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【1000文字小説】ひきこもりの昼食

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(文・南 しらせ)

 

これは私のひきこもり生活での、いつものお昼ご飯の話だ。

私は昼食に米系(インスタントのカレー・冷凍チャーハンなど)と、麵系(インスタントラーメン・冷凍パスタなど)の2種類の炭水化物をほぼ一日おきに食べる。あとはそれらをひたすら食べ続けるだけだ。腹が膨れればいいので、メニューの少なさや味に飽きを感じることはない。

今日は麺の日なのでインスタントラーメンを作った。野菜など余計な食材は入れず、麺のみをゆでて器に移す。このタイミングでTVをつけて、あまり見たくないワイドショーにチャンネルを合わせる。正直面白くはないけれど、食事の音以外何もしないよりはましだ。そして「いただきます」も言わずに麺を啜る。水をがぶ飲みして、麺を胃に流し込む。

5分くらいで一気に食べ終えて、深いため息がこぼれた。ひきこもって一人でご飯を食べるようになってから、私はとにかく早食いになった、と思う。一人でご飯を食べる時の孤独感は、急にやってくる。私はなんでこんなところで、一人で、ご飯を食べているんだろう。そんな現実から目を背けたくて急いで飯を済ますのだが、それが無性に、疲れる。

他人と食事をともにしないから、普通の人の食事のペースも分からなくなってしまった。「君、食べるペースが速いよ」なんて言ってくれる人もいない。食べ方も年々雑になっている気がする。ひきこもり一人ご飯の弊害は、なかなかに大きい。

いつか誰かと昼食をとる日が、私にも来るのだろうか。食事の時に隣に誰かがいて「もっとゆっくり食べなよ」とか「これ、おいしいね」と言い合える人に、私は出会えるのだろうか。そういうささやかな幸せを、感じられる日は来るのだろうか。一人でいる時間が長すぎて、そんな未来を想像することは難しくなってしまった。

もう考えるのは、やめよう。そう自分に言い聞かせ、食べ終えた食器を流し台へ持っていくため、私は椅子から立ち上がる。掻き込んで食べたせいで、うまく消化できていない麺が胃にどしんと落ちてくる感じがして、気分が悪い。

食器を洗うのはまた後にしよう、と考えてしまっている時点で、もう洗い物をする気力がないことに自分で気が付く。腹は一応膨らんだが、代わりに元気がどこかから出ていってしまった感じがした。

今日のお昼のラーメンの味は、悪くなかった。それでもこの毎日は、どこか味気ない。

 

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執筆者 南 しらせ

自閉スペクトラム症などが原因で、子ども時代から人間関係に難しさを感じ、中学校ではいじめや不登校を経験。現在はB型作業所に通所中(ひきこもり生活は6年目)。