今回は、生きづらさをもつ当事者が選んだこだわりの曲を紹介。2010年代のJ‐POP・苦しさを歌ったアーティスト特集をお届けします。
#1 あいみょん『生きていたんだよな』
あいみょんは、2016年にメジャーデビューしたシンガーソングライター。17年リリースの『君はロックを聴かない』、今年4月リリースの『満月の夜なら』など、立て続けにポップな傑作を送り出している。キャッチーなメロディーとともに、癖のある独特な歌詞が面白い。男性目線の入る勝気な感じや、「君はロックなんか聴かないと思うけれども」という詞の例のように、独自な文法でやみつきになる。
ここで紹介する曲のタイトルも、「生きた」とか「生きたんだ」ではなく『生きていたんだよな』。メロディーから言葉が溢れてしまったように、曲のほとんど半分が語りでできている。テレビドラマ『吉祥寺だけが住みたい街ですか?』のオープニングテーマだったが、歌詞は投身自殺を歌った完全に重い内容。ドラマの内容と全然関係ないというのもすごいが、これがデビュー曲だったというのもすごい。
彼女が最後に流した涙
生きた証の赤い血は
何も知らない大人たちに二秒で拭き取られてしまう
「今ある命を精一杯生きなさい」なんて
綺麗事だな。
精一杯勇気を振り絞って彼女は空を飛んだ
あいみょん - 生きていたんだよな 【OFFICIAL MUSIC VIDEO】
#2 amazarashi『僕が死のうと思ったのは』
amazarashi(アマザラシ)は、ボーカルと楽曲制作をおこなう秋田ひろむによるバンド。2015年のメジャーデビューシングル『季節は次々死んでいく』は『東京喰種トーキョーグール√A』のエンディングテーマに起用された。
配信限定リリースの新曲『月曜日』(2018年)は、漫画『月曜日の友達』の主題歌となっている。漫画家の阿部共美はうまく人との関係を持つことができない生きづらさを描いてきた人で、amazarashiとの組み合わせは最高だ。
秋田ひろむの生み出す世界は文学的で、『空っぽの空に潰される』(2011年)、『つじつま合わせに生まれた僕等』(2017年)など、ハイクオリティなMVと熱情的な歌声で世界観が表現されている。『僕が死のうと思ったのは』は2013年の中島美嘉への提供曲だが、amazarashiのエッセンスがつまった鬱曲だ。終盤は生命力を歌う展開となるにしても、もし「2010年代の暗い曲」を選ぶなら、この一曲ははずせない。
僕が死のうと思ったのは ウミネコが桟橋で鳴いたから
波の随意に浮かんで消える 過去も啄んで飛んでいけ
僕が死のうと思ったのは あなたが綺麗に笑うから
死ぬことばかり考えてしまうのは きっと生きる事に真面目すぎるから
中島美嘉 『僕が死のうと思ったのは(MUSIC VIDEO short ver.)』
#3 RADWIMPS 『棒人間』『五月の蠅』
RADWIMPS(ラッドウィンプス)は、2005年にメジャーデビューした4人組バンド。映画『君の名は。』主題歌の『前前前世』(2016年)が有名だけれど、フロントマンの野田洋次郎の生み出す音楽性は、ジャンルを越えて幅広い。高校生で作ったという『いいんですか』(2006年)のハッピーな感じや、Aimer(エメ)への提供曲の『蝶々結び』(2016年)の繊細さなど、もっと知られてほしい名曲がいくらでもある。
生きづらさを表した歌詞が印象的な曲として、ここでは「棒人間」(2016年)をあげる。ちょっとコミカルな軽さを含んでいるけれど、「僕は人間じゃないんです」とリフレインする歌詞がつらい。
ねぇ、僕は人間じゃないんです ほんとにごめんなさい
そっくりにできてるもんで よく間違われるのです
笑顔と同情と謙遜と自己犠牲、 朝起床に優しさと
優に1億は超えそうな 必要事項を生きるのです
歌詞がつらい(2回目)。
『前前前世』のイメージしかない人からすれば、RADWIMPSはたぶん予想を裏切られる曲だらけだろう。
以下に紹介するのは『五月の蠅』(2013年)で、強烈にロックな破壊衝動がある。憎悪と殺意を歌った歌詞が行き過ぎていて、逆に乾いて聴こえるくらいだ。
#4 MOROHA『tomorrow』
情熱的に歌い語って汗とツバを飛ばすMCアフロと、徹頭徹尾クールなアコースティックギターを奏でるUKの二人組、MOROHA(モロハ)。ヒップホップとパンク(とあとたぶん活弁士的な何か)の血が入った現代のストリート吟遊詩人は、半分ポエトリーリーディングになった音楽を特徴としている。サンボマスターや野狐禅(竹原ピストル)にも通じる、メロディーからの逸脱をものともしない口数の多さで、聞き手を熱い声で押し流す。
2018年6月にはアルバム『MOROHA BEST~十年再録~』をリリース。『奮い立つCDショップにて』、『勝ち負けじゃないと思える所まで俺は勝ちにこだわるよ』など、MOROHAの魂の自伝の一端がこもっている。
ここで紹介するのは、2016年発表の『tomorrw』。MVには俳優の東出昌大が出演している。
あれからどれ位の日々が過ぎた?
人生は旅だ そんなのは嘘だ
俺はどこにも行けないじゃないか
ポケットの小銭でアダルトビデオ
裸で大股広げるあの子の
昔の夢は どんなだろうか
一発抜いた後に思う
浅はかなエゴだ
MOROHA『tomorrow』Official Music Video
#5 高橋優『CANDY』『少年であれ』
高橋優(たかはし ゆう)は、2010年に『素晴らしき日常』でデビューしたシンガーソングライター。代表曲の『福笑い』は、「きっとこの世界の共通言語は 英語よりも笑顔だと思う」と歌い、ラジオチャートで1位をとるなど多くの人に歌声を届けた。今年5月には、アニメ『メジャーセカンド』エンディングテーマ曲の『プライド』を発表。多くのリスナーに励ましのメッセージを届けている。
音楽はポップで聞きやすいメロディーに溢れているが、高橋優の真骨頂は切実な歌詞にあるだろう。2013年発表の『CANDY』では、いじめを受けた自身の体験を詞にしている。
抗うよりも応じる方が痛くないと
僕は知ってた 僕は知ってた
心の痛みを経験している人で、今被害者になっている人にも、音楽の力が共感を呼ぶ。太くまっすぐな歌声は、聞いていると体の真ん中にまで響いてくる。
個人的に一番感動して、何度もくり返し聞いたのは『少年であれ』(2011年)。辛く苦しい思いをこえて、タフに生きていく力強さを歌っている。
僕なんか生まれなきゃよかったの
傷付いた心がいう
そう思わせるのが奴らの狙いだ
負けるな少年よ
#6 SEKAI NO OWARI『銀河街の悪夢』『SOS』
SEKAI NO OWARI は、2010年にメジャーデビューした四人組バンド。EDMアレンジでブームとなった『Dragon Night』(2014年)や、アニメ映画『メアリと魔女の花』主題歌の『RAIN』(2017年)などのヒット曲で知られる。ファンタジックなメロディーと歌声が魅力的だが、中には重たいテーマを歌った曲もある。その一つが、アルバム『Tree』収録の『銀河街の悪夢』(2015年)。
あぁ僕の身体が壊れていく
明日また起きたら何か始めてみよう
だから今日はいつもより早く起きてみよう
だけど起きれなくて夕日が沈むんだ
こんなに辛い日々もいつか終わるかなぁ
今度こそ、今度こそと思いながら、自分を鼓舞するけれど、そのたびに失敗してしまう。『銀河街の悪夢』の歌詞には、「ひきこもり」的な心境と近いものが感じられる。
ここで紹介する動画は、2015年のシングル『SOS』。はかない声で哲学風の言葉が綴られており、SEKAI NO OWARI ならではの世界観を見せてくれる。
#7 神聖かまってちゃん どれでもいい
目には目を、歯には歯を。暗い時には暗い曲を、狂った時には神聖かまってちゃんか、もしくはふつうに安定剤を。
2010年にアルバム『友達を殺してまで。』でデビューし、同年に『つまんね』と『みんな死ね』のアルバムを同時リリース。異常なペースで異常な曲を量産し、それでもなんだかんだいって『ロックンロールは鳴り止まないっ』などの名曲なのかもしれないものを残している四人組バンド。
昨年はテレビアニメ『進撃の巨人 Season 2』のエンディングテーマ『夕暮れの鳥/光の言葉』を発売。異様にさわやかな曲を生み出しつつも、最新アルバム『幼さを入院させて』は、(10曲目の『おはよう』など)やはりいかれている。美しい歌声とか穏やかな旋律とかが全然ない。「狂気をともなった曲」というより、単に「曲をともなった狂気」が混ざっている。そしてもう二度とこんな曲聴きたくない、という思いにかられながらリピートしている。
歌詞を紹介するなら『ぽろりろりんなぼくもぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃーん』(2010年)や、『友達なんていらない死ね』(2012年)などを考えたが、わざわざ引用するものではないように思われるため、割愛する。動画は、各自で検索してください。
#8 女王蜂『Q』『鉄壁』
2011年にデビューした女王蜂は、ボーカルのアブちゃんのカリスマ性が光る4人組バンド。今年4月リリースの『HALF』は、TVアニメ『東京喰種:re』のエンディングテーマに起用されている。パンクでスタイリッシュなステージを魅せるのに、教師からの暴行を暗示させる『告げ口』(2011年)や、男女の目線を同時に歌った『売春』(2015年)など、性の苦しさの渦巻く楽曲がある。激しい演奏とともに、「私」の切ない痛みが伝わり、歌声はヒリヒリと心身に響く。
父親からの虐待が記された『Q』(2017年)でも、スキャンダラスな暴力性以上に、相手を想う自己犠牲的な心理が歌われている。
泣かないで 父さん
逝かないで 母さん
世界は 世界はどうでもいいから
今夜は 今夜はしようよ
ある意味では「愛」を歌うアーティストだが、その愛は痛々しく、軋んで絶唱になっている。そしてその表現の頂点の一つは、2014年発表の『鉄壁』ではないかと思う。
あたしが愛した全てのものに
どうか不幸が訪れませんように
ただひたすら祈っているの
例えばなんて言っている間に
現実になるような残酷な日々よ
自助グループDiceダイスの松橋の解釈では、この歌詞の、「あたしが愛したすべてのもの」の中には、おそらく自分自身が含まれていない。
許したい
認めたい
自分を愛したいけれど
と中盤で歌われているように、自分の中の他者を愛せずに苦しんでいる。その苦悩が、同じように自分を愛することのできない聞き手にも響き、発することのなかった悲鳴と共鳴する。痛みと悲しみを乗り越えて、孤高の愛と祈りへ。その信念の強さはもはや、鉄壁。
ご覧いただきありがとうございました。