(文・湊 うさみん)
一か月お風呂に入れませんでした。
「お風呂に入りたくない」ではなく「お風呂に入れない」という状況は普通の人にはわからないんだと思います。
お風呂が壊れてて入れないのか、それとも風邪を引いていて入れないのか。そういったことを想像するのでしょうが、私の場合は、「うつ病で体が動かなくて入れない」です。
うつ病は心の風邪と言われますが、これは心は病気だけれど体は元気というニュアンスにも取れます。心が風邪引いてるだけならお風呂に入れるんじゃないの?と。
ところがひどいうつ病になると、お風呂には入れないし、歯磨きもできないし、トイレすらやっとという感じになります。おかげで虫歯が二けた以上に……。
母親はうつ病になったことがないので、頭ではどういう病気なのかわかっていても体験したことがありません。
私が布団の上でぐずぐずとお風呂に入るのを先延ばしにしていると怒るんです。「早く入りなさい」と。
「入れない」
「なんで?」
「体が動かない」
「薬飲んでるの?」
「飲んでるよ」
「じゃあ大丈夫でしょ」
みたいなやりとりをします。正直、話すのもしんどいのですが、無視するとさらに怒られてしまうので……。
私がいくら言っても母親は理解してくれず、「早く入りなさい」の一転張り。根負けした……というよりうんざりした私はお風呂に入ることにしました。
お風呂は泣く場所
とは言っても、体や頭を洗ったり、湯船に浸かったりする元気はありません。
とりあえず服を全部脱いで、お風呂のタイルの上で横になってました。お風呂特有の低い椅子を枕変わりにして。
そうして固いタイルの上で横になりながら「なんでこんなつらい思いをしなくちゃいけないんだろう」と裸で泣いてました。
目の前にある湯船で溺死して自殺しようかとも思うのですが、そんな気力すらありません。
タイルの上は痛いのですが、あまりにも元気がなさすぎて寝返りを打つことすらしんどいという始末。
ある程度時間が経ったら服を着なおして、また自分の部屋のベッドで横になります。その時もずっと泣いてました。
ウェットティッシュが友達
正確に言えば一か月お風呂に入れていないというのは間違いで、入ったふりだけはしています。体も頭も洗えてないですけどね。
人間は何もせずに寝転がっているだけでも汗をかいて臭くなります。ずっと体を洗ってないと、自分の匂いがわかるようになります。
自分が臭いかどうかはわからないことが多いので、自分で「臭いな」と感じるようであればかなりの匂いになってるはずです。カメムシやスカンクとタイマンできますね。
臭うのは自分でも嫌なのですが、やはりお風呂に入る気力がない。なのでしょうがなくウェットティッシュで体を拭いていました。
全身全霊の力でお風呂に入る
それでも完璧に匂いが取れるわけではないですが、それなりにマシにはなります。
頭や体をぼりぼりとかくと古くなった皮質がぽろぽろ落ちてきます。こんな状態でも新陳代謝してるんだとなんとなく嬉しくなります。
ひどいうつ病でも時々はそれなりに元気があるときもあるので、そういう日にやっとお風呂に入ります。
久しぶりに入ったお風呂は、湯船のお湯がしみる感触がしました。というか、痛い。
お風呂に入るだけで全身全霊の力を使い果たして、また布団に横になってしまうのですが、一か月ぶりに入れただけでも進歩と言えるでしょう。
お風呂に入らなくても死にはしませんが、社会的には死にます。と思ったら私はもう社会的に死んでるんでした。
ちなみに、外出して雨に濡れた場合は、頭洗った換算にして自分を許していました。雨で洗ったから大丈夫だよと。雨と同時にシャンプーも降ってくれば完璧なのに。
執筆者 湊うさみん
20代でドロップアウト。ニート歴10年以上のエリートニートになっちゃいました。