今回は、「ひきこもり」経験者による現代詩をお送りします。
「それは私だ」とスピーチのようにくり返す語りをお楽しみください。

多様性ではない それは私だ
それはあなたや理念でなかったとしても私
私の今日の目や耳やたんこぶだ
SDGsの机上ではない
あした黒いクソになって出てくる白米を ばくばくと食べる今日の口
踏むな
あんたの足元に転がっているのは私だ
あなたがさっき通り過ぎたところに落とされていた服には中身も入ってた
もしも仮にあなたに不特定多数から踏まれたくないという最大公約数的同意が得られる余地があるのだとしたら
踏むな
それは私だ
社会を築き上げるノミで
この頭を白髪だらけにさせるな
ダイバーシティのために上を向いて歩き出すな
私とあなたがいるのはいつだって現在地の地平
バリアフリーを推進するな
今のあなたの手でいま押せ
前を向いて歩きだす前に
立ち止まって足元を見てくれ
段差とわたしがそこにいてある
地面を平らにさせるのは今のあなたの足だ
架空のモデルケースが漂う雲の下から
肉体は常に具体例の稲妻をぶち上げる
10年のガイドラインではなく
今度は脈拍を読み込んでみせて
25年のハンドブックよりも
その手で私の手首を持って
BLM(命も)でもMeToo(私も)でもない
私には「私は」で語れる人間がいる
命を二人称にかくまわせる必要がどこにある
地球上に同類が10億人いようともたった1人
私のこの口から出る言葉は「私は」
出ていけって言う人にはデイ・ケアがいる
殺せじゃなくてこんにちはって言え
アデューじゃなくてアイ・ドゥーと告げ
下流じゃなくて底流じゃなくて
亜流でも傍流でもない
私はオルタナティブ(もう一つ)の本流にいる
それは何だ
足元に落ちているそれ
それは誰だ
靴底になっていた人
それは
それは私だ
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文・絵 喜久井伸哉(きくいしんや)
1987年生まれ。詩人・フリーライター。
