ひきこもり経験者による、約1000文字のショートショートをお届けします。〈生きづらさ〉から生まれた小さな世界をお楽しみください。
生きづらさコンサルタント
はじめまして。
このたびは、〈生きづらさコンサルタント〉をご利用いただきありがとうございます。
サービスのご利用は初めてですか？ようこそおいでくださいました。
今の時代、メンタルのトラブルをいくつも持っているほうがふつうです。
私どもは〈生きづらさコンサルタント〉として、あなたに合ったベストな困りごとをお選びします。
昔は『生きづらさに打ち勝つ』なんて言っていた人もいましたが、そんな考えは時代遅れです。
今は複数の生きづらさとうまく付き合っていく時代ですよ。
スティーブ・ジョブスの神経症や、イーロン・マスクの多動症など、著名な方は必ず何らかの〈生きづらさ〉を抱えていました。
いまどきはセレブと同じように、診断の一つや二つ持っていないと、格好がつきません。
私はどれほど元気で健康な方でも、問題をお付けしてみせます。
さて、お聞きしますが、あなたはこれまでにどんな経験をしてきましたか？
……学校時代に……
……いじめを受けた経験が少々……
……一時期ニートで……
……親との関係がいまひとつ、ですか。
なるほど……。これまでに、うつ病もパニック障害もなかったんですか。
よくそれだけでやってこれましたね。さぞや物足りなかったでしょう！
ぜひとも困りごとを付けていってください！
一見したところ、あなたはとても良い素質をお持ちです。生きづらくなるポテンシャルがありますよ。
心理テストの結果も見せていただきましたが、あなたは「内気で人見知り、だけど意外と好奇心旺盛」に思われます。
そんなあなたには、「アダルトチルドレンの社交不安症添え・聴覚過敏つき」なんていかがでしょう？
……『なんだかソムリエみたい』ですって？いえいえ。
ところで、人は欠点の多い方が愛されやすいものです。
「慢性肥満症」もお付けできますが、いかがです？向いていると思うのですが……それはいらない？わかりました。
では先ほどの診断におまけして、注目度上昇中の「HSP」もお付けしましょう。きっと気に入りますよ。
これからは、仕事でもプライベートでも、あなたは「アダルトチルドレンの社交不安症添え・HSP的聴覚過敏つき」です。
名前がつくことで、人と話すときのでも気持ちの持ちようが変わってきますからね。この肩書きでいきましょう。
どうぞ良い〈生きづらさライフ〉を。
またのご来店、お待ちしております！
END
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プロフィール
絵 とおふじ さおり
文 喜久井ヤシン（きくい やしん）
1987年生まれ。詩人。不登校とひきこもりと精神疾患の経験者で、アダルトチルドレンのゲイ。
Twitter https://twitter.com/ShinyaKikui
※この物語はフィクションです。実在の人物・出来事とは無関係です。
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