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フランスのひきこもり当事者アエルの激白 第2回「人と親密な関係が築けない」

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画:アエル

文・画・アエル
翻訳・構成 ぼそっと池井多

 
 
 

・・・「第1回」からのつづき

 

他者がいる空間で幸せになれない

そんなわけで、
ボクは学校でも「ヘンな奴」と見られ、
孤立していたんだけど、
学校の先生たちは誰もボクの味方にはなってくれなかった。
 
先生たちは、ボクには厳しかった。
 
ボクが、他の子どもたちの中へ溶けこむ努力をしていない、
と先生たちは口をそろえて言うのだった。
 
ボクは途方に暮れた。
「いったいどうしたらいいのだろう」
「これ以上ボクにどうしろというのだろう」
 
これでいつも鬱になっている状態となった。
 
このころボクは、こう悟ったのだ。
 
他者がいる空間では 決して幸福になれない
 
 

「お前はやればできるんだから」

のちに、ボクにやる気を起こさせようとする教師が
何人かあらわれたことがあったけど、
彼らはボクが、
ときにはクラスで一番の成績を取り、
ときには最下位であることが、
なぜ起こるのか
さっぱり理解できなかったようだ。
 
彼らがたどりつくのは、せいぜいこんな結論だった。
 
「この子は、やればできるのに、
 ときどき怠けるから成績が最下位になる」
 
そして、
 
「もっと勉強しろ。
 キミはできるんだから」
 
とお説教が始まる。
 
ボクの成績が下がる理由が、
うつという病気のせいである
とは考える頭がない。
 
「やればできるんだから」
 
これでボクは、いよいようつになって動けなくなるのだった。
 

女子から誘いを受けても

年頃になると、
一人の女の子がボクに
「どこか一緒に行かない」
と言ってアプローチをかけてきた。
 
耳がよく聞こえないボクは、彼女の口の動きを見て
「一緒に映画を見にいこう、と言っているのだ」
というところまでは把握した。
 
でも、それ以上の彼女の真意は把握できなかった。
 
「一緒に映画へ行って、どうするんだ」
 
つまり、彼女がボクと
親密な関係を築きたいと望んでいることが、
ボクにはどうしても理解できなかったのだ。
 
そういう誘いを受けても、
ボクの頭をよぎっていたものは、
 
「どうせ親密な関係を求めるふりをしてボクに接近しても、
しまいには、いつぞやのあの年上の友達のように
どうせボクを性的に利用して、虐待して
ポイと捨てるつもりなんだろ」
 
という想像と恐れだけだった。
 

コンピュータはボクを傷つけなかった

学校の教師たちは誰もが、
ボクがうつ病だとわからなかった。
 
「きみは、やればもっとできるタイプだ」
 
そう言って、どんどんやらせようとする。
ボクは、そんな教師たちに追い詰められてもっとうつになり、
もっと成績が下がった。
 
そんな悪循環は専門学校に入ってからも続いていた。
 
しかしある時、ボクの両親は
ボクをコンピュータ・デザインのコースへ入れた。
 
なぜならば、
ボクがコンピュータに関することなら大の得意で、
生徒にパソコンを教えるはずの高校の情報科の教師にも
ボクが逆に教えてやる立場であったことを
両親は知っていたからだった。
 
コンピュータは、ぼくを傷つけることがなかった。
コンピュータは、自分の延長のように感じられた。
コンピュータ言語は、まるでぼくの母語のようだった。
 
他人がぜったいに入りこんでくる恐れのない、
庭先につくったぼくのひきこもり小屋の中で
ボクは画像ソフトを自由に使いこなしてデジタル画を描き、
自分の世界を表現していった。
 
初期の作品は、
どれもこれも悲しい画ばかりだった。
 
血に満たされたバスタブ。
首吊り用のロープが備えつきでぶら下がっている家。
空が割れ、崩壊していく世界。……

 

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そんなものばかり、初めのころは描いていたけど、
ボクはもちろん、それらを他人に見せることはなかった。
 
夜も昼もデジタル画を描く、
そのひきこもり空間の中で起こるエラーは、
必ずボク自身が何らかのかたちで起こしたエラーだけだった。
 
つまり、ボクが引き起こしたのではない間違いは、
ひきこもり世界ではけっして起きないのだ。
 
そこにボクは安楽を感じることができた。
ここは、ぜったい他者におびやかされない繭(まゆ)であり、宇宙だった。
 
 
 
・・・「第3回」へつづく
 
 

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