ひきポス -ひきこもりとは何か。当事者達の声を発信-

『ひきポス』は、ひきこもり当事者、経験者の声を発信する情報発信メディア。ひきこもりや、生きづらさ問題を当事者目線で取り上げます。当事者、経験者、ご家族、支援者の方々へ、生きるヒントになるような記事をお届けしていきます。

【音楽】おうちで熱唱!最新〈ひきこもりソング〉傑作選! 有名バンドのあの曲から誰も知らない迷曲まで

(編集 喜久井伸哉)

 

今回は、知られざる〈ひきこもりソング〉の世界を特集!「おうち」タイムを歌ったキュートな一曲から、シリアスに叫ぶK‐POPまで。深刻になりがちな「ひきこもり」の話題を、最新の音楽で吹き飛ばします。

 

 

 

No.1 Haze 『引きこもりロック』 (2022年)

www.youtube.com https://www.youtube.com/watch?v=d-i0ssoE_EA&list=WL&index=23

 

一曲目はガールズバンドのHaze(ヘイズ)が、今年3月に発表したロックナンバー。

ひきこもりを真正面から取り上げた歌詞を、荒々しい特徴的な声で叫んでいる。

 

僕の引きこもりがロックになる

お前にはわからない

無条件私情脱ニート

僕の引きこもりがロックになる

 

メンバーのKATYは、「引きこもりは世間の風潮的にあまりよいイメージはないですが ひきこもった中にそれぞれのロックがあるとかんじますと、おもって作りました それぞれの人生のロックに乾杯」とコメント。

切れ味のある一曲に仕上がっている。

 

 

No.2 忘れらんねえよ 『踊れ引きこもり』(2019年)

www.youtube.com  https://www.youtube.com/watch?v=yPUc0UNNJHg

 

続いては激しい「踊れひきこもり」。

「忘れらんねえよ」はタイトルではなくバンド名だ。

踊れ踊れ引きこもり

爆発的なセンスのダンスを!

アガれアガれ引きこもり

馬鹿みたいなサイズのドリームを!

 

ステレオタイプなひきこもり像を、がむしゃらな熱唱で爆発させている。

カッコよさをかなぐり捨てて、怒涛の勢いで進むMVにも注目。

 

バンドの公式サイトを見ると、「2008年結成。メンバーはVo&Gt 柴田隆浩のみ(他のメンバーは全員脱退)」というちょっと悲しいプロフィールが出ている。

 

しかし曲作りに定評があり、中山美穂や菅田将暉にも楽曲を提供。

次に紹介するのんの曲も、柴田隆浩のプロデュース作品だ。

 

No.3 のん『私は部屋充』(2019年) 

www.youtube.com  https://www.youtube.com/watch?v=yOUXPstANrI

 

女優としても「創作あーちすと」としても活躍するのんの、アップテンポなナンバー。

「リア充」ならぬ「部屋充」を歌い、「辛いこともあるけれど、ひらきなおって楽しんじゃおう!」というノリで突っ走っていく曲だ。

 

わー!って言えば変わるかな

そんな簡単じゃないこと

分かっている わかっている

それでも込み上げてくるもの

 

発表されたのはコロナウイルスが広まる前で、本気で「おうち」を楽しもうとするやる気に満ちている。

のんが放つ魅力とあいまって、カラフルでハッピーな爽快感がある。

 

 

No.4 星野源 『うちで踊ろう』(2020年) 

www.youtube.com https://www.youtube.com/watch?v=ct9PgkD9zQE

 

「おうち」を歌った有名な曲と言えばこれ。

2020年4月、コロナウイルスによる緊急事態宣言が出された時期に、インスタグラムで発表。

ティックトックやユーチューブの拡散効果とあいまって、一大ムーブメントが起きた。

 

うちで踊ろう ひとり帰ろう

変わらぬ鼓動 弾ませろよ

生きて踊ろう 僕らそれぞれの場所で

重なりあうよ

 

軽快で素朴なメロディーながら、歌詞を読むとけっこう暗さも含んでいる。

いまあらためて聞き直すと、当時とは違った聞き方が生まれてくる曲だ。

 

 

No.5 でんぱ組.inc『なんと!世界公認 引きこもり!』(2020年)

www.youtube.com https://www.youtube.com/watch?v=lAfPuUaSZQc

 

でんぱ組.inc(インク)は、2009年結成の女性アイドルグループ。

本作は、緊急事態宣言が出てからすぐに発表された。

楽曲とMVは完全テレワークで制作されており、コロナ禍の「新しい日常」に負けない姿勢がアピールされている。

 

メンバーはマンガやアニメなどのオタクで、本作の歌詞にも「長編全巻ジャーンってオトナ読み」、「ぴくしぶ絵師 大巡回」といった言葉に、オタクな趣味が表れている。

 

同時期に『星降る引きこもりの夜』(2020年)も発表。

内向的な強さは、こちらの曲の方が感じられるのではないだろうか。

 

www.youtube.com

 

 

No.6 バン・ヨングク 『Hikikomori』(2019年)

youtu.be https://youtu.be/D6fe3Nqpw9M

 

つづいては韓国の人気歌手、バン・ヨングク(Bang Yong-Guk)のナンバー。

タイトルが日本語由来の「ヒキコモリ」で、歌詞の内容も自身の体験をもとにしている。

韓国語のため歌詞は和訳を読まねばならないが、MVを見るだけでも憂鬱なムードが伝わってくる。

(とはいえ、サビで「ひきこもり もりっ もりっ」と聞こえ、ちょっとユニークな印象もある。)

 

韓国語で活躍する歌手だが、日本酒をタイトルにした『YAMAZAKI(山崎)』もあり、こちらはユーチューブで900万回再生を誇るヒット作だ。

 

なお、韓国では以前から「Hikikomori」が話題となっている。

韓国映画の『彼とわたしの漂流日記』(2009年)は、ひきこもり女子が主役の傑作だった。

 

 

 

No.7 まふまふ 『命に嫌われている』 (2018年)

www.youtube.com https://www.youtube.com/watch?v=eq8r1ZTma08

 

本来はカバー曲(歌ってみた)だが、まふまふのハイトーンボイスと曲調がマッチして大ブレイク。

NHK紅白歌合戦でも披露されたため、ネットを見ない層にも認知度が高まった。

ユーチューブの再生回数も多く、現代の日本を象徴する曲の一つといっても過言ではないだろう。

 

僕らは命に嫌われている。

軽々しく死にたいだとか

軽々しく命を見てる僕らは命に嫌われている。

 

まふまふは、イベントのタイトルなどで「ひきこもりでも〇〇がしたい!」と付けるのが定番だ。

今年開催された東京ドームでのライブタイトルも、「ひきこもりでもLIVEがしたい!」だった。

 

 

No.8 藤川千愛 『バケモノと呼ばれて』(2020年)

www.youtube.com https://www.youtube.com/watch?v=bdQ8JyFhFx4

 

藤川千愛(ふじかわ ちあい)は、2018年デビューのアーティスト。

テレビドラマ『科捜研の女』や、アニメ『盾の勇者の成り上がり』のテーマ曲を歌っていることで知られる。

「バケモノと呼ばれて」も、アニメ『無能なナナ』のエンディングテーマだ。

この曲は暗い低音から始まり、高音に突き抜けていくサビが耳に残る。

 

この世界は嘘と 君が叫んでくれたなら

もうちょっとだけ

もうちょっとだけ もうちょっとだけ

世界を許してみようかな

 

本作は3rdアルバムの『HiKiKoMoRi』の収録曲だ。

タイトルは、コロナ禍で引きこもっている時期に制作されたことによる命名。

インタビューによると、引きこもっている時に絶望を感じた分、希望を見つけ出そうとしてポジティブさが生じたという。

アルバムタイトルの「HIKIKoMoRi」(ヒキコ・モリ)は、どことなく「メメント・モリ(死を思え)」というラテン語の語感を思わせる。

 

 

番外1 RADWIMPS 『ヒキコモリロリン』(2005年)

 

動画付きの紹介はここまでだが、他にも「ひきこもりソング」の傑作がある。

本作は『RADWIMPS 2 〜発展途上〜』というアルバムの収録曲。

ラッドウィンプスがブレイクする前で、まさに「発展途上」だった時期に発表されている。

直接的にひきこもりのことを歌っているわけではないが、バンドボーカルの野田洋次郎らしい、複雑でとがった歌詞が特徴的だ。

 

番外2 大槻ケンヂと橘高文彦『日本引きこもり協会のテーマ』(2006年)

 

2000年代前半に、小説やアニメで話題になった『NHKへようこそ』。

「NHK」は「日本引きこもり協会」の略で、他意はない。

 

NHKにようこそ!(1) (角川コミックス・エース)

 

「NHKへようこそ」は外国でも話題となり、世界に「HIKIKOMORI」を知らしめた功績(?)がある。

この曲は、おそらく世界で唯一の「ひきこもり」を歌ったパンクだ。

 

正式な動画がないためここでは映像を紹介できないが、検索すれば(非公式な)動画が見つかるだろう。

コメディチックなアニメとハードな曲とが化学反応を起こし、派手な自爆音をとどろかせている。
「ひきこもりソング」の歴史に残る、画期的な一曲だ。

 

 

 おわりに

 

今回は、〈ひきこもりソング〉傑作選をお届けした。

メディアではよく、「ひきこもり」の暗いイメージが報道されている。

当事者の活動が報じられたとき、少しでも明るかったり活動的だったりすると、「ひきこもりではない」などと非難する視聴者までいるらしい。

だが「ひきこもり」であれ誰であれ、四六時中思い悩んでいることなどできない。

それは精神的にも体力的にも不可能だ。

叫びたいときもあれば歌いたくなるときもあり、場合によっては踊りたいときもある。

そんなとき、軽快なポップスや激しいロックは、つかのまの味方になってくれるものだ。

時には〈ひきこもりソング〉でもかけて、うちで踊ろう。

 

 

--------------

編集 喜久井伸哉(きくいしんや)
1987年生まれ。詩人・フリーライター。ひきこもり経験者。座右の銘は『汝自らを笑え』。
Twitter https://twitter.com/ShinyaKikui

 

  オススメ記事

●〈生きづらさ〉ソング特集 あいみょん・SEKAI NO OWARI 他