(編集 喜久井伸哉)
今回は、知られざる〈ひきこもりソング〉の世界を特集!「おうち」タイムを歌ったキュートな一曲から、シリアスに叫ぶK‐POPまで。深刻になりがちな「ひきこもり」の話題を、最新の音楽で吹き飛ばします。
- No.1 Haze 『引きこもりロック』 (2022年)
- No.2 忘れらんねえよ 『踊れ引きこもり』(2019年)
- No.3 のん『私は部屋充』(2019年)
- No.4 星野源 『うちで踊ろう』(2020年)
- No.5 でんぱ組.inc『なんと!世界公認 引きこもり!』(2020年)
- No.6 バン・ヨングク 『Hikikomori』(2019年)
- No.7 まふまふ 『命に嫌われている』 (2018年)
- No.8 藤川千愛 『バケモノと呼ばれて』(2020年)
- 番外1 RADWIMPS 『ヒキコモリロリン』(2005年)
- 番外2 大槻ケンヂと橘高文彦『日本引きこもり協会のテーマ』(2006年)
No.1 Haze 『引きこもりロック』 (2022年)
www.youtube.com https://www.youtube.com/watch?v=d-i0ssoE_EA&list=WL&index=23
一曲目はガールズバンドのHaze(ヘイズ)が、今年3月に発表したロックナンバー。
ひきこもりを真正面から取り上げた歌詞を、荒々しい特徴的な声で叫んでいる。
僕の引きこもりがロックになる
お前にはわからない
無条件私情脱ニート
僕の引きこもりがロックになる
メンバーのKATYは、「引きこもりは世間の風潮的にあまりよいイメージはないですが ひきこもった中にそれぞれのロックがあるとかんじますと、おもって作りました それぞれの人生のロックに乾杯」とコメント。
切れ味のある一曲に仕上がっている。
No.2 忘れらんねえよ 『踊れ引きこもり』(2019年)
www.youtube.com https://www.youtube.com/watch?v=yPUc0UNNJHg
続いては激しい「踊れひきこもり」。
「忘れらんねえよ」はタイトルではなくバンド名だ。
踊れ踊れ引きこもり
爆発的なセンスのダンスを!
アガれアガれ引きこもり
馬鹿みたいなサイズのドリームを!
ステレオタイプなひきこもり像を、がむしゃらな熱唱で爆発させている。
カッコよさをかなぐり捨てて、怒涛の勢いで進むMVにも注目。
バンドの公式サイトを見ると、「2008年結成。メンバーはVo&Gt 柴田隆浩のみ(他のメンバーは全員脱退)」というちょっと悲しいプロフィールが出ている。
しかし曲作りに定評があり、中山美穂や菅田将暉にも楽曲を提供。
次に紹介するのんの曲も、柴田隆浩のプロデュース作品だ。
No.3 のん『私は部屋充』(2019年)
www.youtube.com https://www.youtube.com/watch?v=yOUXPstANrI
女優としても「創作あーちすと」としても活躍するのんの、アップテンポなナンバー。
「リア充」ならぬ「部屋充」を歌い、「辛いこともあるけれど、ひらきなおって楽しんじゃおう!」というノリで突っ走っていく曲だ。
わー!って言えば変わるかな
そんな簡単じゃないこと
分かっている わかっている
それでも込み上げてくるもの
発表されたのはコロナウイルスが広まる前で、本気で「おうち」を楽しもうとするやる気に満ちている。
のんが放つ魅力とあいまって、カラフルでハッピーな爽快感がある。
No.4 星野源 『うちで踊ろう』(2020年)
www.youtube.com https://www.youtube.com/watch?v=ct9PgkD9zQE
「おうち」を歌った有名な曲と言えばこれ。
2020年4月、コロナウイルスによる緊急事態宣言が出された時期に、インスタグラムで発表。
ティックトックやユーチューブの拡散効果とあいまって、一大ムーブメントが起きた。
うちで踊ろう ひとり帰ろう
変わらぬ鼓動 弾ませろよ
生きて踊ろう 僕らそれぞれの場所で
重なりあうよ
軽快で素朴なメロディーながら、歌詞を読むとけっこう暗さも含んでいる。
いまあらためて聞き直すと、当時とは違った聞き方が生まれてくる曲だ。
No.5 でんぱ組.inc『なんと!世界公認 引きこもり!』(2020年)
www.youtube.com https://www.youtube.com/watch?v=lAfPuUaSZQc
でんぱ組.inc(インク)は、2009年結成の女性アイドルグループ。
本作は、緊急事態宣言が出てからすぐに発表された。
楽曲とMVは完全テレワークで制作されており、コロナ禍の「新しい日常」に負けない姿勢がアピールされている。
メンバーはマンガやアニメなどのオタクで、本作の歌詞にも「長編全巻ジャーンってオトナ読み」、「ぴくしぶ絵師 大巡回」といった言葉に、オタクな趣味が表れている。
同時期に『星降る引きこもりの夜』(2020年)も発表。
内向的な強さは、こちらの曲の方が感じられるのではないだろうか。
No.6 バン・ヨングク 『Hikikomori』(2019年)
youtu.be https://youtu.be/D6fe3Nqpw9M
つづいては韓国の人気歌手、バン・ヨングク(Bang Yong-Guk)のナンバー。
タイトルが日本語由来の「ヒキコモリ」で、歌詞の内容も自身の体験をもとにしている。
韓国語のため歌詞は和訳を読まねばならないが、MVを見るだけでも憂鬱なムードが伝わってくる。
(とはいえ、サビで「ひきこもり もりっ もりっ」と聞こえ、ちょっとユニークな印象もある。)
韓国語で活躍する歌手だが、日本酒をタイトルにした『YAMAZAKI(山崎)』もあり、こちらはユーチューブで900万回再生を誇るヒット作だ。
なお、韓国では以前から「Hikikomori」が話題となっている。
韓国映画の『彼とわたしの漂流日記』(2009年)は、ひきこもり女子が主役の傑作だった。
No.7 まふまふ 『命に嫌われている』 (2018年)
www.youtube.com https://www.youtube.com/watch?v=eq8r1ZTma08
本来はカバー曲(歌ってみた)だが、まふまふのハイトーンボイスと曲調がマッチして大ブレイク。
NHK紅白歌合戦でも披露されたため、ネットを見ない層にも認知度が高まった。
ユーチューブの再生回数も多く、現代の日本を象徴する曲の一つといっても過言ではないだろう。
僕らは命に嫌われている。
軽々しく死にたいだとか
軽々しく命を見てる僕らは命に嫌われている。
まふまふは、イベントのタイトルなどで「ひきこもりでも〇〇がしたい!」と付けるのが定番だ。
今年開催された東京ドームでのライブタイトルも、「ひきこもりでもLIVEがしたい!」だった。
No.8 藤川千愛 『バケモノと呼ばれて』(2020年)
www.youtube.com https://www.youtube.com/watch?v=bdQ8JyFhFx4
藤川千愛(ふじかわ ちあい)は、2018年デビューのアーティスト。
テレビドラマ『科捜研の女』や、アニメ『盾の勇者の成り上がり』のテーマ曲を歌っていることで知られる。
「バケモノと呼ばれて」も、アニメ『無能なナナ』のエンディングテーマだ。
この曲は暗い低音から始まり、高音に突き抜けていくサビが耳に残る。
この世界は嘘と 君が叫んでくれたなら
もうちょっとだけ
もうちょっとだけ もうちょっとだけ
世界を許してみようかな
本作は3rdアルバムの『HiKiKoMoRi』の収録曲だ。
タイトルは、コロナ禍で引きこもっている時期に制作されたことによる命名。
インタビューによると、引きこもっている時に絶望を感じた分、希望を見つけ出そうとしてポジティブさが生じたという。
アルバムタイトルの「HIKIKoMoRi」(ヒキコ・モリ)は、どことなく「メメント・モリ(死を思え)」というラテン語の語感を思わせる。
番外1 RADWIMPS 『ヒキコモリロリン』(2005年)
動画付きの紹介はここまでだが、他にも「ひきこもりソング」の傑作がある。
本作は『RADWIMPS 2 〜発展途上〜』というアルバムの収録曲。
ラッドウィンプスがブレイクする前で、まさに「発展途上」だった時期に発表されている。
直接的にひきこもりのことを歌っているわけではないが、バンドボーカルの野田洋次郎らしい、複雑でとがった歌詞が特徴的だ。
番外2 大槻ケンヂと橘高文彦『日本引きこもり協会のテーマ』(2006年)
2000年代前半に、小説やアニメで話題になった『NHKへようこそ』。
「NHK」は「日本引きこもり協会」の略で、他意はない。
「NHKへようこそ」は外国でも話題となり、世界に「HIKIKOMORI」を知らしめた功績(?)がある。
この曲は、おそらく世界で唯一の「ひきこもり」を歌ったパンクだ。
正式な動画がないためここでは映像を紹介できないが、検索すれば(非公式な)動画が見つかるだろう。
コメディチックなアニメとハードな曲とが化学反応を起こし、派手な自爆音をとどろかせている。
「ひきこもりソング」の歴史に残る、画期的な一曲だ。
おわりに
今回は、〈ひきこもりソング〉傑作選をお届けした。
メディアではよく、「ひきこもり」の暗いイメージが報道されている。
当事者の活動が報じられたとき、少しでも明るかったり活動的だったりすると、「ひきこもりではない」などと非難する視聴者までいるらしい。
だが「ひきこもり」であれ誰であれ、四六時中思い悩んでいることなどできない。
それは精神的にも体力的にも不可能だ。
叫びたいときもあれば歌いたくなるときもあり、場合によっては踊りたいときもある。
そんなとき、軽快なポップスや激しいロックは、つかのまの味方になってくれるものだ。
時には〈ひきこもりソング〉でもかけて、うちで踊ろう。
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編集 喜久井伸哉(きくいしんや)
1987年生まれ。詩人・フリーライター。ひきこもり経験者。座右の銘は『汝自らを笑え』。
Twitter https://twitter.com/ShinyaKikui
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