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「ここで働いてみて思うこと」暴力的支援団体スタッフ? 徹底インタビュー 第1回

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インタビュー・文 ぼそっと池井多

 

序文

このインタビューは、実現するまでにも、また実現した成果物を配信するまでにも、非常に長い時間がかかっている。

とちゅうで私がインターネットが見られないほど鬱に落ちてしまったとか、心的外傷によって脳が異変をきたし、構造的な文章が書けなくなったという要因もあるが、それ以上に時間がかかった要因は、それがふだんとは異なる遠い場所にいる人へのインタビューだったからだろう。

「遠い」といっても、地理的に遠いわけではない。

私にとっては、外国のひきこもり当事者よりもはるかに遠い人であった。

 

ひきこもり界隈と呼ばれるあいまいなコミュニティに属する人間にとって、暴力的支援団体や自立支援団体といえば、とかく攻撃や批判をする対象と相場が決まっていた。そのため、かえってじっくり話を聞いたり、対話をしたりする機会がなかった。

だからこそ私は、いつかそのような機会を持ちたいと永く願っていた。

機会が得られないまま何年かが過ぎ、ようやくある全寮制の自立支援団体でスタッフとして働く等々力(とどろき / 仮名)さんという方に諒承を得て、直接お話をうかがうことになった。

 

等々力さんはその自立支援団体を代表できる立場にはないため、私のインタビューに応じることにより、団体が無用な批判にさらされることをつとに恐れていた。

そこで、彼の本名はもちろん、彼が働く団体も含め、「固有名詞はいっさい公表しない」というのがインタビューを受けてくれる条件となった。

 

等々力さんが働いている団体を「暴力的支援団体」だと語るひきこもり当事者を、私は知っていた。

また、等々力さん本人も自分の団体がそう呼ばれていることを知っていた。

そのため、インタビューは彼の働く団体が「暴力的支援団体」であるという前提で始まり、進行していった。

このような経緯があるので、本記事シリーズのタイトルや見出しを含め、等々力さんが所属する団体を「暴力的支援団体」と表現している箇所が複数ある。

 

ところが、インタビューを文字に起こしてから編集部が調べたところ、この団体は既存メディアから「利用者からの苦情があった団体」と報道されたことはあったものの、「暴力的支援団体」と報道された事実は確認されなかった。

したがって、読者の皆さまはその点をお含みおきの上、お読みいただきたい。

 

 

スタッフの「生きづらさ」

ぼそっと池井多:まず、あなたがどのように今の自立支援団体のスタッフとしてお仕事をするようになったのか、それまでの経緯を教えてください。あなたご自身もかつてはひきこもりだったのでしょうか。

等々力:いいえ。私自身もいわゆる「生きづらさ」は抱えていましたが、ひきこもりにはなりませんでした。私はよく、うちの利用者さんには「自分はひきこもれなかった人間だ」と自己紹介しています。

ぼそっと池井多:「ひきこもれなかった」というのは、どういうことでしょう。

等々力:自分のひきこもる部屋がなかったとか、親がとても活動的でたえずあちこち連れ回されていたとか、今にしてみればいくつか理由を挙げることができます。

でも、そういうことも決定的な理由にはならないでしょう。ひきこもりになる理由が決定的に決まらないように、ならない理由も決定的に決まらないのです。今の仕事を始めてから、たくさんのひきこもり当事者の方々と接して、ひきこもる部屋がなくてもひきこもりになる人はなる、ということを学んでいます。

ぼそっと池井多:「生きづらさ」を抱えておられたというと、ご両親との関係などはいかがでしたか。

等々力:親に何かをやらされる、ということはありませんでした。むしろ放任だったのかもしれません。でも、何かをやっても親が認めてくれる、ほめられる、ということがありませんでした。それから、親は「これをやれ」は言わなかったけど、「それはダメ」は多かったです。

だから、私は勝手にやってこれたところがあります。こちらが相談しても、聞いてくれないじゃんと思って、私はだんだん親に相談しなくなりました。

ぼそっと池井多:「働く」ということに関してはいかがでしたか。

等々力:親に相談しないで、自分のやりたいようにやってきたんですが、そのかわり定着もしませんでした。何をやっても、

「自分がほんとうにやりたいことはこれじゃなくて、何か他にあるんじゃないか」

「ちゃんと親に認められるためには、何か他の仕事にしなくちゃいけないんじゃないか」

などと思って定着できなかったのです。

そのため、いろいろな職業や立場を転々としました。

ぼそっと池井多:安定した職業人生を歩んだわけではなかったのですね。

等々力:はい。そういう意味では、やっぱり自分が親に認められたいという欲求を追いかけ続けてきたのだと思いますね。

そうこうするうちに、ひきこもりの人たちの話をきいて、欲求については共通している気がして、今の自立支援団体でスタッフをさせていただくことにしたのです。

 

支援団体で働いてみて思ったこと

ぼそっと池井多:始めてみて、どうでしたか。

等々力:じつは私はこの会社に入るまで、ひきこもりについてよく知りませんでした。今の仕事を始めてから、ひきこもりは・・・

 

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