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喜久井ヤシン・湊うさみん ひきこもり+セクシャルマイノリティのダブルマイノリティによる対談前編

ひきこもりはマイノリティであり、少数派です。そのうえに「セクシャルマイノリティ」という生きづらさを抱えていて、ひきポスのライターである二人。喜久井ヤシンと湊うさみんが対談を行いました。

お互いのセクシャリティへの興味、体験談、コンプレックスなどが入り混じった内容となります。
長文なので前後編に分けることになりました。

 

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(編集・湊 うさみん)

 

喜久井ヤシン・・・ゲイ
湊うさみん・・・トランスジェンダー・Aセクシャル・パンセクシャル

 

※この対談はFacebook上のメッセンジャーにて行われたものです。

 

前編 ダブルマイノリティ

湊うさみん ヤシンさんは自身がLGBTであることとひきこもりであることに関連性があると思ってます?


 私の場合はトランスジェンダーに生まれなかったとしてもひきこもっていたと思うんですよね。毒親の存在が大きくて、とにかく人が怖いんです、仕事をすると人と関わることになるから、結果的に仕事が怖いことになる。


 なので、トランスジェンダーに生まれてても親がいい親だったなら、世の中をうまく渡っていけたと思うんですよね、私の場合。

 

喜久井ヤシン  私の場合、自分の「ひきこもり」的なものの始まりに、早くから学校に行かなくなったことがあげられます。8歳の頃からの「不登校」で、年齢からいっても、セクシャリティうんぬんは関係ありません。同性愛でなかったとしても、根本的に人生が違ったということはないでしょう。


 ただ、異性愛が前提になっている世の中があるわけで、人間関係で神経を使う場面は数多くあります。
 日常的なレベルでいうなら、誰かと話す世間話の一つ一つが、注意深いものにならざるをえません。仲の良い男同士の会話で、「好きなタレント」とか、「モテる方法」なんていう話題があります。学校や会社などでの、珍しくもない会話ですけれど、そこには「男性」として、「異性」に対してどう考えるかという前提があります。「同性愛」であることを、わざわざ話す相手全員に伝えたいのでなければ、私にとっては、世間話の一つ一つが支障になってしまう。

 

 セクシャリティに悩んでいない人にとっては、「好きなタレント」とか、「モテる方法」なんて話題は、ぶらぶらと野原を歩くようなものです。それは気晴らしであって、特に神経を使うことのない会話にすぎないでしょう。けれど注意深く会話する人にとっては、もう地雷原みたいなものです。日常の会話が綱渡りとか、断崖絶壁とか、神経をすり減らすような場に変わってしまう。

 

湊うさみん LGBTの割合って10%前後だからほとんどの人は身近にいるので、あんまり他人事じゃないんですよね。
でもほとんどの人は自分の身近には存在しないって考えてるはず。

 

「”彼女”います?」って聞かれて「”恋人”はいません」って答えたのがきっかけてゲイがばれてしまった人もいるそうで、勘のするどい人相手には隠してもバレちゃったりしそうですね。

 

喜久井ヤシン 「LGBT」の定義や調査方法によって、どれくらいの割合かは変わります。2018年の電通の「LGBT調査」の場合、日本の8.9%にあたる人がセクシャルマイノリティだという結果が出ています。ですがこの調査も、2012年は5.2%という結果でした。これはセクシャルマイノリティの人が数年で3%増えたということではなく、「LGBT」という言葉がひろまり、自身の性に自覚的になった人が出てきたということかと思います。

 

うさみんさんの場合、親がいい人だったなら、世の中を上手く渡れていたということですが、トランスジェンダーならではの生きづらさはないのでしょうか?

 

湊うさみん かなり生きづらいですねぇ。男子トイレ入ると「ここ男子トイレですよ」って言われて「すいません男です……」と恐縮しながら言わなくちゃいけないし、かといって女子トイレ入ると法律的な問題がありますし。なので外出した時はトイレ行かなくて済むように飲み物を飲まないようにしてます。
あとは、就職活動の時、トランスジェンダーであることを明かしてみたら「どう接すればいいのかわからないし、トイレの問題もあるし、うちでは雇えない」と言われましたね。
トランスジェンダー的な生きづらさエピソードを語ると本一冊できそうなくらいあります。

 

で、今は声の手術をするためにお金を貯めているんですが、お金を稼ごうという意欲に繋がってるのは一応、良いことになるのかなぁ。
ちょっと前向きな話も聞いてみたいということで、ゲイで得したこと、良かったことなんてあります?

 

喜久井ヤシン トランスジェンダーのトイレの問題はよく聞きますね。多目的トイレがあればよいという声も聞きますが、東京のあるデパートでは、男性用・女性用のトイレの中に、それぞれ多目的トイレが設置されているために、トランスの人が利用しづらくなっているということです。

 

ゲイで得したこと……強いて言えば、世の中の性に関する課題が見えやすいことでしょうか。「異性愛」の「男性」であるというだけで、どれだけ特権的でめぐまれている状態か、信じられないくらいです。テレビ番組やコマーシャルが、「異性愛男性」向けに作られていることも、本屋でアダルト雑誌があたりまえに売られていることも。多数派の「男性」のための社会だということがよく見えます。

 

トランスジェンダーのことで、その他にはどのようなことがありますか。

 

男性と女性両方なのか、両方じゃないのか

湊うさみん アダルトで言うと、ゲイのアダルトって何かとネタにされますよね。くそみそテクニックとか淫夢とか。同じ同性愛でもレズビアンはネタにされないけどゲイだけネタにされるのが不思議に思ってたりします。

 

トランスジェンダーは更衣室・脱衣所に入れないのでプールや銭湯に行けず、割と行動が制限されちゃいます。あと美容院も「かわいい髪型にしてください」と言いづらいですね。


トランスジェンダーでいいことは、男女両方の気持ちがわかることかな。生理とかはわからないですけどね。
けどやっぱり得よりもイヤなことや生きづらさのほうがよっぽど多いですねぇ。

 

喜久井ヤシン うさみんさんは「男女両方の気持ちがわかる」ということですが、私はそうとは言えません。あるトランスジェンダーの人で、知り合った人がすぐに恋愛やセクシャリティのことを相談してくるので、困っているということを聞いたことがあります。性別が一貫していなかったことで、「男性の気持ちも女性の気持ちも、むしろどっちもわからない」と言っていたのですが、私も同感です。相談する相手は、テレビの「おねえキャラ」のように、面白おかしくおしゃべりできる人をイメージしているのかもしれませんが、世間的な「恋愛」や「モテ」を知らない分、基本的にはむしろわからない立場にあると思います。

 

私は、自分のセクシャリティについては早くから自覚的で、十代の半ばにはなんとなくわかっていました。うさみんさんの場合、最初にはどのようなことがあったのでしょうか。ランドセルの色や学校の制服など、困難なところはありましたか。

 

湊うさみん 小学校の頃は女の子の服が着たいって感じてて女装趣味なんだと思ってました。男としての自分に嫌悪感を抱くようになったのは中学生になって声変わりしてからですね。


低い声と喉ぼとけがイヤでイヤで、喉ぼとけを潰そうとしたり、裏声を出して声を矯正しようとしたり……効果はなかったですけどね。
で、中学生から徐々に体への違和感が強くなって、18歳の時に植物性女性ホルモンのサプリメントを始めて、20歳の時に輸入代行で女性ホルモン買って飲むようになりました。


子どもの頃って心も発展途上のせいか、セクシャリティも変わりますよね。昔はバイセクシャルだったけど、今はゲイになったという人を知ってます。
ヤシンさんは昔からゲイで一貫してました?

 

喜久井ヤシン ホルモンにもさまざまな種類があるんですね。当事者でない者からすると、そのあたりの情報も、ほとんど聞いたことがありません。

 

自分のセクシャリティについては、基本的にはずっと変わっていません。もっとも、「ゲイ」や「バイセクシャル」といった言葉の定義の方が変わったり、自分をどうとらえるかという自己認識が変わったりはします。人に説明するために「ゲイ」という言葉を使っていますが、そこにこだわるつもりはありません。セクシャリティについては、異性愛者に質問したとしても、厳密には答えられないことでしょう。「あなたはいつから男性として女性を好きになるようになりましたか?」とか、「ヘテロセクシャル(異性愛者)としてのアイデンティティをどのように獲得しましたか?」なんて、自然に答えられるものでしょうか。

 

湊うさみん 女性ホルモンも進化してまして、昔は馬の尿から作ってたんですが、今は少量で効き目が強く、同時に男性ホルモンも抑制してくれる薬があります。ただ、内臓への負担が強いとか、血栓ができやすいとかで、命がけでトランスしてます。

 

世間的にはセクシャリティって生まれつきのものだから、成長とともに変わることはないって思われがちなんですよね。でも、変わらない人もいれば変わる人もいると思ってます。私の例で言うと、昔はそこまで男であることに嫌悪感がなかったんですが、今は結構強くあります。前は胸はいらないかなーと思ってましたけど、今はほしくなってます。


成人してからも年単位ではありますが徐々に変わっていってまして、もっと年を取るともしかすると男の体への嫌悪感もなくなったりするのかなと考えています。自分の体なのにコントロールが効かなくて結構困ります。

 

自分の体が自分じゃないような

 

喜久井ヤシン 「自分の体なのにコントロールが効かない」というのは、私にも思い当たる経験があります。セクシャリティがどのように変化するにせよ、それは自分で選べるものではありません。自分のコントロールができないとうのは、セクシャリティ以外でも強く感じてきました。

 

いわゆる「不登校」の経験がそうです。学校に行かなくなったとき、それは自分の意識としては「行きたい」思いでしたが、学校に行こうとしても体が動かず、結果として行くことができない。それは自分自身に裏切られるような体験です。自分のしたいことや、自分の意志とは関係のない自分の状況にさらされてしまう。その経験は、私の数十年の生きづらさに影響を及ぼしています。「ひきこもり」の状態も、自分の意志で選んでなるようなものではないように思います。

 

湊うさみん 自分の人生はおろか、自分の体さえコントロールできないですからね。ひきこもりっていうと自分の意思でひきこもっているというニュアンスを感じますけど、多くのひきこもりは外に出てきびきび働きたいって思ってるんじゃないかなぁ。 ヤシンさんはネット上ではゲイであることを公表していますが、リアルでは隠してます?隠してるとバレることへの恐怖がどうしても出てきちゃいますよね。


私は外見からしてトランスジェンダーであることを隠せないので、開き直ってる部分があります。それでも。「気持ち悪い人」扱いされる恐怖があるので、人付き合いがかなり少なくなっちゃいます。

 

喜久井ヤシン ゲイであることは、リアルでは親しい友人にしか言っていません。職場で会う人たちなどに伝えたことはないです。ただ今の時代であれば、カミングアウトしたところで、はっきりした差別にはあわないでしょう。そこまで必死で隠しているということはないのですが、わざわざ知らせたいとも思いません。女性や恋愛に関わる話がでたときには、うっすらとした居心地の悪さを感じながら過ごしています。

 

「LGBT」とひとくくりにしますが、トランスジェンダーで、特に男性からの性転換をする人は外見で判断されますよね。生きづらさには別格のものがあるかと思います。普段の服装や髪形などで、工夫しているところはありますか?

 

湊うさみん 一番のネックになりそうな家族にはゲイであることは伝えてます?家族って友だちと違って離れられない関係だから、合わないなら距離取っちゃえばいいやーって作戦が通用しないから厄介なんですよね。結婚の問題も親に関わってきますし。

 

私は親にカミングアウトしてない……とはいっても、女性ホルモン摂取していることは知ってるし女性物の衣服があることも知ってはいるのですが、トランスジェンダーであると明言はしてないんです。


普通の男性として育ってほしいオーラが親から感じるので、服装での工夫は、親の前でスカート履いたり女性的な恰好をしないことを心掛けてます。


あと、今はまだ手術までいけてないので、中性的な恰好してますね。手術したらもっとガーリッシュな格好になるかもです。

 

喜久井ヤシン うさみんさんは、はっきり伝えていないわけですね。


私は家族には言っていません。カミングアウト以前に通常の会話をしていないので、セクシャリティについて話す機会はおそらくこないでしょう。自分に結婚や子供の話があれば、親孝行になるだろうと考えたことがあります。これまでこじれてきた親子関係も、あいだに結婚相手や子供がいれば、大きく改善させられるのではないかと想像しました。けれど、それも現実的ではありません。


伝統的な家族像からはずれていることは、意識的にも無意識的にも、自分の将来のイメージを悪くさせますね。

 

 

後編 学校編は9月30日に掲載予定です。