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【1000文字小説】〈無職一筋五十年〉!「生まれてから一度も働いたことがない」勝峰名人にインタビュー!

 

20X X年、誰もが働かねばならない社会で、 勝峰名人は「生まれてから一度も働いたことがない」といいます。労働のプレッシャーに打ち勝って、いかに働かないでこれたのか!? 無職の極意を聞いた、注目のインタビュー!

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〔イラスト カトーコーキ〕



 

——勝峰名人は、「働こう」とは思わないのですか?

 

考えてもみなよ、誰もが無職で生まれて、年老いたら無職で死んでいく。

人間ってやつは、そもそも働かないようにできているのさ。

産まれてきたばかりの赤ん坊を見てみな。

あのちっちゃな手が、書類の整理をするためにあるように思うか?

寝たきりの老人が、死ぬ間際に「もっと上司の指示に従うべきだった」なんて思うか?

何も悩む必要はない。人間は生まれてから死ぬまで、無職でいればいいだけなのさ。 

面倒な労働は、AIにでもまかせておけばいいだろ。

人はロボットと違って、腕が百本あるわけでもないし、休まず働けるわけでもない。

オレはオレにしかできないことをやる。……つまり、無職の道を極めるのさ。

 

——現代社会では、「働け」というプレッシャーがあります。勝峰名人が、無職でいられる秘訣は何ですか?

 

そうだなぁ……まあ、「生まれもっての才能」かな。

こんなふうにいうと、自慢に聞こえるだろうけどさ(笑)。

オレはまだ小さかった頃、平日の昼間にニートを見かけたことがある。

そいつは図書館のソファでゴロゴロしながら、毎日違う雑誌を読んでいたんだ。

一目見たときから、「オレは将来、こういう大人になるんだ」と思ったね。

誰だったかは知らないが、あのニートは今でもオレの憧れだ。

無職であること……それが俺の天職なのさ。

 

——私も「働くのが嫌だ」と思うことがあります。無職として生きていくためのアドバイスはありますか?

 

無職の道は楽じゃないぜ。

生半可な気持ちじゃ、オレみたいな「名人」にはなれない。

とはいえ十七の頃には、何を血迷ったのか、求人サイトを見たことがあった。

オレも若かったし、未熟だったんだな(笑)。

だけどそのとき以来、一度も求人情報なんか見てないよ。

オレは「絶対に無職として生きていくんだ」という、自分の夢を信じていたのさ。

今では24時間365日、いつでも「働きたくない」と自然に思えるまでになった。

世の中には、あれこれうるさく言ってくる奴もいる。

だけど一回限りの、短い人生なんだぜ?

常識や世間体なんかに縛られずに、自分の信じた道を行くことだ。

夢を持ったら、誰に何を言われようが、気にせずに進んでいけ。

自分にしかできない、自分だけの無職をつかむんだ。

 

——勝峰名人にとって、無職とは何ですか?

 

人生そのもの……かな。

手に職を持たないまま、食って、寝て、ブラブラしながら生きる。それがオレの一生さ

もうインタビューは終わりにしよう。これ以上しゃべると、仕事みたいになっちまうからな。

 

 

 

    END

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  プロフィール

 

絵 カトーコーキ

父による心理的虐待、不登校、ウツ、ひきこもり、ニート、震災、原発事故などの経験を活かし、漫画を描き始める。

 既刊

『しんさいニート』/イースト・プレス

 連載中

『そして父にならない』/マトグロッソ

『山で暮らせばいいじゃない』/本当にあった愉快な話(竹書房)


その他、郡山市コミュニティーFM『今夜もギリギリチョップ』のパーソナリティーとしても活動中。

 

文 喜久井ヤシンきくい やしん)

1987年生まれ。詩人。不登校とひきこもりと精神疾患の経験者で、アダルトチルドレンのゲイ。KIKUIYashin Twitter

 

※この物語はフィクションです。実在の人物・団体・出来事とは無関係です。

 

 

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