「第9回」からのつづき・・・
文・子守鳩
人間関係ストレスのない仕事
せどりは、トータルで6年ちょっとやりました。
その間、せどりの収入だけで生活費を賄うことができました。
これだけ長続きしたのは、この仕事には人間関係のストレスがほとんどなかったからだと思います。
会社で働いていた時のように上司や社長や同僚やお客さんに気を遣ったり合わせたりといった気苦労がなく、業務はほぼブックオフに買い物に行くだけだったからでしょう。
ある意味、裏山に栗を拾いに行く程度のストレスしか感じていませんでした。
たまに仕入先のブックオフでライバルに遭遇して嫌な思いをすることもありましたが、そういう時は他の店に移動することで摩擦を回避できましたから、大したストレスにはなりませんでした。
自己投資にお金をかける
一方で、毎日ブックオフに通う生活を定年まで続けるわけには行かない、とも感じていました。
そして、
「できることなら月30万円の利益で甘んじることなく、月50万円、100万円と稼げるようになりたい」
という気持ちが次第に強まっていきました。
実際、月に90万円も稼げた時もあったので、月収100万円を安定的に稼げるようになりたいと思ったのです。
その結果、いろいろなビジネス教材を買い漁るようになりました。
教材も安い物は数千円から、高い物は数万円の物までいろいろありました。
それらは、作業さえすれば確かに稼げるようになる内容ではありましたが、普段のせどりの仕入れ業務の合間にやろうと思えるような作業はほとんどありませんでした。
当時は月30〜40万円の収入があって、それなりにお金に余裕があったので、教材だけでは飽き足らなくなり、高額セミナーや高額ワークショップ、経営コンサルティングなども受けるようになっていきました。
最初は利益の再投資先として、手元にあるお金でそういったセミナーやワークショップを受けていたのですが、次第に投資額は高額化し、クレジットカードで支払いをするようになりました。
これが転落の始まりでした。
最終的にはクレジットカードを10枚以上、借金700万円以上を抱えて自己破産することになったのです。
起業セミナーで学んだこと
たくさんのセミナー、ワークショップ、コンサルティングなどを受けて実感したのは、こういうことでした。
「確かに学びはある。けれども、それらを受けたからといって、必ずしも稼ぎが増えるわけではない」
当たり前と言えば当たり前のことですが、受けていた当時は、
「このワークショップを受けさえすれば、もっと稼げるようになる」
などと本気で信じていたのです。
講師となっている「あの凄い人」の個別コンサルを受ければ、それだけで絶対バリバリと稼げるようになると信じ切っていました。
しかし、そうはなりませんでした。
やれば稼げる内容を教えてもらうことはできたのですが、なかなかやれなかったのです。
なぜやれなかったのかというと、疲れ、忙しさ、面倒臭さ、作業のつまらなさや苦痛などが大きかったからです。誰でも勉強すれば偏差値が上がるのと同じで、やりさえすれば稼げるようになることでも、やっぱり面倒臭くてやれなかったのです。
そう考えると、私がせどりで稼げるようになったのは、作業が面倒臭くなく、むしろ楽しかったからです。この違いは大きいです。
「条件のよい仕事」を選んでみれば
ここで得た教訓も本当に大きかったです。
「自己投資にいくらお金をかけても、自分の性格に合わなかったら成果は出ない」
ということでした。
どんなビジネスにも合う合わないがあり、性格次第なんだなと痛感しました。
結局破産したのはせどりが原因ではなく、セミナーやワークショップへの自己投資が原因でした。
せどりの事業自体は最後の最後まで黒字でした。しかしその黒字で自己投資代を吸収しきれなくなり、破産となったのでした。
破産してクレジットカードが使えなくなり、せどりはもう続けられなくなりました。
そこでまたハローワークに行き、今度は「やりたい仕事」ではなく、「条件のよさそうな仕事」を選びました。
それは空調設備の保守・管理の仕事でした。
この仕事は未経験でしたが、いきなり給料が25万円と高かったので選びました。しかし、覚える内容が多過ぎて覚えられず、上司からの叱責に耐えられなくなり、二カ月で辞めることになりました。
つぎに、派遣で倉庫内でおこなう軽作業の仕事に就きました。
それは荷物の梱包や検品でした。
やってみると軽作業とは名ばかりで、かなりの重労働でした。
この仕事はきつくて疲れるだけで、賃金は低く、何の喜びも楽しみもありませんでしたが、6カ月耐えました。でも、それが限界でした。ボーナスも保障も将来性もない、苦痛だけの仕事は、それ以上続ける気力が起こりませんでした。
それからはもう働く意欲そのものがなくなり、貯金で何とか食いつなぐ生活を始めました。ところが貯金といっても20万円もありませんでしたから、その生活は遅くとも数か月で破綻することが目に見えていました。
しかしそれでも働く意欲が湧いてきませんでした。
そこで、
「これでお金が尽きたらもうホームレスになろう」
と覚悟を固めました。それで就活も止め、毎日図書館に通ってホームレスになるための本を読み続けていきました。
ホームレスの生活とはいかなる生活なのか、どこにテントを張るのか、どうやってテントを手に入れるか、どうやって食料を手に入れるか、そんなことを調べ続けて行きました。その間も貯金は減り続け、ついには家賃も払えない状況になっていきました。
・・・「第11回」へつづく
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