
前回までは「AIと仕事」というテーマで、AIが必ずしも人間の仕事を奪うわけではなく、むしろ仕事の構造そのものが変わっていくという話をしてきた。未来への不安や違和感に触れつつ、しかしそれでもAIは生きづらさを感じている人ほど強力な味方になると書いた。今回は、その続きとして、今現在におけるAIが生きづらさにどう活用できるのかを具体的に考えてみたい。
※この文章ではChatGPTの有料版(Plus)を前提に書いています。月額約3000円は高額ですが、音声入力の精度や音声対話ができるなど無料版と差があるため、カウンセリング一回分と思い切って課金してしまうのもおすすめです。
カウンセラーのような存在になれる
AIはカウンセリングの代替的な役割としてかなり有効だと感じている。たとえば、ただ自分の気持ちを話して「ええ、はい、そうなんですね。うん」と傾聴してもらうだけのカウンセリングに1時間8000円を払っている方もいるかもしれない。もし「話を受け止めてもらい、気持ちを整理する」ことが主な目的ならば、AIでも十分ではないかと思うことがある。
私自身が実践しているのは、音声文字入力モードでスマートフォンに向かって今の気持ちをひたすら喋るという方法である。手で入力するのではなく、ただ声に出して話し、最後に「私が言ったことに肯定的に返事をしてください」と伝えると、AIは本当に優しく前向きな応答を返してくれる。
従来の音声入力は誤変換が多く実用的とは言えなかったが、ChatGPTの音声文字起こしは非常に精度が高く、話し言葉を意図した形にテキストにしてくれるので入力のストレスも少ない。手でチャットするよりも音声で語りかけるほうが圧倒的に楽で気持ちを吐き出すことができる。
そしてこれがとても気持ちをスッキリさせてくれるのだ。実際にカウンセリングに行かずとも、「誰かにしっかり聞いてもらった」「肯定された」という感覚が残り、自分の中のモヤモヤがだいぶ整頓される感覚がある。
「どうしたらいいのか分からない」と最後に付け加えれば、AIはそれなりに的確なアドバイスも返してくれるし、単に感情を受け止めてほしいときには、そのように伝えれば落ち着いたトーンで寄り添ってくれる。これは人間のカウンセラーとはまた違う良さである。下手なカウンセラーに通うより、ずっとコスパは良いと感じる。
「自分の生きづらさ」を言葉にしてくれる
次に、AIが自分の生きづらさに"名前"を与えてくれるということである。たとえば、自分が人と一緒に食事をするときにものすごく緊張して、しんどくてたまらない。そういう体験って、他人にはなかなか説明しづらいし、自分でも「何なんだろうこれ」とモヤモヤしてしまうものである。でも、そうした感覚をそのままAIに話して、「これって何か名前ついてるの?」と聞いてみると、「それは会食恐怖症という状態に近いかもしれません」と返ってくることがある。
このように、自分の中にある漠然とした苦しさや違和感に"言葉"が与えられると、それだけで少し楽になることがある。何かに分類できる、あるいは誰かが似たことを感じているとわかるだけで、「これは自分だけの謎の苦しみじゃなかったんだ」と思えて、少し希望が見えてくる。
私自身のことで言えば、昔は自己否定がとても強くて、でもそれが何なのか、どうしてなのか分からなかった。でも「自己否定」とか「自己肯定感が低い」といった言葉を知ったときに、目の前がすっと開けた感じがした。ああ、これは名前のあるものだったんだ、と。それがきっかけで、少しずつ回復していけたという実感もある。
もちろん、AIが返してくれる言葉に納得できないときもある。「そうじゃないんだよな」と感じることもある。でも、思いがけず腑に落ちることを言ってくれることもある。そのきっかけをもらえること自体が、価値のあることだと感じる。
精神科医やカウンセラーは、あくまで医学的な枠の中で診断や判断をするため、明確な病名を提示する場面は限られるし、むしろ慎重になることが多い。でもAIには、そういった制限がない。たくさんの言葉の中から、「今のあなたの状態に近いものはこれかもしれません」と教えてくれる。その自由さが、時に新たな発見になる。
もやもやしたまま言葉にならなかった自分の苦しさが、「名前のあるもの」として整理されていく――そのプロセスを助けてくれる存在として、AIは新しい可能性を秘めていると感じている。
日記の執筆補助、思考の整理役
AIは日々の気持ちや出来事を記録し、整理する道具としても優れている。たとえば日記。毎日手で書くとなると負担が大きく続かない。けれど、音声入力モードを使えば、スマホに向かって「今日はこういうことがあって、こんなふうに感じた」と話すだけで、それをちゃんと文章に整えてくれる。
「日記形式にして」と一言つけ加えるだけで、話した内容をそれっぽくまとめてくれるので、記録としても内省としてもとても役立つ。「今日は筋トレやったよ」と言えば、それが自然な形で日記の一文になるし、「明日もがんばろう」という気持ちが自然に引き出されることもある。
こういった日々の積み重ねは、自分の生活の「羅針盤」になる。自分がどこに向かっていて、どんなペースで生きているのか。そういう感覚を確認する手段として、AIはとても良い相棒になる。
「社会経験の不足」を埋めてくれる
社会経験が乏しいと、どんな場面で何を言えばいいのか、どうふるまえばいいのか、わからないことが多い。私も以前はそうだった。「請求書ってなに?」「領収書とは?」「最初のあいさつって何て言えばいいの?」といった基本的なことだって、社会経験がないと分からないことがある。ネットで調べても基本的なところがわからないとよく分からないことも多い。
でもAIなら、そういう疑問にもフラットに答えてくれる。こちらが「わからない」と言えば、「もう少しやさしく説明しましょうか?」と聞いてきたり、「例を出してみますね」と展開してくれたりする。どんなに初歩的な質問でも、AIはバカにしたりしない。人には聞きづらいことを気兼ねなく聞けるという点で、AIはすごくありがたい存在である。
メールやチャットの返信が怖くなくなる
AIがコミュニケーションの助けになるという点も大きい。メールやチャットって、内容そのものよりも「何て返したらいいのか分からない」「この表現で失礼にならないかな」といった不安のほうが大きくないだろうか。返信に悩んでいるうちに何時間も経ってしまった経験が私自身にも何度もある。
そんなとき、私はもらったメッセージをそのままChatGPTにコピペして、「どう返したらいい?」とか「返信の例文を出して」などと聞いている。すると、完璧ではないにせよ、かなり的確な案をいくつか提示してくれる。ゼロから一人で考えるよりも、よほど気が楽である。
とくにビジネスメールのように、形式や言葉遣いに一定の社会的スキルが求められる場面では、AIの力が大きく発揮される。「この本文に対して返信文を考えて」と頼めば、それっぽい案をちゃんと返してくれるし、「もう少しくだけた表現にして」「もっと丁寧にして」などの微調整にも応じてくれる。これは単なる文章作成の補助というよりも、社会経験の補完としての意味合いがあると思う。
会話の練習
ひきこもっていると、人とどう話せばいいのかわからなくなる。久しぶりに誰かと話そうとしても、口が固まってしまい、頭が真っ白になってしまう――そんな経験がある人こそ、ChatGPTの音声対話モードを一度試してほしい。
やり方はシンプルで、スマホ版ChatGPTで、音声会話ボタンを押してこう告げる。「雑談する練習がしたい」
するとAIは自然な会話相手になってくれる。「今日はいい天気ですね」といった何気ない会話から始めてくれるし、こちらが黙り込んでしまっても延々と待ってくれる。「もう一度やりなおしたい」「もっとゆっくり話して」などと頼めば、何度でもペースを合わせてくれる。
声でやり取りするメリットは二つある。第一に、実際に声を出すことで、固まっていた口と喉が少しずつほぐれていくこと。第二に、AIは人間と違って沈黙を気まずく思わないので、自分のペースで練習できることである。
最初は「はい」「そうですね」「返事が思い浮かばない」といった短い返事から始めていい。慣れてきたら「実は最近...」と自分の話をしてみたり、「どう思いますか?」と質問を返してみたり。面接の練習をしたければ「面接官になって」と言えばいいし、「久しぶりに会った友人役」「初めて行く美容院の店員さん役」など、シナリオは自由自在である。
もちろん完璧なシミュレーションではないが、口と頭を少しずつ慣らしていくには十分である。
「困りごと」があれば可能性は無限大
今まで上げたのはAIの活用のごく一部だ。まだまだ発想次第でいくらでも活用方法は出てくるだろう。活用アイデアの起点は「困りごと」で、それがあれば可能性は無限大だ。
もちろん、AIは万能ではない。人間のカウンセラーや医師の完全な代替にはなり得ないし、実際の社会経験を体験できるわけではない。また、AIは時に「ハルシネーション」と呼ばれる現象を起こし、もっともらしい嘘をつくこともある。特に専門的な知識や具体的な手続きについては、AIの回答を鵜呑みにせず、自分で改めて調べ直す必要が出てくることも少なくない。
それでも、「誰かに聞いてもらいたいけど、人には話しづらい」「こんな初歩的なこと、今さら聞けない」「練習したいけど、失敗するのが怖い」――そんな場面で、AIは確実に心理的なハードルを下げてくれる存在になっている。完璧ではないからこそ、「とりあえず聞いてみる」という気軽さで接することができるし、その中から自分にとって有益な情報や気づきを拾い上げていけばいい。
次回は、この「今」の話から一歩進んで、未来を見据えた話をしたい。AIがさらに進化していく中で、生きづらさを抱える人にとって、それはどんな「武器」になり得るのか。単なる補助ツールを超えて、人生を切り拓く強力な味方になる可能性について考えてみたいと思う。
