文・林恭子 & ぼそっと池井多
ぼそっと池井多 これはフランスのひきこもりたちのネットワーク、「ひきこもりフランス(Hikikomori France)」 が取った統計結果です。彼らのウェブサイトにアクセスしている利用者たちを、年齢性別で分類したものです。まだフランスには、ひきこもりに関して公的資料が一つもないので、たとえこれくらい間接的な資料でも、フランスにおけるひきこもり人口を推定するのに、とても価値を持ちます。
フランスでは、まだ「ひきこもり」という語に関する理解が進んでいないので、多くの人は、私のいう「原初的ひきこもり像」、すなわち日本では2000年ごろに流布したひきこもりのイメージを持っているようです。また、インターネット利用者は、圧倒的に若年層が多いことが想像されます。そのため、この結果には中高年のひきこもりの数が反映されていないように思います。
一方で印象深いことに、ここではきれいに男:女が1:1に分かれています。それはそうだろう、と思います。人間はどこの社会でも人口がだいたい男女半々ですからね。ひきこもりを採っても、男女がだいたい同数になるのが道理だと思われるのです。
しかし、3月29日に日本の内閣府から発表された「ひきこもりに関する実態調査概要」では、男性が76.6%と、いわば男:女が3:1の割合になりました。これについて、林さんはどう思われますか。
調査結果への違和感
林恭子: そうですね。正直を言いまして、ひきこもり当事者のうち、4分の3以上を男性が占めるという結果は、実際に私がひきこもりUX会議で活動をしてきて得られた実感とは程遠い内容なのです。
私たちは2016年から、ひきこもり状態にある等の生きづらさを抱えている女性(*1)の方を対象に「ひきこもりUX女子会」を全国22都市で計72回おこなってきました。これまで(2019年3月31日)の参加者は累計2700名を超えており、「ひきこもり女性」が数多く存在していることは明らかです。
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*1.性自認が女性を含む
さらに2017年には「ひきこもりUX女子会」と連動して、女性の当事者・経験者を対象にした実態調査をおこなって、41都道府県から369名の回答を得ました。回答の半数近い45.3%は40代以上であり、女性で中高年のひきこもり当事者が存在していること、そして彼女たちの置かれている困難な状況の一端を社会へ知らせる機会となりました。
ぼそっと池井多 なるほど。中高年のひきこもりの中でも、かなり女性の数が多いことがうかがわれますね。
林恭子 そうなのです。このように、女性のひきこもり当事者が一定数存在することは明らかで、今回の内閣府の調査結果は実態とはズレがあると感じざるを得ません。今回の結果やそれを報じるメディアの情報などにより、「男性の方が生きづらい」という偏ったイメージが再び広がり、女性の生きづらさが見えなくなることを危惧しています。
ぼそっと池井多 そういえば、内閣府の調査結果が発表されてから、「中高年の男性の生きづらさがひきこもりの数を押し上げているのではないか」という発言が何人かの識者からなされていましたね。
林さんたちが行なった調査結果はどこで詳しく見られますか。
林恭子 私たちひきこもりUX会議では、2017年におこなった実態調査結果を冊子『女性のひきこもり・生きづらさについての実態調査2017』としてまとめました。電子データでもダウンロードいただけますので、ぜひご覧ください(*2)。対話の場で信頼関係を築くことで得られた切実な声、当事者視点でおこなった実態調査ならではのリアルな実情を知っていただきたいと思います。
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*2. 『女性のひきこもり・生きづらさについての実態調査2017』
http://blog.livedoor.jp/uxkaigi/%E5%AE%9F%E6%85%8B%E8%AA%BF%E6%9F%BB2017/report2017.pdf
つながりにくさと生きづらさ
ぼそっと池井多 これは貴重なデータですね。
一方では、私はこういうことも思うのです。
中高年の男性は、会社の年功とか社会的地位とか、タテの序列が決まっている所では、すんなりと中へ入っていけるけれども、地域のコミュニティとか抱えている問題とか、ヨコのつながりの場においては、なかなか入っていけない場合が多い気がします。
たとえば、ひきこもりの家族会などでも、皆が椅子を輪にして話しこんでいるとき、輪の外側にポツンと一人、自分の椅子を置いて、そこから話を聞いているだけのお父さまをよくお見かけします。私はそこに、男性特有の小さな対人恐怖を見るのです。私自身にも潜在的にありますしね。
もちろん女性、男性、それぞれにいろいろな方がいらっしゃいますけども、そこへ行くと傾向的に女性は、「あれが好き」「これは嫌い」といった感覚的な話題を入り口として、社会的な序列と関係なく、すんなりとヨコにつながれる中高年が多いような気がするのですが、いかがでしょうか。もし、そういう傾向が社会一般にあるとすれば、やはり中高年では男性のひきこもりが多くなる、というのもわかる気がするのですが。
林恭子 そういう傾向は確かにあるかもしれませんが、やはり女性にも、人々の輪に入っていけない方は多いですし、ヨコのつながりが苦手の方も多くいらっしゃいます。感覚的な話題から入ることだけはできても、その先の人間関係へ進めずに悩んでいる女性は多いものです。いずれにしろ、女性のひきこもりは、統計結果よりももっと多いと感じざるを得ません。
ぼそっと池井多 なるほど、勉強になりました。ありがとうございました。
(了)