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【1000文字小説】東京湾上陸!大怪獣アメミーゴの友達いっぱい大作戦

 

 ひきこもり経験者による、約1000文字のショートショートをお届けします。〈生きづらさ〉から生まれた小さな世界をお楽しみください。

 

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人間の着ぐるみも楽じゃねぇぜ

 

 

 

  東京湾上陸!大怪獣アメミーゴの友達いっぱい大作戦

 

アメミーゴはいい奴だった。

最後は人間に殺されてしまったけれど、ほんとにいい奴だったんだよ。

 

ずっと海の底から、陸地の様子をうかがっていた。

だがある時、たくさんの人間と友達になりたくなって、自分から会いに行くことにした。

上陸に選んだのは、人口過密の東京だ。

 

アメミーゴは、ドドドドド……と東京湾の海面に現れ、人々をサプライズで驚かせた。

体長は約80メートル。

黒と赤の体皮は分厚く、ギトギトの重油にまみれている。

巨体のせいで大波が起きたため、品川は水びたしになった。

アメミーゴからは、海岸の人間たちが歓声をあげているように見えた。

 

(さあ、これからみんなと仲良くするぞ!)

アメミーゴは純真な気持ちをこめて、東京中に挨拶をした。

「コ・ン・ニ・チ・ハ!」

だが人間たちにとっては、突如現れた大怪獣が、奇怪な雄たけびを上げただけだった。

漏れでた胃酸が臨海公園を汚し、口から放たれた爆風は東京タワーを揺らした。

 

アメミーゴは律儀だったから、ちゃんとプレゼントも持ってきている。

海底で集めた宝物を、人間たちのために用意していたのだ。

(きっと喜んでくれるだろう!)

アメミーゴには、海辺を花束で飾るお土産のつもりだった。

だが人間たちは、叫び声をあげて逃げまどうばかりだ。

「なんてことだ!化け物がゴミだらけのヘドロを巻きちらしているぞ!」

湾岸は大混乱だった。

東京モノレールは止まり、地価は暴落して住民に大損害を与えた。

「すぐさま、あの怪獣を退治せよ!」

 

人間たちは、アメミーゴに向かって航空機からの爆撃を始めた。

アメミーゴは一瞬だけ、(もしかしたら、ぼくは歓迎されていないのかもしれない……)と不安になった。

だがアメミーゴはめげない。

(まだプレゼントが足りないのだ!)と思いなおした。

 

アメミーゴは、人間たちのために歌を披露した。

このとき、渋谷のNHK本部のアンテナは吹き飛び、関東一帯のWi-Fiが使用不能になった。

 

さらには(地上絵を描いてあげよう!)と思い立ち、スカイツリーまで北上。

アメミーゴが好きなイラストを描いたため、江東区周辺は久方ぶりに更地になった。

 

しかし頑張っているのに、人間たちは本気を出して爆撃してくる。

うずくまって(ハァ……)とため息をつくと、息に毒がまじっていたため、浅草方面を悪臭まみれにさせた。

アメミーゴの視線の先で、住民と外国人観光客が、悲鳴をあげながら去っていく。

 

(ああ、ぼくは友だちになりたかっただけなのに……)

攻撃は激しくなり、いつしかアメミーゴは気を失った。

「いまだ、とどめをさせ!」

人間たちの自衛によって、アメミーゴはあっけなく殺されてしまった。

 

大怪獣を打ち倒し、首都圏の人々は安堵した。

海辺のヘドロも撤去され、歌声による騒音被害からも復旧。

その後、都の衛生管理局によって、死体は迅速にゴミ処理場へと運ばれていった。

アメミーゴの死体は腐臭を放ち、最後まで人々の迷惑となっていた。

 

アメミーゴは、人々に莫大な損害をもたらした。

それはどうしようもない事実だ。

だがもう一度言っておく。

アメミーゴはいい奴だった。

本当に、とってもいい奴だったんだよ。

 

 

 

    END

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文・絵 キクイ ヤシン
1987年生まれ。詩人。不登校とひきこもりと精神疾患の経験者で、アダルトチルドレンのゲイ。Twitter https://twitter.com/ShinyaKikui

 

 

※この物語はフィクションです。実在の人物・団体・出来事とは無関係です。