ひきポス -ひきこもりとは何か。当事者達の声を発信-

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好き好んでひきこもり

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(文・Nadipedia)

20代の前半に5年ほど引きこもりだったけれど、将来の不安があることを除いては毎日それなりに楽しかった。ほぼ毎日図書館に通い、家で絵を描いたりして過ごし、2か月に一度無料カウンセリングに通う以外はほとんど人と会話することもなかった。

 

ひきこもりもいじめも認めない両親

小中学では虐めに遭い、高校は2年目から昼前に登校し昼過ぎに早退し、試験は保健室で受けた。

まともに高校に行っていなかったし、夕方にはしょっちゅう担任が家に来ていたにもかかわらず、両親はそのことに触れることもなく、そのくせ国立大学を目指せとは言っていた。ほとんど通学することなく大学を中退した後は5年ほど引きこもっていたのだけれど、その間父親とは全く話し合いはなく、母親からは世間体が悪いのでなんでもいいからとにかく働けと言われ続けていた。

登校拒否も引きこもりも、虐めのことも知らなかったはずはなく、両親はただそれを認めたくなかったのだと思う。

両親はどうやら、明るくてスポーツもできて友達に常に囲まれているような娘が欲しかったようで、その対極である娘の姿は徹底的に見ないようにしていた。

実家は中国地方の田舎だということもあり、周囲と違うということは許されなかったのだが、歯並びや癖毛、絶望的な運動神経の悪さ、その割に良好な成績などでキモい生徒として目立ってしまった。

5歳離れた妹も中学で登校拒否となり、家族の会話もなく共働きの両親は仕事、趣味、異性との交際に没頭していた。
大学を辞めて社会と接点がないことについては全く気にならなかったし、むしろ快適なくらいだったけれど、お金がないことと将来の展望がないことは不安材料であり、精神科医とカウンセラーには毎回そういう話ばかりしていたような気がする。

そのうち通院しても状況は改善せず、それどころか眠剤の量が増えるばかりなので自己判断で通院もカウンセリングも止め、家族も病院も頼りにならないなら神をよりどころにするしかないだろうと考え、イスラム教に改宗した。
とりあえず生活する為のお金が必要なので20代半ばごろから30代半ばまで非正規の仕事を転々とした。時給が700円だったりろくでもない仕事ばかりだった。

今から考えると全く無駄な時間だったと思う。忘れもしないクリスマスイブの夜に仕事から帰宅したら事務長から電話があり、「あんたおらんでも仕事が回るようになったから給料は来月から最低賃金な。ほなよろしゅう。」とふざけた
ことを言われたので、馬鹿馬鹿しくなり仕事を辞めることに決めた。
インドとパキスタンに何度か長期の旅行をしたことがあったので、気分を一新してインドで就職しようかと思ったが、学業を途中で辞めてしまっていたことが心残りであったので、学費も生活費も安いしインドに比べたら日本人に遭遇することも少ないであろうパキスタンで大学に通うことに決めた。
職場には全く伝えず密かに準備を進めて、大学から入学許可の書類が届いた直後に立つ鳥跡を濁さずさっさと退職した。36歳の時である。
その後パキスタンでは空き巣に遭って一文無しになったり、住む場所を無くしたりしていろいろ大変だったが、それでも日本で気が進まないまま学校に行ったり仕事をするよりは気持ちが楽だった。歯並びはパキスタンにいる間に麻酔なしの抜歯で矯正した。現在はドイツで大学院に在籍しているのだ
けれど、講義は全てオンラインで、一日の大半は論文を読んだり書いたりしているのでほとんど引きこもりである。私は独りでいることが好きだけれど、人見知りは全くしないし、騒がしい場所が好きだし友達は多いし、ちょっと踊ってみろと言われたら躊躇なく人前で踊ることもできる。
日本にいた頃、精神障碍者手帳の申請や作業所通いを薦められたが、全く見当はずれだったと思う。

解離性障害と診断されたけれど、誤診だったと思っている。引きこもっていた時期よりむしろ、やりたくもない仕事をしていた時期のほうが苦痛だったが、周りからはとりあえず「やっとまともな人間になった」と思われていた。人生に無駄はないとよく言われるけれど、自分に向いていないこと、見当はずれなことに時間と労力を費やすことほど無駄なことはない。現在は好きなだけ引きこもっていられる環境なので毎日楽しく、20代の頃の引きこもりの時期に比べれば将来の不安も少ない。引きこもりに必要なのは当人が一番快適な場所に行くことができるようにする手助けだと思う。

私は自分に合う場所に到達するのに時間がかかったけれど、そういう苦労をする人が少しでも減ればいい。


Nadipedia

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