ひきポス -ひきこもりとは何か。当事者達の声を発信-

『ひきポス』は、ひきこもり当事者、経験者の声を発信する情報発信メディア。ひきこもりや、生きづらさ問題を当事者目線で取り上げます。当事者、経験者、ご家族、支援者の方々へ、生きるヒントになるような記事をお届けしていきます。

私の目線-心を解きほぐすぼそっとさんの言​葉-

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ほぐれ重なる世界

 著・写真 ゆりな

 

ぼそっとさんと初めて言葉を交わしたのは2018年の4月。

私が最初に編集会議に参加した日は
挨拶そして名刺交換する機会を持つことができなかった。
ただその佇まいと、纏う空気から
当時の私には到底、
2人でお話を成立させることのできる自信も、気持ちの余裕も、
そして話題として持ち出す題材も持ち合わせていなかった。
 
私の見える視野より、遥か遠くまでの世界を知り、そこから得た景色を歩いているように見えたあなたの姿は
私にとって
あなたを身近に感じるには少し時間がかかった。
 
 
編集会議に参加する回数を重ねていく内に
私はあなたがどのようにして人と向き合っているのか
言葉の中から探った。
 
空気に浮かんだ そのままの言葉 を集めるようにして
あなたの生き方を手繰った。
 
 
夏になる頃には
私の中でうっすらと、あなたの輪郭を結ぶ点に出会い
 
それでもまだ知りたくて、
 
あなたの思いの外で
私はあなたの話に耳を傾け続けた。
 
 

苦悩の先に自らを抱き締めきった人

ある日の編集会議での場面。
 
海外のひきこもり当事者の方について、話を触れることがあった。
 
そのひきこもり当事者の彼に連絡を取り、
話を伺いたいという旨について話し合っていた時。
 
今も苦しむその彼を考慮する必要があると、
その時、
ぼそっとさんの気持ちが聞こえた。 
 
「彼の立場で、考えてあげないとね」
 
自分自身の苦悩の先に
相手のことを尊重し、思いやる言葉は
自らを抱き締めきった人でないと出てこない。
 
ぼそっとさんはご自身の過去や、その事実、そしてそこに沸き起こる感情をも含め
自分のことを抱き締めきった人なんだな。
 
過去の自分を十分に抱き締めきった人でないと出てこない言葉がこれまで会話の随所に散らばり、
 
そのたびに私は、目を細めてその眩しい世界を眺めていた。
 
常に相手を尊重して対応する姿勢も
自身の苦しみを抑え込みながらも口にする、その場その場で求められる発言も
シーンによって起こる緊張から自分を守る術も
相手の気持ちを掬って、丁寧に紐解き、
言葉を選んで語りかけることも
 
 
私は
あなたの体を通して咀嚼されたその
考え方、生き方に触れたい
そう強く思い始めている自分に
気付いていた。
 
 

 "わたし"を見つけてくれた人

 

年の瀬。

もう少しで次の年が来てしまう。
その焦りと、私を取り残して時間だけが先に行ってしまえばいいのに
そう願う心はどこか虚ろだった。
 
生きづらさを抱えきれない私の体は
ぼそっとさんのいる所に引かれた。
 
年の最後にひきポスの皆に会える機会に
私はぼそっとさんに声をかけた。
 
 
「仕事で思うことを同僚や上司に訴えたくても
その訴えた後の相手のことを考えすぎて
どうしても発言できない。
 
その人が生きてきた背景、関わってきた人、生き方、正義が
その人の背後に無限に連なっているのを想像すると
申し訳なくて、怖くて、言葉で伝えられない。」
 
 
 ぼそっとさんは答えた。 
 
「それは僕からすれば傲慢だね」
 
 
 それは強く、私の近くで重く響いた。 
 
 
「もし、きみがそうやって人と関わるなら、祖先まで遡って相手のことを
考えなくちゃいけなくなるんだよ?
そうしたら
私たちは人に対して何も発言できなくなる。
僕らは神じゃない。
人のことを思うのには限界がある。」
 
 
 続けてぼそっとさんはこう放った。
 

「ゆりなさんの口から出る言葉はいつもキレイなんだよね」

 

  

その言葉は、すこし尖った口調によって、際限なく私の心に刺さり
頭の中の景色が、一瞬の間にめまいを起した。
 
言葉を裏切らないように言葉を欺かないように
私の無意識のなかで大切に、丁寧に紡いできた言葉たちに、あなたは気付いていた。
 
  

「初めて"私"を見つけてくれた」

 
 
その実感に徹することが、この瞬間の私の欲だった。
 
自ら閉ざした暗い空間の隅で
膝を抱えてうつむき、
顔を体にうずめて絶望していた私を
空間の外になんの気配も感じさせずに
隠しておいたはずのドアノブを
あたかもすでにそこにあったかのように自然と手をかけ、
扉を颯爽と開けて
私の"無意識"に気づき、見つけてくれた人。 
 
 
その扉を開けたときに射し込んだ光は
眩しさよりも
あなたの影を浮き上がらせるための背景となり
その輪郭の濃度が
私には、くっきりとあなたの存在を
濃く象徴した。
 
 
待ちくたびれた
ようやく見つけてくれた
そして
本当に
この世界に私がいることを
見つけてくれる人がいたんだと
 
目を見開き
 
私は揺蕩う
 
それでも
逆光の中に、
私はあなたと目が合った気がした
 
 
 

あなたとの共通言語

 
あなたとの共通言語を見つけると
私はひとりでに嬉しくなる。
 
それは育ってきた環境
味わってきた苦しみ
物事の考え方、感性に
私と似たような境遇や重なりがあるからなのかもしれない。
 
わたしはあなたと出会えて、
「偏見をもつ苦しみ」を握り締めずに生きていける、その鍵を
あなたが最初に、手渡してくれた気がしてる。
 
 
そして今、私はなにより
あなたと共に「ひきポス」という場で関わり合うことが出来ていることを嬉しく思う。
あなたの眼差しにぬくもりを感じながら
私は自らの思う方向へ、枝を伸ばしていきたい。
 
苦悩の経験をした先に相手の心を思うことを忘れないあなたに
私は思いを馳せます。
 
 
 
 
*********************
あなたと会い、言葉を交わして
ようやく気持ちが追い付いた。
読み進めようとすると、苦しくなった。
そして、
ぼそっとさんの過去のほんの一部を
私の体の中で咀嚼することができたのかな、
 
記事が公開になってから、しばらくの時間が経ってしまったけれど
 
わたしは、その体に落とし込むに掛かった時間の分だけ
あなたの過去に触れることができました。
ありがとう。
 
 

dual.nikkei.co.jp

『日経DUAL』 2019年3月6日掲載
 

 

執筆者  ゆりな
2018年2月、ひきポスと出会う。
「私はなぜこんなにも苦しいのか」
ひきこもり、苦しみと痛みに浸り続け、生きづらさから目を背けられなくなった。
自己と社会の閒-あわい-の中で、言葉を紡いでいけたらと思っています。