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文科省の「不登校」調査は問題だらけ 「学校に行かない原因」は「やる気がない」から?

文: 喜久井伸哉 画像:Pixabay

文科省の調査では「不登校」が過去最多だが……

 2024年10月31日、文部科学省が最新の「不登校」調査の結果を発表した。※1 小中学生の「不登校」者数は、合わせて34万6482人に上り、過去最多を記録。この結果は、多くのメディアで取り上げられた。しかし実際のところ、調査にはいくつもの問題がある。

 いくつかの放送局や新聞社は、この「不登校」調査を、ほとんど無批判に報道した。そのなかには、「不登校」の相談でもっとも多かったのが、「学校生活に対してやる気が出ない」だった、という内容も含まれている。「不登校の原因は無気力」とまとめる報道は、もう何十年も繰り返されてきた。これは、「不登校」の子への差別的な認識を流布するものであり、役に立たないだけでなく、子どもたちにとって有害な報道となっている。

 率直に言って、文科省の調査は、かなりおかしなものだ。
 これまでも、有識者が多くの問題を指摘してきた。今回はその中から、文科省の調査と民間の調査とで、結果が大きく異なっている点を取り上げる。

 

 

本人と教員とでは「原因」の認識が違う

 文科省の調査は、学校=教員に対しておこなわれる。そのため、当事者の子どもよりも、教員の「不登校」の認識が重要になってくる。
今回の調査の場合、教員に「不登校児童生徒について相談があった項目」を聞き、以下の回答が多かった。メディアではこの回答が、「『不登校』の原因」として報じられている。※2

「学校生活に対してやる気が出ない」小学生 32.2%、中学生 32.2%。
「生活リズムの不調」 小学生 24.5%、中学生22.1%。
「不安、抑うつ」 小学生 22.7%、中学生 23.4%。

 このような調査結果をもとにして、「不登校の原因」は「やる気が出ない」・「無気力」と認識されてきた。しかしこの調査は、当事者である子どもや、保護者を対象としていない。文科省が発表する「不登校の原因」は、(子どもや保護者の意見を聞くという建前があるとはいえ、)教員が認識する「原因」にすぎない。

 そのため、特に「教員が原因で不登校になった」場合に大きな差が出る。
極端な話、子どもや親や同級生や周囲の大人たちの全員が、「担任教師のせいで不登校になった」と認識していても、担任教師(ないし学校側)がアンケートに「無気力」のせいだと答えれば、「不登校の原因は無気力」としてカウントされる。
 このような差異は、以前から指摘されてきたが、いまだに改善されていない。※3

 今年(2024年)「信州居場所・フリースクール運営者交流会」が発表した調査でも、その違いが如実に表れていた。※4
 「不登校の要因」に対する回答を、文科省の調査と比較する。

「教職員との関係をめぐる問題」
文科省調査 小学生 1.6%、中学生0.5%、
民間調査  小学生 17.1%、中学生 10.9%。

「教職員との関係をめぐる問題」

 

「無気力・不安」
文科省調査 小学生 42.9%、中学生39.3%
民間調査 小学生12.5%、中学生 12.7%。

「無気力・不安」

 

 なお、質問自体は同じだ。……これは、ちょっと、どうなのか。
 これまでにおこなわれてきた、他の民間の調査でも、同様の差異が出ている。このような差を長年放置しつづけるのは、調査する側の、「無気力」ではないだろうか。

 さらに付け加えると、「不登校の原因」を子どもの側にたずねた場合、「わからない」という回答が多い。調査によっては、4人に1人にのぼっている。一方、これを教師の側にたずねると、「わからない」という回答がほとんどなくなる。(そして「原因」とされるのが、「無気力」「朝、起きられない」だった。)
 理由を言葉にできずに、苦しんでいる子が大勢いる。そのような子を、文科省やメディアは、長年「無気力」と言ってきた。

 

「不登校」の観点そのものが問題

 これらの差異は、「原因」の統計以上に、子どもの側に問題転嫁している点で、非常に有害だ。教員や学校、または教育制度そのものが「不登校の原因」の場合でも、教員から見た子どもの姿が問われるため、「無気力」「朝、起きられない」など、子どもの個人の「問題」にされてしまう。「学校の問題」が、「子どもの問題」にされている。
調査結果に対して、毎年のように「不登校児への支援を拡充すべき」といった声が上がるが、そもそも本当に、子どもの側の「問題」なのかどうか。

 ある識者の指摘がある。

これまでにも文部省・教育委員会をはじめとする教育関係者や、厚生省や児童福祉関係者が、不登校対策をいろいろと打ち出してきたにもかかわらず、その増加に歯止めがかからないということは、不登校に関する関係者の理解が根本的に誤っているからではないだろうか。※5

 上記は、児童精神科医の門眞一郎の言葉だ。いつの発言かというと、1995年。約30年前だ。

 関係者の「不登校」の理解そのものが、根本的に間違っているのではないか、という指摘は、何十年も前から、繰り返されてきた。
 もう一度言う。本当に「無気力」なのは、文科省の関係者の方だ。

 


 注記

「不登校」も「原因」も、使うべき言葉ではない。しかし一般的に「不登校の原因は何か」という問い方が主流であり、それに応答するため、本稿ではやむをえず使用している。

※1 文部科学省『令和5年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果について』(令和6年10月31日)。

※2 これまで不登校の要因の調査では、「学校が認識する要因」が問われていた。しかし今回(23年度)から、学校が「把握した事実」を問う方法に変わっている。たとえば教員が欠席した子どもの家に電話し、生徒から「朝起きられないんです」という発言があったとする。それを元に、報告を受けた校長など、学校側が「把握した事実」のアンケートに答える。(その項目の中に「やる気が出ない」や「生活リズムの不調」がある。)この変更により、今までなら「無気力」・「朝、起きられない」という「学校が認識する要因」だったものが、「やる気が出ない」・「生活リズムの不調」という、学校側が生徒や保護者に聞いたうえでの、「把握した事実」になった。
 ……つまりその結果は、驚くほど何も変わらなかったのではないか。文科省は、コロナ禍を経た教育現場の激変を経ても、「無気力」を「やる気が出ない」、「朝、起きられない」を「生活リズムの不調」、と言い換える程度のことしか、対応できていないのではないか。

※3 一応、2024年3月、文科省が調査を委託した「子どもの発達科学研究所」が、教員と児童生徒・保護者との認識に差があることを報告している。新聞報道によれば、報告を受けた文科省内ではとまどいが見られた、ということだが、これまで把握していなかったのだろうか。

※4 「不登校の主要因は『本人の無気力』より『先生との関係』 民間が調査」、朝日新聞、2024年3月10日、朝日新聞デジタル。
 「信州居場所・フリースクール運営者交流会」が2023年9月におこなった調査。不登校だけでなく「不登校傾向」の児童生徒も含め、県内の保護者を対象にネットアプリを通じて回答。質問内容は21年度の文科省調査と同一。回答者は小学生216人、中学生55人、高校生2人の計273人。このグラフでの文科省調査は、2021年度の長野県内分で、小中学生4707人、高校生787人が対象。

※5 門眞一郎、「不登校の精神生理学」、『こころの科学』通巻第62号、p98、日本評論社、19995年

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喜久井伸哉(きくいしんや)
1987年生まれ。詩人・フリーライター。 ブログ 
https://kikui-y.hatenablog.com/entry/2024/01/31/170000

 

  同執筆者の記事

●不登校は「行かない行為」ではなく「行く行為の欠損」

www.hikipos.info

●「不登校」の名称の歴史①~③

www.hikipos.info