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「外国人として研修医生活を送る苦労と醍醐味」 日本初のイタリア人精神科医フランさんインタビュー 第5回

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文・パントー・フランチェスコ ぼそっと池井多

写真提供 パントー・フランチェスコ

 

・・・第4回からのつづき

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元ひきこもりの外国人研修医として苦労したこと

ぼそっと この2年間、研修医としてさぞかしお忙しい日々をお過ごしだったことでしょうね。

フラン  やはり異国での臨床研修は、想像以上に大変でした。

ぼそっと 具体的には、どのように大変でしたか。

フラン まず、どんな仕事でも、その資格と内容にかんする知識が求められますよね。さらにその仕事を自分の母国語ではない言語でおこなうとなると、内容だけではなく形が求められます。ここでいう形とは、仕事に使う言語です。つまり、私の研修医生活は言語にすら大きな努力が求められた、ということです。これには疲れました(笑)。

何度も失敗し、挫折しそうになりました。でも、日本で精神科医になるためにはこれが唯一の道だったので、とちゅうで諦めなかったのです。

ぼそっと とても大変だったろうと拝察いたします。

海外で仕事をするだけなら、けっこう多くの人が体験します。私もそとこもり時代に、お金がなくなって海外の農場で働いたことがあります。でも、そこでの労働は言語が仕事の中心部分ではありませんでした。

フランさんの場合は、言語が仕事の中心部分だから、母語ではないことが決定的なハードルとなるでしょう。よく乗り越えられましたね。

言語以外の分野では、いかがでしたか。

フラン  僕の場合は志望科が精神科でしたが、研修の初期には皆、自分の志望科以外の全ての科も回らなくてはいけないことになっています。得意と不得意を問わず、医師として最低限のスキルを身につけるためです。

ところが僕は、考えることは大好きだけれど、腕を動かすのはそんなに得意ではないので、救急医療などはほんとうに一苦労でした。

ただ、緊急の時にアクションできる能力を、そこで身につけられたことは感謝ですね。

ぼそっと たしかに精神科と救急医療では対極的なイメージがありますね。

 

やわらかい失敗のとらえ方

フラン  苦手なことを体験することで、僕の場合は自分の得意なことを見つめ直す機会にもなりました。でも、それに加えて、苦手なことや得意ではないことがあっても問題ではない、と考えるようにもなったのです。

ぼそっと ほう。それはどのようなことですか。

フラン  医師というのは、とかく「偉い」職業だと社会に見られがちなので、それに呼応するように完璧な人間を演じようとする医師の方もめずらしくないと思います。完璧というか脆弱性がないようなプロファイルですね。脆弱性は僕にとって最上級の人間味であり、弱さではないです。だから、「完璧を装う」というのは、一言でいえば非常に馬鹿馬鹿しいことです。

ぼそっと そういえば、「わたし、失敗しないので」というのが決めゼリフの外科医のTVドラマがありますが、ああいうセリフは医師のそういう側面を揶揄しているものでしょうね。

フラン  僕は自分の苦手なところを晒し出して、素直に自分のことを笑うのが大事だと思います。

ときどき、いったいどのようにして異国で医者になるというような、こんなに難しい道をこなせているのか、と人に訊かれることがあります。そういう質問をする人は、まるで僕が何かしら人並みはずれた超能力でも持っているように思って、聞いていらっしゃるのかもしれません。でも、一言で答えると、

「僕は失敗に対して耐性があるから」

ということ以外の何物でもないのです。

失敗しても自分を信じる。自分が伝えたいこと、自分の才能と定義できるところ、苦手と定義できるところを自覚し、それを誰にも奪われないようにすることです。それが真の強さなのではないかと思います。

これをただの正論と片づけられたら僕は怒ります。つらい初期研修を乗り越えられたのは、この自覚があったからこそである、ということを自分ではよくわかっているので。

 

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精神科臨床と言語

ぼそっと フランさんは、日本の歴史上、初のイタリア人の精神科医になろうとしておられるわけですが、とくに外国人であることが原因で、研修医生活のなかで大変だったことというと、どのようなことがありますか。

フラン やはり言語ですかね。患者さまが病院へ来ると、医者が全てです。信頼できる、頼れる存在である医者として、然るべき資格と知識を持っているだけではなく、自信があること、自信をもって振る舞うことが極めて大事です。どんな検査と治療が必要になるのか、きちんとわかりやすく説明することも、患者さまの信頼と安心を得るのにつながります。

だいたい、いつも僕は日本育ちの外国人の先生と思われましたけど、やはり母国語ではないため、ときどき僕の日本語の言い方が不自然になったことがあります。それが原因で患者さまに不安を生じさせたこともありました。僕はできる限り全力を尽くしたのですが、うまく行かない場面があったのです。

「ああ言えば、もっとうまくできたかな」とか、「もっと努力したほうが良かったかな」とか、何回も考えましたが、ずっと過去を思い出してクヨクヨしても何も生まれないので、失敗したことはできるだけ忘れるようにしていました。

ただ忘れてはいけないのは、失敗した理由です。それを憶えておけば、二度と同じ間違いをしでかさないで済みます。とは言っても、どんなに頑張っても、相手の悪意だったり、周りからの理不尽な要請だったり、私たちのコントロールできない要因によって失敗してしまうことはときどきあります。いつも自分の責任ではないです。日本の皆さまはこういう可能性を忘れているんじゃないかな、と思いました。

やはりうまくできなかった時にも、それを受け止める力が必要です。「本当に私の問題なのかな」「私の問題じゃない!」という図太さを持って、忘れて、「はい次!」という頭の切り替えも必要だと思います。

ぼそっと いっしょに研修していた日本人の先生方とはうまく行きましたか。

フラン ええ、おかげさまで。やはり同じ科を志望する先生たちの方が、心が通う可能性が大きいと思った場面が多く、そういった親和性も仕事の満足度との関わりが深いと感じさせられました。医学の膨大な広さと、それぞれの分野の専門性の高さをよりよく理解しました。

 

・・・第6回へつづく

 

この記事の英語版
この記事のイタリア語版

 

 

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◆◇◆インタビュワー◇◆◇

ぼそっと池井多 東京在住の中高年ひきこもり当事者。23歳よりひきこもり始め、「そとこもり」「うちこもり」など多様な形で断続的にひきこもり続け現在に到る。VOSOT(チームぼそっと)主宰。2020年10月、『世界のひきこもり 地下茎コスモポリタニズムの出現』(寿郎社)刊。

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