「第10回」からのつづき・・・
文・子守鳩
そこには罠があった
皆さんは借金をしたことはありますか?
聞いてみると、世の中にはけっこう「借金などしたことない」という人が居て、私はよく驚くのです。
威張るわけではありませんが、借金にかけては、私はちょっとした上級者でした。
私がしていた借金の借り先は、日本政策金融公庫とクレジットカードでした。
日本政策金融公庫は利率も低く、毎月の返済額も小さいので、非常に助かりましたが、クレジットカードの方は、毎月の返済額も利率も大きく、返済が本当に大変で、いつも苦しい思いをしていました。
いま思い返せば、私はみごとにクレジットカード会社の罠に嵌っていたんだなと思います。
つまり、金融のことなどほとんど知らない一般人をリボ払い地獄に落とし込む、という罠です。
カードでは通常、本人が持っている金額以上のショッピング枠が与えられます。人はついつい、その枠ギリギリまで買い物をしてしまい、案の定、返済できなくなり、リボ払いになっていくのです。
こうなると、その人はクレジット会社にとって毎月、利息を払ってくれるカモになります。
私はこの罠にすっぽりと嵌ってしまいました。
せどり(*1)を始めた頃は、現金で商品を仕入れていました。でも、そうすると、その現金で生活費も賄う必要があったので、なかなか手元にある現金を増やすことができませんでした。
*1. せどり:本シリーズ第9回参照
それで当時コンサルを受けていた経営コンサルタントから、クレジットカードでの仕入れを勧められました。
私のなかに一抹の心配がよぎりましたが、コンサルタントから、
「いや、クレジットカードの引き落とし日が来るまでに仕入れた商品を売り切れば大丈夫だから」
と言われました。
「そういうものかな」
と思い、クレジットカードを使うようになりました。
すると、確かに売り上げも利益も倍増させることができました。
そして、そのことに味を占め、いろいろなものをカード払いにしていくようになりました。お金を使っては稼いで借金を返し、また使っては稼ぎ、という自転車操業が始まったのです。
そのうち、十万単位の高額セミナー、高額ワークショップの類も、平気でつぎつぎとカード払いをするようになり、借金は雪だるまのように増えていってしまいました。
数年間のうちに借金は700万円を超えるまでに膨らみ、自転車操業にも限界が来るようになりました。
破産するにもお金が要る
こうなると私は、どうしたらこの借金地獄から抜け出せるのか、どうしたらこの苦しみを乗り越えられるか、と毎日そればかりを考えるようになりました。
せどりを始めたころは楽しくて仕方なかったのに、いつの間にかそれも、借金を返すために追い立てられるようにしてやるだけになっていました。
苦しみから逃れたいあまり、死にたいと思うようにもなっていきました。
こうして、その頃から再び、死後の世界や輪廻転生、魂の存在など、いわゆるスピリチュアルな世界のことについて調べるようになりました。
スピリチュアルなブログを読み漁り、たくさんの動画を見たりして調べ続けていきました。
そんなことをしても借金の苦しみは消えないのですが、まるですがりつくように、そういう情報に惹かれていったのです。
そのうちに、
「人間には魂というものがあるらしい。その魂というのは自分が死んだ後も生き続けるらしい。『自分』だと思っているものは実は魂らしい」
などと信じるようになっていきました。
豊かで幸せになるためにスピリチュアルなことを学び始めたのですが、いくら学んでも借金は減らず、苦しみも減らず、とうとう自己破産を迎えることになりました。
自己破産するしかないと思うようになって、また重大なことに気づかされました。
それは、
「本当にお金がなくなったら自己破産すらもできない」
ということでした。
貧しい人たちが法的な手続きを必要とするときのための機関である法テラスを利用したのですが、それでも法テラスから紹介された弁護士に約10万円、破産管財人に約20万円と、破産するために合計30万円ものお金が必要だったのです。
ホームレスになる前に
こうして私は破産しました。
もうクレジットカードも持てなくなりました。
その後、いくつかの仕事をやりましたが、前回の記事にも書いたように、次第に働く意欲そのものを失うようになっていきました。
もう働きたくない…
働きたくない人間は働かなくてもいいじゃないか…
なんで人間は働かなきゃいけないんだ…
金持ちだって働いてないじゃないか…
貧乏人は働いてないと文句言われるけど、金持ちが貯金だけで生活してても文句言われない…
この世の中は不平等だな…
そんなことばかりを延々と考え続けていました。
ついに貯金もなくなり、家賃を支払う目途が立たなくなって、このまま行けばホームレスになることが確定という状態になりました。
私には、家賃を滞納してまで賃貸マンションに居座り続けるという勇気がなかったのです。
その時に思いました。
ホームレスにはいつでもなれる。いまそれを急がなくてもいいだろう…。
そうだ、一度農業にも関わってみたかったんだっけ…。
住み込みの農業バイトならできるかもしれない…。
バイト代ももらえて、賄い付きで住むところも無料。それなら生きていけるじゃないか…。
そうだ。それをやってみて、ダメだったらホームレスになろう…。
そう考え、農業バイトの求人サイトでいろいろ検索して、山梨県のとある市で農業の住み込みバイトをしてみることにしました。
家賃が払えないということは部屋を明け渡さないといけないので、家財道具をすべて売ったり捨てたりしました。そして、スーツケースとリュックサックとバッグに荷物をまとめ、賃貸マンションの部屋を引き払って身一つで山梨県の農場へと向かいました。
・・・「第12回」へつづく
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