事を、一つでも多くやっていけたらいいです。その時に自分を犠牲にしないというのが大事な事なのだろうというのも、なんとなく思っています。」
まるさんは、すでに人に力を与えられるような作品を生みだしているように思うのですが、いかがでしょうか。
どうかまるさんには、今後も創作をつづけていってほしいと思います。
ご覧いただきありがとうございました。
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