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【1000文字小説】三十三歳にもなって「ふつう免許」試験の合否にビクビクしている俺の話を聞いてくれ  

 

 

ひきこもり経験者による、1000文字のショートショートをお届けします。〈生きづらさ〉から生まれた小さな物語をお楽しみください。

 

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まる「いえにいるいぬ」

 

 「ふつう免許」試験

 

俺は「ふつう免許」の試験会場で、結果発表を待っていた。

30人ほどいる教室のなかで、周りは俺よりも若い奴らばかりだ。

日本ではいつのまにか、「ふつう免許」を持っていないと堂々と歩道も歩けなくなった。

俺は今回のために、恥ずかしさに耐えて「ふつう」教習所にも通ったのだ。

なんとしてでも合格したい。

 

思い返せば、試験はハードだった。

あいさつや雑談の仕方など、日常生活でどれだけ「ふつう」に過ごせるかが審査される。

俺が先ほどおこなった実技試験は、「デパートに行き、職場の人に配るお菓子を選んでいる途中で、名前を思い出せない微妙な知り合いに合う」という難問だった。

試験場にはデパートのセットがまるごと用意されており、試験官と一緒になって周るのだ。

目線の位置や会釈の角度まで減点対象になるので、自然な言動をマスターしておかねばならない。

行動はすべて審査対象になる。
たとえばエスカレーターでは、「右側を歩きつづける」のが正解だ。

マナーとしては「立ち止まる」が正解だが、まっとうな社会人は急いでいる方が「ふつう」のため、立ち止まっていると減点になる。

ただし関西だと立つ位置が逆になるため、エスカレーターの「左側を歩く」が正解だ。

「ふつう」は時と場所が違えば変わる。

傾向と対策を知ったうえで、試験にのぞまなければいけないのだ。

 

 

教室のドアが開き、試験官が前に出てきた。

いよいよ結果だ。

「えー、時間になりましたので、合格者を発表します」

試験官は手元の用紙を開き、「合格者の番号を読み上げていきます。番号を呼ばれた方は、教室に残ってください」と言う。

俺の番号は30番だ。

試験官が順々に、「ふつう」と認められた人の番号を読み上げていく。

 

「1番、 2番、 4番、 5番……」

 

30番、30番、30番!

合格率は高いが、安心はできない。

俺の心臓がドキドキと早鐘を打つ。

 

「14番、 16番、 18番、 19番……」

 

たとえ免許をとれても、職務質問などで「挙動不審」とみなされたら、免許に減点が付きかねない。

「ふつう」免許は失効する可能性もあるのが怖いところだ。

 

「25番、 26番、 27番、 28番……」

 

いよいよ合否がわかる!

どうかこれからは、俺もみんなと同じように、「ふつう」の毎日を送らせてくれ!



 

 

   END

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  プロフィール

絵 まる

1986年生まれ。10年以上の「ひきこもり」経験がある。現在シューレ大学在籍。

 

文 喜久井ヤシン(きくい やしん)

1987年生まれ。詩人。不登校とひきこもりと精神疾患の経験者で、アダルトチルドレンのゲイ。ツイッターhttps://twitter.com/ShinyaKikui

 

 ※この物語はフィクションです。実在の人物・出来事とは無関係です。

 

 

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