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小説「ぼっち系 Vチューバー『しおりん』」第3回

文・画 かっしー

https://twitter.com/cassyie_r

 

第2回からのつづき・・・・

www.hikipos.info

 

私こと月島栞(つきしま・しおり)は戸惑っていた。

世間には内緒だけど、私はひきこもりであり、時々「しおりん」という名前でVチューバー活動をしている。いわゆる「中の人」。

つい先日、私の配信中に酒に酔った彼氏・健二の声が入ってしまい、配信を切らざるを得なかった。その事によってネット中で色んな噂が飛び交う。そしてしばらくして、すぐに弁明と謝罪の配信をしようとしたら、配信プラットフォームのアカウントが何者かによって乗っ取られ、パスワードを変えられている事に気付いた。

つまり、今配信している「しおりん」は偽者。

だけど偽者が語った内容は、ほぼ真実。

 



話は変わるけど、私の彼氏の健二はどうしようもない男で、私のヒモ状態になっている。昔はそうじゃなかった。幼い頃の健二はキラキラしていた。私は高校生になってから不登校になり、ひきこもってたから詳しくは知らないけど、噂によれば不良仲間とつるむようになって暴れまわっていたらしい。

それから就職もままならず、ホストになった。私と再会したのは健二が売れないホストになっていた頃で、私と付き合い始めたのは私のお金・・・つまりVチューバーの収益目当てだった。私がバカだったんだ。彼の目的に気付いていながら、彼がどうにかキラキラしていた頃に戻ってくれないかとズルズルと付き合い続けてしまったのだから。健二に遊ぶお金を与え続けた。暴力を奮われてもなお。

私には相談出来る相手がいなかった。ひきこもりだから。世間知らずのもの知らずだった。

だけどもう限界。そろそろ健二とは別れようと思っていた。それも簡単ではないだろうから、弁護士に相談までしていた。お金の事はどうでも良くて、とにかく縁を切りたかった。

 

(・・・・・そうだ、弁護士!)

アカウントが乗っ取られている。これは「なりすまし」だろう。ならば弁護士に相談して、取り返すしかない。偽者が語った内容は事実だけど、私はどうしても私自身で彼氏の存在を公表し、ファンに謝罪したかった。世間のバッシングは避けられない事は分かってる。それでも、自分の口で伝えたかった。

早速SNSにログインしてみる。そちらはまだ乗っ取られていなかった。すぐに健二の相談に乗りかけていた弁護士のアカウントに連絡を取る。そしてSNSのアカウントでしか弁護士とつながる手段がない(本当は電話や手紙といった手段もあるけど、電話恐怖症などがある)ため、SNSを乗っ取られないようにパスワードを変更し、二段階認証をONにする。すぐにネットトラブルに詳しい先生を紹介してもらい、その先生からDMで連絡が来た。

どうやら「開示請求」という手続きをするらしい。私は詳しくないし、先生が「あとはこちらに任せて下さい」というので、全部任せる事にした。

でも一体、どんな人がなりすまし、偽者として配信したのだろう?

配信が出来るという事は、相当Vチューバーの配信に詳しい人だと思う。私も過疎配信をやりながら色々ネットで調べてやり方を覚えていった。

それに「しおりん」に本当に似ている。私が一番怖いのはここ。普段からしおりんの配信をよく聞いていないと分からないと思うけど、私の口癖や発音もそっくりだった。方言が出ないように気を付けてるんだけど、細かいイントネーションも私そっくりだったんだ。

ただあれは合成だと思う。ボイスチェンジャーを通している。風邪を引いたとか言ってたけど。限りなく私の声に近い声になってたけど。こうして考えてみれば、怖いなと思う。Vチューバーなら私でなくても、誰でも「しおりん」になる事が出来る。知識さえあれば。

(私じゃ、なくても・・・・)

(なら、「私」とは・・・・?)

 

 

その後、私の配信アカウントはオワコン化したコンテンツとして見られ、登録者数がどんどん減って収益化の条件を下回って取り消され、偽者はそれに満足したのか何もせず、完全停止していた。今まで私は過去の配信も、リアルタイムで見られなかった人のためにアーカイブ動画を残していたんだけど、それも全部偽者が削除し、私のアカウントページはあの偽者が暴露配信をした回のアーカイブ動画一本がポツンとある状態になっている。

一時は荒れていたSNSアカウントも、今は落ち着いている。すぐに「偽者がいるので、開示請求します」ってつぶやいたからね。ホント、弁護士の先生たちの指示に従ってすぐにパスワード変更して良かった。

ふと画面を見ていたら、見知らぬアカウントからDMが来た。アイコンは初期設定のままのイメージ画像で、名前は「あ」としか表示されていない。嫌がらせだとは思うけど、一応DMを開いてみた。

「しおりん、好きだったのに」

(・・・・?)

少し考えていると、どんどん続きのメッセージが一気に表示された。

「裏切られた」

「もういらない」

「彼氏から消してあげる」

「しおりんには自分だけでいい」

「元のひきこもりのしおりんに戻してあげる」

すると近所のコンビニに買い出しに行っていたはずの健二が慌ただしく玄関のドアを開け、大声で「栞、今このマンションのエントランスに黒いパーカー着た変なヤツがいて、いきなり切りつけられた!」と左手を押さえて騒ぎながら入って来る。

急いで健二の様子を見に行くと、左手の傷はそう大きくも深くもなく、絆創膏を貼るくらいで何とかなりそうだった。ほっとすると同時に、私は瞬時に先ほどの不気味なメッセージの内容を思い出す。

「彼氏から消してあげる」

間違いない。健二が見たという黒いパーカーを着た変なヤツは、さっきのメッセージの送り主って事だ。まだ近くに居るはず。怖い。私が「しおりん」だという事も知っているし、私と健二が住んでいるマンションも知っている。おそらく私の本名も・・・。

 

 

私は健二と別れようと思っていた。でも健二の存在を消そうとか思っていた訳じゃない。話の次元が違う。

(それに・・・・・)

健二の傷付いた手に絆創膏を貼りながら思う。

(健二を巻き込んでしまった)

(健二が私のせいで傷付いてしまった)

(私のせいで・・・・)

(私の、せいで・・・・・)

そこで私の思考はストップしてしまった。

 

(続く)