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【ひきこもりと地方】<当事者会めぐり>安心できる場をめざして多彩なイベントを創意工夫 ~ ひきこもり女子会 in 京都

宇治川 朝霧橋  写真・丸岡ジョー

 

 

文・福岡登美子(ひきこもり女子会 in 京都 ボランティアスタッフ

写真・ひきこもり女子会 in 京都(クレジット註記のないもの)

編集・ぼそっと池井多

 

「ひきこもり女子会in京都」は、宇治茶で知られる京都府宇治市で開催している女子会です。2016年10月以来、オンライン回もふくめてほぼ月1回の開催を続け、おかげさまで次の本年1月には72回目を数える運びとなりました。

 

リアル回のときの会場は、心華寺しんげじというお寺(*1)の研修施設です。
なぜお寺なのか? ――心華寺の住職だった故・斯波最誠氏が、地域の方から「子どもが学校に行きたがらない」「職場の人間関係がつらい」などの相談を数多く受けていたことに由来します。お寺や神社は、昔から地域でそのような役割も担う場所だったのでしょうね。

 

相談が増えるにつれ、宗教色を排して誰もが気軽に相談できるようにしようと、斯波氏は、ひきこもりや不登校に悩む人の支援を目的に「NPOこころのはな」を設立しました。2015年のことです。「ひきこもり女子会in京都」は「NPOこころのはな」の事業の一つです。

 

*1.心華寺(しんげじ)

比叡山延暦寺の根本中堂にある不滅の法灯を分灯している天台宗のお寺。
京都府宇治市神明石塚 
https://shingeji.jp/about/ 
近鉄伊勢田駅より東へ徒歩10分

 

心華寺

当会は1部(約50分)と2部(約90分)に分かれています。

1部は、ご家族、支援者、行政担当者など当事者以外の方も参加いただけます。主に自己紹介や近況報告のような軽い話が多いです。話したくない人は「パス」も可能。

 

2部は当事者か、当事者経験のある女子だけが部屋に残って行います。

テーマごとの少人数テーブルに分かれて、当事者経験のあるスタッフを中心に、話したいことがある人は話し、話したくない人はそれを聴く時間です。聴いているうちに話したくなったら話します。少し離れた場所で人の話を聞きながら自分のことをしたり、受付のスタッフと話したりする人もいます。

受付には、参加者のご家族が手作りしてくださったウェルカムボードを置いています

話の内容は、親子関係、仕事、健康などの話題が多いようです。

「こんなことについて話がしたい」

「こんな時どうしてますか?」

と参加者が話題を提供してくれる場合もあります。


途中でテーブルを移動して別のテーマの話をするのもOK。

途中でボードゲームをするテーブルが発生なんてこともあります。

 

会場がお寺だとこんな良いことが

ここからは「ひきこもり女子会 in 京都」の特徴をお話ししていきます。

会場の心華寺は最寄り駅から徒歩10分。目印は大きなくすのきです。

本堂の参拝も自由。「お参りに行こう」という気持ちでとりあえずお寺まで来て、それから参加を決めてくれた人もいます。

会場となるお寺の研修施設の前にあるくすのきの木

靴を脱いで畳の上でくつろいで話せるのも当会の特徴です。

会場は広くて天井も高い部屋。静かすぎるということもなく、かすかな音が常にあるので、慣れれば緊張することもなく、のびのびした気持ちになってもらえると思います。

気分が悪くなった時は、ふすまで仕切られた隣の部屋でしばらく横になっていただけるのも、会場がお寺の和室だからこそです。

会場の部屋 ふすまの奥は休憩室やご家族の待機部屋

 

大きな声では言えませんが(言ってますが)、お寺には信徒さんからのお供えが常にあり、お下がりのお菓子を差し入れていただけることも多いです。手づくりのおやつや、めったに口にできないような上等なお菓子をいただけることも…。

 

 

多彩なイベント

当会では、NPOの予算を利用し、年に数回、ワークショップ、お出かけ、コンサートなどさまざまなイベントを実施しています。

なお、イベント回の日も、短くてもお話の時間は確保していることがほとんどです。

この6年間で開催してきたいくつかの企画をご紹介しましょう。

 

陶芸

かいとうひろみ(*3)さんによる陶芸ワークショップ。

*3. 参照 陶SAKUSAKU「ここだけの器」 http://sakukoto.com/

 

ほとんどの参加者が初めての経験でしたが、講師のていねいな指導のもと、冷たい土をこねたりたたいたり、触感系の作業を進めながら会話も弾み、個性的な作品がたくさんできました。これまでに3回開催しています。

 

 

ハーブ

當村まりさん(*4)によるハーブ講座。

*4. 参照 ハーブサロン京都 Sideritis(シデリティス) http://sideritis.saloon.jp

 

風邪予防のブレンドティーづくりとテイスティングを楽しんだ「冬のハーブティーを楽しむ」、精油入りで宝石のようにきれいな「ハーブせっけんづくり」、一瞬で泡になるのがもったいないくらいかわいい「スイーツ風バスボムづくり」と3回をこれまで開催しています。

作業中は部屋中がハーブや精油の良い香りで満たされ、それだけで癒されたとの感想もありました。

 

左:スイーツ風バスボム 右:ハーブせっけん

 

オンラインでのフラワーアレンジメントレッスン

フラワーアーティストの津田智織さん(*5)から企画をお持ち込みいただき実現しました。

*5. 参照 インスタグラム tsudachiori https://www.instagram.com/tsudachiori/

 

コロナ禍で生徒さんへのレッスンをオンラインにせざるを得なくなった津田さん。しかしオンラインのレッスンには、人目を気にせず、自分のペースで作品に集中できる別の良さがあると気づかれ、当女子会にも合うのでは?と提案してくださいました。

 

「生のお花の癒しパワーを感じながら、心の動きやトキメキを表現することを大切にしたい」

と花材を扱うポイントを説明しながら、身近な牛乳パックと包装紙を使って活けていく様子を参加者はライブで見学。その後、各自用意した花材で思い思いに活けていきました。カメラをオンにして手元を映せばアドバイスももらえます。

 

できた作品はどれも本当に素敵でした。

「自分の好みを探っていきたいと思いました」

との感想もあり、いい時間を過ごしてもらえたことがうかがえました。

 

オンラインレッスンの様子

 

「外に出ることを助ける服」のぬいぐるみ作り

ひきこもり状態から外に出られるようになったきっかけが洋服だったことから、服を通してひきこもりに関わる活動をしている松崎雛乃さん(*6)

*6. 参照 What's ひなしゅしゅ? https://h-matsuzaki8577.wixsite.com/website-1

 

松崎さんの制作する「外に出ることを助ける服」の一部となる、ぬいぐるみづくりのワークショップを行いました。

「外に出ることを助ける服」は、ポケットの内側にぬいぐるみがつけられていて、不安になった時は人知れずぎゅっと握りしめられるようになっています。

 

左:外に出ることを助ける服
右:ポケットの内側にファスナーでぬいぐるみがとりつけられている

松崎さんの指導を受けながら、用意されたうさぎ、猫、犬のキットの中から好きなものを選び、手や頭などのパーツを手縫いで生地につけていきます。

左:キット  右:完成したぬいぐるみ

できたぬいぐるみには、一つひとつ個性があり、みんなで感想を言い合うのも楽しい時間でした。

作ったぬいぐるみは洋服の一部となり、ネットやイベントで販売されました。買う人は、どのぬいぐるみをぎゅっとしたいかで商品を選びます。最終的にはすべてのぬいぐるみが売れ、誰かのもとに届けられました。

作った人はもちろん、その場にいた全員で喜びを共有しました。

 

「集中すると嫌なことも忘れられる」

「個別の作業をみんなで一緒にするのが良かった」

との感想があり、女子会と手作業の相性の良さに気づくことになったワークショップでした。

 

姿勢と歩き方のオンラインレッスン

一般社団法人ポスチャーウォーキング協会、古谷維久子さん(*7) による、姿勢と歩き方のオンラインレッスンです。

*7. 参照 大阪・未来が変わる姿勢と歩き方 古谷維久子 https://ameblo.jp/furuya-posture/

 

スタッフだけカメラをオンにしてレッスンを受けました

コロナ禍で外出の機会も減る中、「家の中での “1歩” の質を高め、エクササイズ効果を上げる」がレッスンの目的。

参加者は全員カメラオフでしたが、元気で気さくな古谷さんのわかりやすい解説、カメラオンにしているスタッフへのアドバイスを画面で見聞きしながら、立ったり歩いたりを一緒にやってくれていたそうです。

部屋の中で立ったり数歩ずつ歩いたりしただけなのに身体はぽかぽかして、普段使わない筋肉を使っていることがよくわかりました。

参加者のほぼ全員から次々と質問が出て、熱心に取り組んでもらえたことがうかがえました。

「心地よい疲れ」「意識すると全然違う」「先生に元気をもらった」などの感想がありました。

 

下鴨神社「みたらし祭」にお出かけ

ある日の女子会で話題になった、京都・下鴨神社の「みたらし祭」。

湧き水の中をぞろぞろ歩き、ろうそくを供えるという一風変わった夏のお祭で、知る人も少なく「行きたい」「じゃあみんなで行く?」というノリで実現しました。

 

真夏の京都は本当に暑いのですが、境内を流れるみたらし川は地下水がこんこんと湧き出て信じられないほど冷たく「きゃー」と声が出るほど。でも冷たさに足が慣れる頃にはとても心地よくて「上がりたくないー」とみんなで名残を惜しみました。

 

水から上がって足をふいていると血行が良くなったのか全身がほんわりあたたか。少し屋台も冷やかしてお祭気分も楽しみました。

冷たい湧き水の中を歩く下鴨神社のみたらし祭
(女子会当日の写真ではありません)

 

参加者のご家族による手作業ワークショップ

手作業好きな参加者の様子を見ていた参加者のご家族が、100円ショップなどの安価な材料でかわいいパーツをたくさん用意し、参加者が思い思いの作品作りを楽しむワークショップを提案してくださいました。当会に毎回参加されているご家族なので、参加者とも顔なじみ。安心してお任せしています。本当にありがたいことです。

たくさんのパーツは見ているだけでワクワク。昨年のクリスマスにはミニリースとツリーを、2回目はコミュニケーションツールとしてのかわいい名刺を作りました。

たくさんの細かいパーツで作ったクリスマスのミニリース&ツリー

時間を忘れて作業する参加者多数。初参加の人も、自分の世界に没頭することで、かえって場の空気になじみやすくなったようです。ひと通り作った後にお互い感想を言い合うのも楽しい時間です。

11月にはクリスマスツリーのオーナメントを作りました。

 

ワークショップに対するスタッフの思い

ほとんどのワークショップは、お寺のつながりやスタッフの個人的なつながりから企画しています。

「あの人にこんなことをお願いできたら楽しいかも!喜んでもらえるかも!」

という気持ちを原動力に、細々とした打ち合わせや準備を経て当日を迎えています。

準備不足で迷惑をおかけすることも多々ありますが、なんとか終了した時は、スタッフも達成感や喜びを感じさせてもらっています。感想をもらえた時はなおさら嬉しいです。

依頼した講師の方々は、最初「ひきこもり女子会」という所がどんな雰囲気なのかあまり想像がつかず、事前にいろいろと質問をいただくこともあるのですが、当日は参加者の皆さんと楽しく普段通りの仕事をしてくださっています。

そして、当会との関わりをきっかけに、報道などで目にするだけだった「ひきこもり状態にある女性」の存在やそのつらさについて深く考えてくださるようになります。

ご自身の活動や、同じ活動をする仲間で「何ができるだろうか」と模索しているという声もいただいています。

当初は想定していなかった方面への広がりができつつあるのは、企画した者としてとても嬉しいことです。

 

以上にご紹介した他には下の写真のような企画もやっています。

 

左上:そば打ち 右上:プリザーブドフラワーづくり、
左下:バーベキュー 右下:納涼コンサート

 

スタッフと当事者経験

当会のスタッフは3名。そのうち2名は当事者経験がありません。これを書いているのも当事者経験のないスタッフです。

もう1名は、最初は当事者として参加者し、その後活動の範囲を大きく広げて、当会の中心的スタッフとして活躍するようになりました。

当事者経験のあるスタッフがいるのは、参加者にとっても非常に心強いこと。みんなから色々な相談を受け、本当に頼りにされています。

当事者経験のないスタッフは、参加者の方の気持ちをすべては理解できていないと思います。そのようにあきらめているのではなく、実際に経験しなければわからないつらさや痛みがあるのだろうということを、参加者と話す中でより深く感じるようになった、ということです。

でも当事者経験のないスタッフが何の役にも立たないかといえば、そうではないと思っています。「ひきこもり女子会in京都」は、「当事者経験のある人もない人も、互いの経験をシェアする場」でもあるのかなと思うからです。

私は参加者の皆さんの経験談から多くのことを学んでいますが、当事者経験のない私たちの経験からも、何か皆さんの役に立つことがあればシェアしたいと思います。当事者と非当事者の二者に分けるというよりも、参加者とスタッフ、一人ひとりの経験を互いにシェアするイメージです。

参加者の皆さんには、「気持ちをすべて理解できているわけではないけど味方」である私たちと、再び社会とつながるためのちょっとした「練習台」みたいな感じで接してもらえたらと思っています。そうしてお互いに学び合えるのが私たちにとっての喜びでもあります。

いずれにせよ、月一回、皆さんと会えるのは楽しみですし、しばらく顔を見ないと心配になります。久しぶりに来てもらえたりするとすごく嬉しい。まだ来たことのない方とも早くお会いしたいです。

 

参加者の感想

最後に、参加者の感想をご紹介します。今も毎回のように参加している人、仕事を始めてもうほとんど参加していない人などさまざまですが、公開を快諾してくれました。

 

Aさん(20歳代)

:どのような時に「参加して良かった」と思いますか?

:自分と同じ経験をしている人に出会えて、生きづらさを共感し合えた時。

 

:参加して気持ちや行動が変わったことはありますか?

:自分を受け入れてもらえる場所があるという安心感が得られるようになって、気持ちが明るくなった。

人と話せる喜びを感じるようになった。

 

Bさん(30歳代)

:初めて参加する時の気持ちはどのようなものでしたか?

:以前参加していた所のように、行っても続かないんじゃないか?という不安を感じていた

 

:実際に参加してどのような気持ちになりましたか?

:私でも来ていい場所があるんだという事の安堵感から自然と涙が溢れた

 

:どのような時に「参加して良かった」と思いますか?

:自分の気持ちを当事者の人達に話す事が出来た時

 

:改善してほしいと思う点はありますか?

:なんだか暗いイメージで、入りづらい感じがするので、入り口にもうすこし明るくほっとするような雰囲気が欲しい

 

:参加して、気持ちや行動が変わったことはありますか?

:安心感が持てるようになり、初めての友達もできた。少しずつ自分に自信が持てるようになった。

 

Cさん(30歳代)

:初めて参加する時の気持ちはどのようなものでしたか?

:初めて参加した時はただ緊張しました。他の参加者の人はみんなひきこもりに見えなくて、自分はここでも場違いじゃないのかと不安でした。

 

:実際に参加してどのような気持ちになりましたか?

:私のような長期ひきこもりの経験がある方もいて、とてつもなく救われた覚えがあります。参加するまではこんなに長くひきこもっているのは女性では私ぐらいだと本気で思っていたので。

 

:どのような時に参加して良かったと思いますか?

:やっぱり同じ生き辛さを抱えている人ばかりなので共感できますし、悩んでるのは自分だけじゃないんだなと思えることはとても心強かったです。

誰にも言えないような悩みを打ち明けても、女子会では受け入れてもらえるという安心感があります。

 

:参加して、気持ちや行動が変わったことはありますか?

:相手の価値観を受け入れられるようになってきたし、視野が広くなったと思います。

ひきこもってからずっと友達がいなかったんですが、女子会に参加するようになって友達ができたことが私にとって嬉しい出来事でした。

 

:今どんなことを考えていますか?

:田舎のひきこもりは都会のひきこもりとはまた違ったしんどさがあると思うので、田舎でのひきこもりをもっと取り上げてほしいなと思います。

私は話すのが本当に苦手なんですけど、今ひきこもりで苦しんでる人に対して発信できることがあればしていきたいです。

 

Dさん(50歳代)

初めて「ひきこもり女子会in京都」に参加したのは6年前になります。

私は対人関係にとても苦手意識をもっており、自分に自信が無かったので、参加するのは大変勇気がいりました。

参加者の年代や背景は様々ですが、ボランティアスタッフの方々をはじめ、皆さん温かく受け入れて下さり、ありのままの自分でいられるような安心感を覚えました。

これまで、参加者同志でお話をした他、バ―ベキュ―、陶芸、ミニコンサ―ト、講演会、オンラインでのフラワーアレンジメント等、様々なワークショップにも参加させていただきました。

生きづらさや悩みを抱えながらも、このような場に参加する事で、とても良い気分転換が出来ましたし、新たな気付きや学びもあったりして、私自身徐々に前向きに、そして積極的になってきたように思います。

今は、勇気を出して女子会に参加して本当に良かったと思いますし、お世話になったスタッフの方々にも感謝しています。

 

「ひきこもり女子会 in 京都」今後の予定

お茶とお菓子をお供に、和室でほっこり話をする女子会です。

関心を持ってくださった方は、ぜひ一度遊びにきてください。

参加費は200円、ワークショップのある会は+300円。

部屋には入らず、会場の様子を見に来られるだけでも大歓迎です。

今後の開催予定日

2023年

1月28日(土) 13:30~

2月11日(土) 13:30~

3月11日(土) 13:30~

 

連絡先一覧

● ひきこもり女子会 in 京都 

 

● NPO法人 こころのはな

 

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