ひきポス -ひきこもりとは何か。当事者達の声を発信-

『ひきポス』は、ひきこもり当事者、経験者の声を発信する情報発信メディア。ひきこもりや、生きづらさ問題を当事者目線で取り上げます。当事者、経験者、ご家族、支援者の方々へ、生きるヒントになるような記事をお届けしていきます。

川崎殺傷事件と練馬の元事務次官の長男殺害事件から思う「現代の魔女狩りがおこなわれるディストピア」

f:id:buriko555:20190607152415j:plain

 

ひきこもり傾向があった犯人が起こした川崎の殺傷事件の報道が過熱しているのをみて、僕はどんどん具合が悪くなった。このニュースにかぎらず、陰惨な事件が起きたときに心身が反応することがよくあるんだ。かわいい犬猫動画をみて、僕はなんとか精神を保った。

 

川崎の事件では、SNSを中心に犯人を分析をする人が増えていった。まるで誰もがFBI心理分析官を気取っているようだった。マスメディアも競って犯人の実像に迫ろうとした。

 

メディアや世間は異常と思えるほど彼の異質性を探そうとしていた。それが見つからないと困るんだ。もし、彼が異常で特殊な人間でなければ、自分と変わらない人間になる。それは、自分や友人や家族がなにかのきっかけで同じようなことを起こす可能性を秘めていることになってしまう。

 

僕はこの分析合戦をみて村上春樹と河合隼雄の対談を思い出した。特に印象に残ったのは、オウム真理教と神戸の少年Aが起こした事件に関する部分だった。これらの事件に対し、社会は強烈なまでの怒りをみせた。村上氏は、その怒りの中に異常なものを感じたという。

 

人間はだれもが悪を抱えている。ふだんは気づかないのだけれど、人々はこれらの事件によって自分の中にひそむ悪を見つけそうになり、慌てふためいた。自分の中に悪が存在するはずがない。悪は常に独立しており、それを排除すれば、世の中は平和になると信じていた。

 

川崎殺傷事件の報道もこのような発想を元におこなわれたんだと思う。ひきこもりを悪魔の予備軍と言う人やその考えに賛同する人は、おそらく自分が悪を内包しているとは思わないのだろう。

 

中高年ひきこもりは悪魔の予備軍なのか

 

警察庁の犯罪統計では、殺人や強盗などの凶悪犯罪が年々減少の一途をたどっていることを示している。日本人の殺人離れは著しいのだ。中高年ひきこもりは61万人もおり、悪魔の予備軍がそれだけいるにしては整合性が取れない統計結果だ。

 

世間の人々がこの統計資料を参照しないのはわからなくもないが、マスメディアが発表しないのは理解できない。陰惨な事件すらビジネスになるからなのか。週刊誌やワイドショーはここぞとばかりに騒ぎ立てる。おかげで体感治安は悪化し、人々の分断は広がる。

 

ひきこもっていない人のほうが圧倒的に殺人を犯している

 

「最近、変な事件が多い」「むかしはそんなことはなかった」という人は多い。

 

映画「Always 三丁目の夕日」の時代(1950年代後半)は、古き良き日本としてイメージされる。この当時の殺人件数は約2700件。いま(2016年)は約900件ほど。しかも1950年代後半の日本の人口は、今より3千万人ほど少ない。

 

いまの日本は、驚くほど殺人率は低くなっている。逆にAlwaysの時代は犯罪に関して言えば、No way!(とんでもない)な時代だった。思い出は美化されやすいのだろう。

 

日本には、ひきこもりが100万人以上はいるとされている。いまの殺人率では、ひきこもりたちは最低でも毎年9件は殺人事件を起こさなければいけない計算になる。しかし、ここ20年をさかのぼってようやく数件と言ったところだろう。

 

死者が出た事件では、「西鉄バスジャック事件」「京都のてるくはのる事件」くらいしか記憶にない。ひきこもりに詳しい精神科医の斎藤環氏もひきこもりの犯罪率の少なさを指摘している。

 

殺人事件の半分以上が親族間および顔見知りの犯行だ。ひきこもりの定義の中に、家族以外の人とほとんど交流しないというのがある。ひきこもりは、顔見知りが少ないので自ずと殺人率は低下する。川崎の事件はレアケースと言っていい。


ひきこもっていない人のほうが圧倒的に殺人を犯している。だけど、もしひきこもり当事者が「いや~、社会に出ると殺されるかもしれないんで……。だって、ひきこもりじゃない人って何するかわからないじゃないですか?」と言おうものならどう思うだろうか。殴りたくなるだろう。それと同じことをしているのに気づいてほしい。

 

ひきこもっている人の中には、社会に対して不安や恐怖を抱いている人が多い。今回の事件をきっかけに「ひきこもりは犯罪者予備軍」と思われたら、もうどうしようもない。事実無根のことで追いつめられ、ますますひきこもるようになる。

 

僕は統計学も犯罪学も勉強したことはない。ただの素人だ。でも、ググれば大雑把だけれど、これだけのデータがわかる。

 

マスメディアは具体的なデータを出さず、いつまでもタレントにFBI心理分析官役をやらせたがる。悪魔の予備軍なんてものは存在しない。それを求める者がいるだけだ。ある者は自分の中の悪をひきこもりに押しつけ、ある者はビジネスとして利用する。その行為自体が本当の悪魔を召喚させかねないのに。

 

お願いだから専門家を呼んで解説させてほしい。このままでは二次被害を生むだけだ。


個人が犯罪予防局の仕事をおこなう時代

 

「マイノリティ・リポート」という映画を観たことがあるだろうか。原作はフィリップ・K.ディック。ストーリーは、”殺人を犯す罪で逮捕”される近未来。未然に犯罪を防ぐためのシステムが高度に発達し、人々は殺人を犯す前に逮捕される。

 

いまの日本もそのような世界になるのかもしれない。練馬でおきた元農水事務次官の長男殺害事件はそうだろう。父親がマイノリティ・リポートにおける犯罪予防局のように、自分の手で子どもを殺すことによって殺人を未然に防いだつもりでいた。映画とちがうのは、おそろしくその精度が低いということ。冤罪率は99%を超えるかもしれない。

 

それでも人々は息子を殺した父親を賞賛する。中世の魔女狩りが現代に復活した瞬間をみたような気がした。それを社会が、多くの人々が望むのならもはや止められないだろう。やがて自分の家族や友人や恋人が魔女にされる日が来る。気づいたら、あなたの周りにはだれもいなくなる。そして、あなた自身さえも……。

 

執筆者 さとう学

 

 f:id:buriko555:20190607180250j:plain

サッカー好き。新垣結衣とPerfumeをこよなく愛する青年失業家。ひきポスだけでなく、不登校新聞やメンヘラ.JPにも記事を寄稿している。最近、古着販売をしょぼくやっているらしい。

 

略歴 

不登校経由ひきこもり(ひきこもり1stシーズン)

障害者枠で働き始めたがパワハラにあって再びひきこもり(ひきこもり2ndシーズン)

ひきこもり支援を訴えて地元の市議選に立候補するも落選してひきこもり。(ひきこもり3rdシーズン) 

 

noteで「ひきこもり男子の日常」を毎日更新中。絶対見ちゃダメ。恥ずかしいから。

note.mu