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【当事者手記】顔色を窺う日々 ~隠された子供 第3話~

イメージ画像 Ishizaki Morito with GPT5

シリーズ・私のひきこもり体験 ~隠された子供~

 

文・はな
編集・石崎森人

 

www.hikipos.info

 

母親の顔色を窺うということ

幼少期から、母親の顔色を常に窺っていた。

普通、話しかけたい時に話しかける。それが当たり前である。1、話しかけたい、2、話しかける。この単純な順序が、一番自然な流れのはずだ。

でも私の場合は違った。

1、母に話しかけたい。

2、でも、まず顔色を窺わなきゃいけない。

3、顔を窺う。

4、あ、今日はダメな日だ。

5、じゃあ、また後日にしよう。

そんな風に、一つの単純な行動に対して、考えることがあまりにも多すぎた。ワンステップ、ツーステップで済むはずのことが、何段階にも分かれてしまう。

多分、自分で複雑にしていたのだろう。いや、でも複雑にせざるを得なかったのである。幼い頃から、その辺りからもう、ずっとそうだった。

怖かった。選択を間違ったら怒られる。悲しい気持ちになってしまうからだ。だから私なりに、悲しい気持ちを回避するために、先回りして考えなきゃいけなかった。母親は今、どういう気分なのか。今、話しかけても大丈夫なのか。今、これを頼んでも怒られないか。

もう何でも考える、考える、考える。そういう日々だった。

でも、絵を描くこと、本を読むことは違った。本を開く、見る、楽しい。この三つのステップだけである。誰かの顔色を伺う必要もない。怒られる心配もない。だから好きだったのだと思う。そういう行動には、余計なことを考える必要がなかった。ただ純粋に、楽しめばいいだけだった。安心できる、唯一の時間だった。

わがまま芸能人みたいな母親

母親の怒り方は、激しく怒鳴るというものではなく、冷たいものだった。

ため息をつく。あからさまに「はあ」という感じでそっぽを向く。そっぽを向かれるのは、本当にきつかった。

私が話しかけてうまく話せなかったら、「もういい」と言われた。子供なのだから、うまく話せないのは当然なのに。

例えば、ハサミを取ってきてと言われることがあった。ハサミ取りに行かなきゃと思って、あれどこにあるんだろうと思って探していると、もうぶち切れる。「もういい」と言って、ダダダダッと足音を立ててきて、パッと自分で取って、自分の部屋に戻ってしまう。子供からすると、「え、何、今の」という感じである。

頼まれたら、すぐに答えを出して差し出さなきゃいけない。今考えたら、大物のわがまま芸能人に仕える付き人みたいな感じである。

本屋に行って、私が夢中で本を読んでいると、私を置いて帰った。

子供なのだから、「もう行くよ」って言われても、「うん、もうちょっと」とか言うものである。もうちょっととか言って、ずっと読んでいると、ふと気づく。あれ、そういえばお母さんどこ行ったんだろう。周りを見渡すと、あれ、いない。

急いで外に出ると、母親がもうスタスタ歩いて、家の方に向かって歩いているのである。だから、もう急いで走っていって、「ごめんなさい、置いていかないで」と言って、必死で追いかけた。

普通の親なら、「そんなにずっといたら、もうママ先帰っちゃうからね」と声をかけるものである。でも母親は何も言わないのである。無言で、本当に置いていく。

それは幼少期だけではなかった。小学校に上がってもやられたし、なんだったら大人になってからもやられた。

さすがに私もいい大人だから言い返す。「一言言わない? 普通は」「先帰るんだったら先帰っていいけどさ」と。母親は何度も私に言い返されたことを愚痴ろうと思って職場で話したら「それはあなたがおかしいよ」とはっきり言われたそうだ。十数年経ってやっと私に味方が現れた気分になったのである。

長靴で入学式

小学校の入学式のことを、よく覚えている。

入学式の日は雨だった。母親が革靴を用意していたのに、私は長靴を履いて入学式に行った。それでまた怒られた。

母親は朝、焦っていたのだと思う。ちゃんと準備しているから履いているものだと思い込んで、「はいはいはい、行くよ」みたいな感じで急かして、父親の車で学校まで乗せてもらった。学校に着いて、看板の前で記念撮影となった時、私が長靴を履いていることに気づいた。それでぶち切れられた。

「何で入学式なのに長靴履いてるのよ」

でも雨が降っているんだから、長靴を履くのは当然ではないか。そう思っても、それは言わずに、「ごめんなさい」と言った。そうか、雨の時でもちゃんとした靴を履かなきゃいけないのか。さっそく初日からつまずいているのである。

でも母親も出かける時に、ちょっとでも確認してくれればいいのに。「何で長靴履いてきてるの」と言われても、幼い私はまだTPOを使いこなすことはできない。

「間違えてしまった、怒られてしまった」と、ぼんやりとこのことばかり考えている間に入学式は終わっていた。

すごく疲れた。はあ、明日からここに通って、人に会わなきゃいけないのか。先行きのことを考えて、すごくため息が出た。ピカピカの一年生だ、イエーイ、みたいな、純粋無垢な一年生にはなれなかった。

憂鬱な小学校生活が始まった。

入学式で一人で写っている写真では、私は長靴を履いている。その写真を見る度に、あの日のことを思い出す。(4話に続く)