ひきポス -ひきこもりとは何か。当事者達の声を発信-

『ひきポス』は、ひきこもり当事者、経験者の声を発信する情報発信メディア。ひきこもりや、生きづらさ問題を当事者目線で取り上げます。当事者、経験者、ご家族、支援者の方々へ、生きるヒントになるような記事をお届けしていきます。

生きづらさを解体する居場所 〈TDU・雫穿大学〉のご案内と学生の声

 

今回は、2020年にオープンしたTDU・雫穿(てきせん)大学のご案内です。学生の豊(とよ)さんは、不登校やひきこもりを経て、雫穿大学に入学しました。「大学」といっても、フリースクールのようなNPOとして運営されているため、一般的な意味での「学歴」にはなりません。しかし豊さんは、雫穿大学が「生き方を見つけられる」大事な居場所になっていると言います。リアルな声をお届けします。

 

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TDU・雫穿大学の豊雅俊さん

 

 

 初めまして、僕は不登校から引きこもりを経験し、フリースクールに通い、今は世界的にも大変珍しいオルタナティブ大学である雫穿大学(てきせん大学)に通っています。何やら分かりにくい言葉が並んでいますが、表現や研究などとことん探求し、自らの生き方を人と作っていく大学だと言えます。自分の引きこもりや不登校体験を交えてなぜそのような場所にいてどんなことを考えているのかを書きたいと思います。

 

 僕が不登校をしたのが、中学一年生の二学期からです。不登校をするまでの学校生活はなかなか大変で、いじめの標的になったり、消極的でもいじめをする方になったり、クラスの中で位に上下のようなものがある気がしてしまう関係など、ちょっとずつ自分への否定感や人が怖いという感覚をもっていくような学校生活でした。さらに、学ぶということにも劣等感を抱き、学ぶことで自分の世界を作っていくことがとても難しくなっていきました。なので、小中高という学校に行き続けるということは、とてもイメージがし難く、不登校になることは必然だったような気もしています。

 

 不登校して一年半ほど家に引きこもっていました。昼夜逆転の生活を送り、昼間外に出るのはとても怖かったのを覚えています。それでも時間がたつにつれて外に出たい、人と何かしたい気持ちが湧いてきました。フリースクールは自分で探して入りました。どのスケジュールの授業に出るかは自分で決めていい、という言葉に強く惹かれました。自分で考え決める、という事を僕は求めていました。4年半ほどフリースクールには通いました。

 フリースクールを辞めるしばらく前からこのまま就職をするのだろうか、と漠然と思っていた時、自分で決めていい、という価値観のある環境の中に居たいと雫穿(てきせん)大学の前身のオルタナティブ大学に入学しました。今でこそ、世の中のこうあるべき、という生き方とは違う自分の生き方を模索したい、と自分の思いを言語化できますが、オルタナティブ大学に入った当初は、不登校をして人が怖く劣等感の塊の自分がどうやってお金を稼いで生きていこう、という不安も強く持っていました。

 

 雫穿(てきせん)大学の前身のオルタナティブ大学からいままで映像を学んでいます。そのほかに雫穿大学で学んでいることは歴史、社会学、哲学などです。どの学問もこの世界はどのように出来ているのか、という問いにいろんな先人たちがいろんな方向から考えてきた結果あります。僕自身これらのことを学ぶことで、僕の世界の見方を広げてくれます。そしてどのように生きたいのか?を考えるうえでとても大切な機会が、「生き方創造コース」という時間です。今自分が抱えている問題を発表し学生とスタッフとディスカッションを通して生き難さを解体していきます。発表は緊張しますが、真剣に聞き受け止めてくれる人たちと、じゃあどうするとその苦しさを解体できるのか、と考えあう時間は何物にも代えがたい貴重な時間です。僕はそこに「被害者意識からくる攻撃性」というテーマで発表しました。生き難さという抽象的なのに拭うことができないような事も、安心できる他者となら解体出来るのだ、と実感しています。そのように動きやすくなることが今の学ぶことの楽しさに繋がっています。

 

 今、そして、この先も、自分の生き方を模索したい人と出会いながら、僕も自分の生き方を作りたいと思っています。だから、今、学生とスタッフが話し合いながら作っていく雫穿大学にいます。

 

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*オルタナティブ大学
 既存の大学にある単位やカリキュラムに縛られるのではなく、学生自らの学びたいという気持ちをいかに実現していくのかを軸にする大学。世界的にも新しい学びの形。雫穿大学は世界の中では先駆けとみなされている。

*生き方を造る
 小学校、中学校、高校、大学・専門学校、就職・・・など世の中にあるこれが普通といわれる人生の進み方に縛られるのではなく、自分はどのように生きたいのか基本にした取り組み。雫穿大学では、「生き方創造コース」と呼ばれる時間で、まず今の生き難さは何なのか?を自分なりに考え、他の学生やスタッフのいる否定されない場で発表し、ディスカッションを行い、生き難さを具体的に解体していくことで、生き方を造るという事がし易くなることが多い。その他に雫穿大学では研究や表現活動も生き方を考え造る事を大いに助けてくれる。

*雫穿
 雫穿大学の前身のオルタナティブ大学時代から学生がそれぞれ生き難さを抱えつつも自分の学びたい事を日々の講座やイベントを通して形になっていく様を学生たち自身が「水滴石を穿(うが)つ」という一滴一滴の雫がやがて固い岩をも穴をあけ、造形するという故事にならってつけた新しい大学の名前。雫穿(てきせん)大学と読む。



  体験入学のご案内

 TDU・雫穿大学の学生になることを考えられる方には体験入学をお願いしています。実際にどんなことをどんなふうにしているのか、どんな人がいるのかなどをご自身で体験して判断をして頂きたいからです。

 期間:2021年3月1日~5日
 費用:6,000円
 場所:東京都新宿区およびオンライン
 問合せ 電話:03―6205―6079
    メール:info@ted.academy
 ホームページ:https://tdu.academy/
 体験入学:https://tdu.academy/2021/01/27/1099/



 

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 文・豊雅俊(とよまさとし)
中一で不登校からひきこもりを経験し、フリースクールを経て雫穿(てきせん)大学に参加する。自己否定感を向き合い解きほぐしながら、映像制作に取り組む。