(文・南 しらせ)
年末年始のTV特番。TVの傍にある録画レコーダーが、胃に映像を入れようと懸命に働いていた。彼に暴飲暴食を強いていることを申し訳なく感じつつ、一方で私はそんな彼を少しうらやましくも思うのだった。
レコーダーをうらやむ私
年末年始と言えば、各局がこぞって特番を放送し、テレビが大変賑わっている時期だ。
ここ数年は正月番組なんて見なかった私だが、今年は例年とは違う気分だったのだろう。見るのか見ないのか分からないような番組を、とりあえず片っ端から録画していたら、とんでもない量になってしまった。TVの番組表は予約マークでいっぱいである。
そもそも日頃から溜まっている番組が消化できていないから、録画残量もあと僅かだったはず。このままではキャパオーバーになってしまうのでは?
そんな心配が頭をよぎるが、ノープロブレムだ。ディスクなどの記録メディアに必要な番組をダビングして、ハードディスク内の番組を消去すれば、本体容量を一定にキープできる、らしい。
というのも私が機械オンチなので、ダビングの仕方をあまり分かっていないのだ。ただ記録メディアが無限にあれば、いくらでもダビングして、本体容量をコントロールできる理屈自体は分かる。そんなレコーダー君が、私にはうらやましくて仕方ない。
心のレコーダーの容量が、限界に近い
問題なのは、私の心のレコーダーの容量である。年末年始のこの時期。ひきこもり当事者に毎年襲い掛かる、特別な寒波が今年もやってきた。この一年をまた無為に過ごしてしまったという後悔や焦り、そして将来への不安の嵐が、私をこれでもかと苦しめる。
こうした気持ちは一年中あるが、普段なら一定の容量を超えないように、意識的・無意識的に気を紛らわして乗り切っている。しかし、この時期の寒波はそうはいかない。
年末時点で、60%は余裕があると思われた心のレコーダー残量は、想像以上のペースで埋まってしまった。残量は数%。見通しが甘かったか……。このままだと限界を迎え、あらゆる感情が氾濫してしまう。
こんな時自宅のレコーダーみたいに、外付けハードディスクでもDVDでもあれば、そちらにマイナスの感情を移すことができるのに。
あいにく私の心のレコーダーには、そうした機能は搭載されていない。クレームを入れたいが、どこに入れればいいか分からない。やっかいな代物である。
こうなると最後の手段は、負の感情が限界値を超えないように、横になってただただ祈ること。今年もなんとかやり過ごせますように、感情の濁流が静まりますように。
なんとか乗り切った2020年だけど
そんな私だったが、今年もなんとか容量ギリギリのところで踏ん張れたようだ。疲労とともに、安堵の気持ちが湧き上がる。しかし、来年以降もこのせめぎ合いは続く。終わりの見えない戦いの予感に、年の初めからもうくたくたである。
いつか私の心のレコーダーにも、ダビング用の記録メディアのような存在が現れてくれないだろうか。それがあれば、ネガティブな感情を他に移して楽になれるのに。
それがどこにあるのか、今の私には分からない。ただ家電量販店には売っていないのは確かだし、ネット通販で簡単に買えるものでもなさそうだ。
さてどうしたものか。自分で何かしら手を伸ばし、足を動かさなければ、それは絶対に見つからない。それはなんとなく分かっているのだけれど。
ひきこもっていても、年末年始は心穏やかに楽しく過ごしたい。少しでも気持ちよく年を越せるように、今年はひきこもりながらも色々なことに挑戦してきたいと思っている。