ひきポス -ひきこもりとは何か。当事者達の声を発信-

『ひきポス』は、ひきこもり当事者、経験者の声を発信する情報発信メディア。ひきこもりや、生きづらさ問題を当事者目線で取り上げます。当事者、経験者、ご家族、支援者の方々へ、生きるヒントになるような記事をお届けしていきます。

「ひきこもりは犯罪者予備軍」と聞いて、FACTFULNESSと「肺がんの原因は砂糖」の重要性を思い出した話

 

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世の中が単純ならいいのに。このグラフみたいに。



「ひきこもり傾向」があると「暴力的になりやすい」?

果たしてそうでしょうか。

この世界のあらゆる自然現象や社会現象では、2つの物事が単純に結びつくことなど極めて稀です。
結びついたとしても、その関係が物事の全てを表すことはほぼありません。

そして一番厄介なのは、「2つの間に、明らかに関係があるように見えて、実は関係がない。」(またはその逆)というケースです。

例えば「学力テストの自治体別順位と、各自治体の学校教育の成果には、関係がない」と言われて信じられますか?
テストの点数が高い自治体の学校は頑張っているに違いないと思いませんか?
あくまで可能性の話ですが、実はそうじゃないかもしれない!
らしいんですよ。
※中室牧子「学力の経済学」p117-120を参考。良書。

人はとても、とても騙されやすいです。


「『タバコを吸うとガンになりやすい』と思うかね?」

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タバコを吸うと肺がんになりやすいんじゃないの?


大学時代、ふいに先生からこんな問いを投げられました。

「『喫煙者は肺ガンになりやすい』という話は知ってますか?」

そりゃ知ってます。タバコが肺がんリスクを高める、常識です。
大学教員ともあろう方が、なんでこんなことを言うのか?

先生は私にグラフを見せ、言葉を続けました。

「このグラフを見ると確かに、喫煙者と非喫煙者では、肺ガンにかかる確率が違いそうですね。」
「じゃあ、このグラフから『タバコには、肺がんリスクを高める成分が入っている』と言えると思いますか?」

当然「言える」と言いたくなるけど…
先生がわざわざ投げた問いだから、何かあるはず。
警戒しましたが、それでもまずは「言えると思います」と答えてみました。

そしてやはり、期待通りに、先生は妙な話を始めました。

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「でも、こうかもしれませんよね。

 『実はタバコには、吸うと甘いものが欲しくなるという作用がある。』
 『だから喫煙者は多くの砂糖をとることになる。』
 『そして、糖分には肺ガンになる成分が含まれている。』
 『つまり肺ガンの本当の原因はタバコではなく、砂糖。』

…どうでしょう?」

どう考えてもヘンな話です。
ただ、先生はどうしてグラフを見せてきたんだろう…あ!

「このグラフは、タバコと肺ガンの情報だけを描いていますね。こういう場合、グラフに描かれていないものに想像が及びにくいですよね。もちろん、今回の『砂糖』はデタラメですが。」

「知っての通り、タバコと肺ガンには関係があります。でもそれは、タバコと肺ガンの関係を医学的に証明したから分かったことです。」

「グラフにそれらしい関係が現れても、それが『結果』と『原因』を真に結ぶ関係とは限らないのです(そして、そういう場合が非常に多い)。」


真実を見抜くのは本当に難しい。


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ハスの花に目を奪われるが、それは表面の話。その下は泥沼。


かつて某巨大掲示板にあった、こんなコピペを知ってますか。
(一部改変してあります)

以下は、アメリカのある食べ物Xについての記述である。

(1)犯罪者の98%がを食べている

(2)Xを日常的に食べて育った子供の半数は、テストが平均点以下である

(3)暴力的犯罪の90%は、を食べてから24時間以内に起きている

(4)Xは中毒症状を引き起こす。被験者に最初はと水を与え、後に水だけを与える実験をすると、2日もしないうちにを異常にほしがる


こんな食べ物は危険な薬物と認定したほうが良さそうですね。
超危険な合法ドラッグか何かじゃないんでしょうか。

では、このXは何かというと、パン、です。
確かにパンは(1)~(4)のいずれにも当てはまる。
そして(1)~(4)は、まったくもって間違ってません。
きっとパンはひきこもりの何百倍も危険です。
すぐにでもパン禁止の法律を作るべきでしょう。

...そんなワケないですよね。



もちろんパンの話はギャグです。
パンと犯罪をそれっぽい関係で結び付けて、面白おかしい話を作っただけです。

ここでとても大事になってくるのは、さきほどの先生の話、「証明」です。
タバコと肺ガンの関係は、医学によって『証明された』から、真実だと認められたのです。その証明の過程で、あのグラフに現れた関係は助けになったのかもしれませんが。

さて、ここからが、ひきこもりの話です。

川崎や練馬の事件をもって、「ひきこもり」は「犯罪者予備軍」と言えるのでしょうか?それを、どうやって客観的事実をもって証明するというのでしょう。

パンの話のように、ひきこもりは犯罪者予備軍に見えるだけ、かもしれませんし。

タバコと砂糖のたとえ話のように、真実は見えないところにあるかもしれませんし。

実は、ひきこもりは本当に「犯罪者予備軍」かもしれませんし。

もし
「ひきこもりは犯罪者予備軍である」
という説を、説ではなく事実であると証明したいなら、
以下の①~③くらいはちゃんとやる必要があるでしょう。

 ①過去の犯罪データを洗い
 ②各事件について、犯人がひきこもりか、非ひきこもりかを調べ
 ③ひきこもりによる犯罪の割合が、非ひきこもり群より有意に大きいことを示す
 ※「『有意に大きい』とは、『誤差とは思えないほど大きい』といった意味です」

でも多分無理です。
この2019年でも、一体どんな人がひきこもりなのか、あいまいなままです。
それに過去から現在まで、ひきこもりと犯罪のデータなんて取ってもいないでしょう。

逆に言えば、
現在までにデータの蓄積と検証がされていないからこそ、
ネット上やワイドショーの適当な言葉に、
説得力やストーリー性が生まれるのでしょう。

芸人の言葉にさえ。

また『FACTFULNESS』という本の言葉を借りるなら、人は物事をドラマチックに見がち。

だからこの事件をもって「ひきこもりは犯罪者予備軍だ!」という、ドラマチックなストーリーを描きがちなのかもしれません。

※私も今この場で、ドラマチックなストーリーを描いているかもしれません…


www.nikkeibp.co.jp

私は「ひきこもりは犯罪者予備軍」とは思っていません。
しかし、「ひきこもりの犯罪率は低い」と思っているわけでもありません。

事実をもって「ひきこもりは犯罪者予備軍か」を語りたいし、それが無理でも、空想や憶測で語ることはしないように心がけたいと思っています。
とはいえ、どうしても見たいものを見てしまうんですけれどね笑

最後にお遊び


下の(1)~(4)に文章を用意しました。

・正しいと思えば◯を、
・正しくないと思えば×を、
・◯とも×とも言えないなと思う場合、理由を考えて△を、

それぞれつけてみてください。
簡単に見えて簡単じゃないかもしれません...。

なお回答をDMもしくはメールで送っていただいた方の中で、一番「これいいなー」と思った回答をした1名様に(「これいいなー」は勝手に決めます)、ロングロウ個人として何かを進呈します。その際可能な限り、その1名様の個人情報を知ることのないようにします。
回答期限は7/9の23:59です。
メッセージやコメントなどへのお返事は、余裕があるときにするかもしれません。
twitter:@redredbarolo
Email:longrow.barolo@gmail.com
※【重要】これはひきポスとは関係ない、個人的な企画です。

 

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【問題文】

(1)犯罪者の99%以上は水を常飲しているので、水を飲む人々は犯罪者予備軍である。

(2)国民の平均年収が上がれば、ワーキングプアや貧困層の数は必ず減る

(3)ウイスキーは高価になるほど長期熟成・厳選された希少な原酒が使われるので、『山崎12年』よりも『山崎25年』のほうが美味しい。
  ※山崎12年は1万円程度。山崎25年は10万円。

(4)『ポケモンGO』は外を歩くことになるゲームなので、「ゲーム好きのひきこもりの人」が外出するきっかけになる。
(参考:海外では学者も支持 「ポケモンGO」が“ひきこもり”の解決に有効って本当? | ニコニコニュース

(文:ロングロウ)
(画像:pixabay)


著者:ロングロウ(Longrow)

名前が示す通りウイスキー好き。
twitterアカウント名とメールアドレスは、学生の頃飲んで忘れられないウイスキー「ロングロウ ガイアバローロカスク 7年」から。バローロそのものは飲んだことがない...

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