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ひきこもり就職面接 ―なぜ私はひきこもったのか?―

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(文・南 しらせ)

 

これは私が何度か夢に見る、就活を思わせる面接でのやりとりである。私は着慣れないスーツを着て、年配の男性社員と二人きりで話しているらしい。

 

どこの会社のどんな求人を受けているのかも分からない。ただ一つ分かっていることがある。これは私の夢であると同時に、どうしようもない現実なのだと。

 

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始まる前に終わった就職活動

(面接官)えーと、南 しらせさんでよかったよね? 書類には目を通しましたが、改めて確認させてね。まず、現在のお仕事は?

 

(南)無職、ひきこもりです。もう5年ほどになります。

 

(面接官)どうしてそうなっちゃったの?

 

(南)直接的な原因は、大学生時代に就職活動が行えず、進路未定で卒業したことです。

 

(面接官)就活してないってことは、エントリーシートの提出や、面接の経験も一度もないってこと?

 

(南)はい。それどころかスーツの着方さえ、いまだに自信がなくて・・・・・・。

 

(面接官)うーん、私も就活何社も失敗してあなたみたいになった人間は知ってるがね。就活すらできずにリタイア、って話は初めてだな。何があったの?

 

(南)大学ではサークル活動やアルバイトに挑戦したのですが、人間関係がうまく築けず、長続きしませんでした。だから私には就活でアピールできるものがないと自分を追い込み、就活前から抑うつ状態になってしまいました。

 

(面接官)体調の方は、その後どうなりました?

 

(南)一年間休学して療養した結果、状態は安定しました。ただ再度就活をする気持ちにはなれなくて、復学後は学業に専念しました。結局就活が一切できないまま、私は大学を卒業しました。だからいまだに就活ってどんなものなのか、よく分からないんですよね。

 

 (面接官)にしても就活前から体調崩して、結局就活できなかったって、ちょっと過敏過ぎない? ダメ元でさ、一応就活したらよかったじゃない。

 

(南)当時の私は、他の学生が普通にできていることが、自分にはできなかったという強い劣等感を抱えていました。サークルやアルバイトとか、誰かと一緒に何かを達成した経験がなかった。コミュニケーション能力のない自分には就活なんて到底無理だと感じて、とりあえずやってみることもできませんでしたね。

 

(面接官)当時の状況を振り返ってみて、今どう感じますか?

 

(南)就活での失敗は、自分の人生の全否定。そんな恐怖に押しつぶされて、結局私は就活から逃げたんだと思います。当時は本当に苦しかったので、仕方がないと感じる部分もありますが、今になって失ったものの大きさも痛感しています。

 

「普通」ってなんだろう?

(面接官)話を聞いて感じたんだけど、昔からそういう困り感はあったの?

 

(南)ええ。中学時代にはいじめを理由に、不登校も経験しました。その後学校に戻りましたが、他人と深く関わることを恐れてしまって、その後も孤独な学校生活でしたね。

 

(面接官)南さんにとって中学時代のいじめは、大きな心の傷になってるのかな?

 

(南)そうですね。初めて社会のレールから外れてしまった、もう以前の自分には戻れないという衝撃は、正直今でも癒えていません。自分はもう普通じゃない、という烙印を押された気がして・・・・・・。

 

(面接官)その、あなたの思う「普通」っていうのはどういうこと?

 

(南)そうですね・・・・・・。とりあえず学校は休まず通い、勉強と部活を両立して卒業、そのまま新卒で就職して。とにかく決められたレールの上を立ち止まったり、つまずいたりせず、一直線に進み続ける感じですかね。

 

(面接官)では今の状態は、君の考える「普通」とは違うということかな?

 

(南)難しいですね。確かにいまだに世間体や、一般的なレールへのこだわりはあります。ただ幼い頃から私が思っていた「普通」って、実は「理想」だったんじゃないか、と感じることもありますね。

 

(面接官)ここにも書いてるね。「自分が『普通』と思っていたことは、実際完璧にやろうとすると、すごく難しいのではないか。つまりこれは『普通』という名の『理想』だ」って。

 

(南)ええ。ただそういう私個人の願望を、社会の常識とか「こうすべき」という考え方と混同させて、それっぽく正しい理屈として解釈していた部分は、あるかもしれません。

 

ひきこもり時代に差した、一筋の光

(面接官)話を元に戻すね? ひきこもり生活を始めてからは何してたの?

 

(南)家でTVを見たりと、ダラダラ時間を食い潰してました。このままじゃいけないという危機感はありましたが、なかなか体が動いてくれなくて。

 

(面接官)「ひきポス」って雑誌に、記事の投稿を始めたってあるけど? これは?

 

(南)昨年の夏にNHKの「ハートネットTV」という番組で、「ひきこもり文学」という特集を見たんです。それが転機でした。

 

(面接官)それを見て、どう思ったんだろう?

 

(南)ひきこもり当事者が文章で綴る、ひきこもり世界の苦しさや豊かさに、心が動かされました。知的でユーモアを交えながら紡がれる当事者の声に、とても共感できたんです。

 

(面接官)そこからは順調に、って感じかな?

 

(南)いえ、ひきポスのことを知ってから、応募するまでに数か月かかりました。やっぱりいざ応募しようと思うと勇気が出なくて、問い合わせ先のページに行ったり戻ったりを繰り返してましたね。それでも、ようやく思い切って連絡したら・・・・・・。

 

(面接官)ライターとして採用されて、現在に至ると。

 

(南)そうです。

 

(面接官)ありがとうございました。南さんのこれまでの経歴や、南さんご自身のことが大変わかりました。さっそくなんですが、今ここで面接結果をお伝えしていいですかね?

 

(南)は、はい(ドキドキ)・・・・・・。

 

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私の不思議な面接の夢は、いつもここで途切れる。夢から醒めてすぐ、記憶の断片を懸命に辿るが、あの面接官が告げようとした結果は分からずじまいだ。

 

しかしあの面接官が伝えようとした言葉を、私はすでに知っている気がする。だってあの面接官の答えは、きっと私自身の答えに違いないのだから。