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フランスのひきこもり当事者アエルの激白 第3回「友達ができた、と思ったら」

マルセイユ  Photo by Pixabay
 
<前回までのあらすじ>
フランスのひきこもり当事者アエルが、どのようにして自分がひきこもりになっていったかをつぶさに思い出し、赤裸々な告白をするシリーズ。本人の希望により、日本語のみの配信である。
5歳の時にベビーシッターから性虐待にあい、しかも被害者であるにもかかわらず両親から叱られたことで、アエルはひどく傷つく。幼くして人間不信を宿した彼は、学校でも人間関係がうまく結べない。そんな彼も18歳を迎えることになった。

www.hikipos.info

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文・アエル
翻訳・構成 ぼそっと池井多

 

ドラッグに誘いこまれて

そんなふうにして、ぼくはコンピュータの専門学校へ入れられることになった。ちょうど18歳になったころの話さ。
 
新しい女の先生が教室に入ってきて、彼女がぼくたちに画像ソフトのフォトショップを教えてくれることになった。
 
ところが、授業が始まってみると、彼女が フォトショップ について知っていることは、ぼくの知識に比べるとじつに微々たるもので、ぼくからすると、その「先生」は、ほとんど何も知らないのに等しかった。
 
だから、彼女の授業ではいつもぼくが、彼女に フォトショップの使い方を教えることになったのさ。
 
彼女にとっては良い時間だった。 
だって、国立大学で教えてもらえないことが、そうやって先生としての給料をもらいながらOJT(*1)として生徒から習得できたのだから。
*1.OJT (On-the-Job-Training)
実際の仕事をやりながら職業訓練すること。
 
その教室で、ぼくは一人の「友達」に会った。 
彼はぼくをドラッグに誘い入れた。 
ぼくはたちまちドラッグにはまった。
 
はじめ、ぼくはドラッグの吸い方もわからなくて、紙に巻いて吸うことをせずに、ボン(*2)から直接吸おうとした。
*2.ボン(bong)
通常はハシッシを吸引する時に使う
小壺のような器具。
 
たちまち噎(む)せた。涙が出た。
そんなぼくを見て、彼は嗤った。
ぼくも笑った。
 
なんだか嬉しかった。
ドラッグにはまっていくことも、ぼくはかまわなかった。
だって、彼はぼくにとってじつに久しぶりにできた「友達」だったからだ。
 

どんどん「友達」は増えていった

ぼくは難なくコンピュータの資格試験に合格した。
 
コンピュータのプログラミングの試験に特有の、ひじょうに意地悪な引っかけ問題がたくさん出てきても、持ち前の猜疑心が旺盛なぼくにとっては、そんなヤワな引っかけを見破ることなんか朝飯前だった。
 
スイスイとたちまち全問正解した。
 
試験も終わったので、その専門学校で知り合った「友達」といっしょにこの地方の大都会であるマルセイユへドラッグの仕入れに、車で向かった。
 
ドラッグは、はじめはほんの興味本位だったけど、だんだんなくてはならないものになっていた。
 
「おれも連れていけ」
「わたしも連れていって」
 
マルセイユへいっしょに行くのに、どんどん「友達」が増えた。 
みんな、ぼくのことを「友達」と呼んでくれた。
それが嬉しかった。
 
ぼくは小さい頃、「友達」ができなくて寂しかったけど、ドラッグを吸うようになったら、「こんなにたくさん『友達』ができるなんて……」と喜んでいた。
 
みんなで毎週末、ぼくのクルマでマルセイユへ出かけていっては、ドラッグを大量に買い、ドラッグを吸って、いっしょに良い気分になっていた。
 
ドラッグで頭がイカれて、そのままみんなでいろいろイカれたこともやった。ぼくはとくに同性愛者じゃないけど、まあ、いろいろふざけてそういうことも。
 
そうこうしているうちに、一人の女の子がぼくを捕まえるようになった。
 
その娘は、あんまりぼくの好きなタイプじゃなかったから、ぼくははじめは遠ざかっていた。 
それでも寄ってきた。
拒んで拒んで拒み続けていたはずなのに、いつのまにかドラッグで頭がイカれているうちに、彼女の言いなりになっていた。
 
その感覚はどうも覚えがあった。
小さい頃、ベビーシッターの女性に性の玩具にされていたときの、あの感覚だった。
 
「ぼくはもともと性の人形になるためにプログラムされた男に過ぎなかったんだ」
などとあきらめが心を占めたので、なされるがままになっていた。
 
こうしてぼくは、その女の子とつきあうようになった。 
デートするたびに、ドラッグを買いに行って、どんどん脳神経をダメにしていったのさ。
 

カタストロフ

こんな時期が、やがて終わりを告げる時が来た。
 
ぼくがクルマで事故ったのさ。
 
いや、なに、事故って言ったって、たいした事故じゃない。
 
ドラッグをやっている最中に事故っちゃったわけだけど、命に別状はなかったし、怪我らしい怪我もしなかった。
ただ、クルマがもう使い物にならなくなった。
 
こうなると、ぼくの「友達」たちは、みんなマルセイユへ物(ブツ)の買い出しに行くための交通手段がない。
ぼくのクルマがただ一つの頼りだったんだ。
 
もうぼくのクルマが使えないとなると、彼らはとたんにぼくを彼らのお祭り騒ぎに招待しなくなった。
 
なんのことはない、彼らがぼくのことを「友達」と呼んでいたのは、ぼくがクルマを持っていて、アッシー君だったからだ、ということに初めて気づいた。
 
そこで、寂しくなったので、それまであんまり好きじゃなかった彼女に助けを求めた。
 
ところが、彼女も、
 
「ごめん。もう会いたくない。
二度とコンタクトしてこないで」
 
というメッセージを送ってきて、
それきりぼくの人生から消えた。
 
ぼくははじめて彼らがさかんに口にした「友情」という言葉の、ほんとうの意味を知った。
 
 ・・・「第4回」へつづく
 
 

参考記事