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2010年代の中島みゆきのベストソングは何か

(文 喜久井ヤシン)

 

今回は、中島みゆきが2010年代に発表した曲の中から、一ファンの独断でベストソングを選定。ドラマ主題歌からCD未収録作品まで、初心者を考慮していないマニアックな楽曲紹介をお届けします。

 

中島みゆき ライブ リクエスト ‐歌旅・縁会・一会‐  (通常盤)

 

 2019年が暮れると共に、2010年代がそろそろ終わる、という段になって、ふと中島みゆきの記録のことを思い出した。
中島みゆきは70年代、80年代、90年代、2000年代の4つの年代でオリコンシングルチャート1位を記録した唯一のソロアーティストだ。 

 チャート1位を主とした過去の代表曲を並べるなら、

70年代「時代」「わかれうた」「ルージュ(※)
80年代「悪女
90年代「空と君のあいだに」「
00年代「地上の星

・・・などが挙げられる。

※「ルージュ」はカバーによってアジア各国で知られている。 

 2010年代は歌手としての1位はとっていないため、「4つの年代で1位」という度外れに大きな記録はおそらく途切れることになる。
しかしチャートに左右されることなく数多の名曲が生み出されており、今回は試しに2010年代の代表曲を考えてみようと思う。

 

 参考としてベストアルバムを見ると、2000年以降に発表された作品を集めた『前途』(16年)収録の12曲の内、2010年代の曲は以下の7曲となっている。

 常夜灯(12年)
 倒木の敗者復活戦(12年)
 産声(14年)
 India Goose(14年)
 麦の唄(14年)
 泣いてもいいんだよ(14年)
 Why & No(15年) 

 これらは中島みゆきの自選による楽曲群であり、「10年代の代表曲」候補といっていいだろう。
「泣いてもいいんだよ」はももいろクローバーZが歌ってオリコン1位となっており、中島みゆきの作詞家・作曲家としての1位獲得記録を伸ばした。
「麦の唄」はNHKのドラマ主題で、歌紅白歌合戦でも歌われたため比較的知名度が高い曲だ。

 

 現年代ではもはや珍しくなったCDシングルとしては、

荒野より(11年)
恩知らず(12年)
麦の唄(14年)
慕情(17年)
離郷の歌/進化樹(19年)

 この5点が2010年代にリリースされている。いずれもドラマ主題歌であり、ファン以外にも中島みゆきの音楽を届けた楽曲が並んでいる。

 

離郷の歌/進化樹

 

 それらをふまえたうえで、2010年代の中島みゆきの10曲を選ぶなら、今日の自分の気分としては以下のようなものができあがる。

 

 

中島みゆき 2010年代の10

 ※2010年1月1日以降に、初めてCD及びDVD収録された曲を対象とした。()内は収録アルバムの発売年。

 

#1 赦され河、渡れ(10年)

CD未収録作。初めて歌われたのは2008年だが、DVD収録は2010年の「夜会VOL.16~夜物語~本家・今晩屋」で、物語のクライマックスを飾る大作となっている。これほどの力ある曲を夜会のみに捧げているところに、キャリア40年を越える中島みゆきの衰えることのない創作の膂力を見る。

 

#2 NIGHT WING(14年)

2008年の工藤静香への提供曲で、中島みゆき自身は「縁会2012~3 LIVE SELECTION」でのみ歌っている。クオリティが高いにもかかわらずレアな曲であり、通常版で発表していないところに一期「一会」たるライブ体験の感動を高めている。

 

#3 真夜中の動物園 (10年)

アルバムの表題作。おどろおどろしいムードを宿しつつもドラムのリズムによって果てなく邁進していく力強さがあり、中島みゆきの過去作と比較しても、異例な位置にある特筆されるべき作風となっている。

 

#4 荒野より(11年)

木村拓哉主演のテレビドラマ『南極大陸』主題歌。シングルながらベスト盤に収録されなかった曲の一つだが、「地上の星」で見せた迫力ある歌唱に連なるような、中島みゆきのうなりを効かせた楽曲は、10年代の中でも屈指の爆発力をもっている。アルバムの「荒野より」には「帰郷群」、「走(そう)」といった疾走感のある曲が多く入っており、全体を通して多大なエネルギーを受けとることができる。

 


荒野より / 中島みゆき [公式]

 

#5 常夜灯(12年)

アルバム表題作。「縁会」でのセルフカバー「真直(まっすぐ)な線」で魅せた気だるい雰囲気がそうであったように、ささやき語りかける声が夜に寄り添う、ララバイの歌い手である中島みゆきの真骨頂となっている。

 

 

ここで半分の5曲となるが、番外編として以下の1曲を挙げておきたい。

 

番外 唇をかみしめて(18年)

「ライブリクエスト」によってCD初収録されたこの曲は、中島みゆきのディスコグラフィーにおける事件となるものだった。本作は吉田拓郎が1982年に発表した曲で、中島みゆきは2007年のライブ「歌旅」で歌っていたものの、デビュー43年目にして初の作詞作曲が別の歌手による曲のCD収録だった。唯一の特例にふさわしく、しみじみとした深い味わいに満ちた逸品となっている。 

中島みゆき ライブ リクエスト ‐歌旅・縁会・一会‐  (初回盤)(CD+DVD)

 

 

 2010年代のベストソング選定に戻る。

 

#6 風の笛(12年)

「縁会」と「ライブリクエスト」の双方に収録されており、おそらく中島みゆきにとっても自信作ではないかと推測される一曲。颯爽とした編曲とともにドラマチックな盛り上がりがあり、さわやかな風を吹かせる明るさが宿っている。

 

#7 産声(14年)

ベストアルバムの「前途」に収録され、さらに「夜会工場Vo.2」(18年)のラストでの熱唱も記憶に新しい、近年の中島みゆきにとってひときわ印象深い作品。人生の喪失を歌いながらも慈愛に満ちたリフレインを聞かせ、かけがえのない今日という日を伝えてこれは励ましとなる。

 

#8 Why&No(15年)

「組曲」収録。「中島みゆきらしい曲」といったときに、愛好者によってJ-POP的、フォーク的、演歌的な音楽ジャンルなどに印象が分かれてくると思うが、そのうちの一つには間違いなく「ロック的」な中島みゆきがいる。この「Why&No」はエレキギターにのって怒りを発散させる曲調があり、中島みゆきの全作品の中でほぼ唯一瞬発的なシャウトを響かせた一曲でもある。なお「10年代のロックな曲」として、中島みゆき自身は歌っていないが、織田哲郎に歌詞のみを提供した「Winter Song」(13年)は特筆すべき作として挙げられる。

 

#9 慕情(17年)

ドラマ『やすらぎの郷』の主題歌であり、アルバムの「相聞」のトリを飾る。『愛より急ぐものが どこにあったのだろう/愛を後回しにして何を急いだのだろう』と歌われる、完成度の高い叙情的な作品。本作の存在感が強い「相聞」だが、「アリア—Air—」や「希(ねが)い」など強力な曲を含んだエネルギーのあるアルバムとなっている。

 

 以上9曲を並べたが、一応「2010年代の中島みゆきの代表曲」の結論として、私は以下の曲を挙げたい。

 

 2010年代のベスト1
#10 ジョークにしないか(14年)

「問題集」収録。派手さはないが物語性を喚起されるような豊かな歌詞があり、DVD版の「一会」(16年)と「ライブリクエスト」(18年)の両者でラストを飾って示されたように、秘められた恋情が炙り出される名品といえる。私個人は同性愛によって屈折した恋愛感情と葛藤した経験があるのだが、『愛なんて軽いものだ/会えることに比べたらなら』と歌うくだりには、長編映画一本をまるごと味わうほどのドラマ性に心打たれる。若く激しさのある恋愛ではなく、中高年の心理的な機微がすくいとられた作詞が成され、さらに現在の中島みゆきの声質にマッチしているこの一曲を、私は2010年代の白眉と見る。

中島みゆきConcert「一会」(いちえ)2015~2016 [DVD]

 

 

   後記

 2020年1月8日には43枚目のオリジナルアルバム「CONTRALTO」(コントラアルト)の発表を予定しており、「2020年代の中島みゆき」がすでに控えている。すべての楽曲を制作しているシンガーソングライターで、43枚目のアルバム発表というのは、よもや前人未踏の高峰ではないか。(アルバム枚数の多い自作自演の歌い手を調べても、松任谷由実が38枚、谷山浩子が35枚となっている。)未だ尽きざる不屈の才能をもって中島みゆきの音楽は続いていく。この耳もまた無数の同伴者の内の一つとなって、共に次の時代を歩んでいきたい。

 

 

 

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 執筆者 喜久井ヤシン(きくい やしん)
1987年東京生まれ。8歳頃から学校へ行かなくなり、中学の3年間は同世代との交流なく過ごした。20代半ばまで、断続的な「ひきこもり」状態を経験している。2015年シューレ大学修了。『ひきポス』では当事者手記の他に、カルチャー関連の記事も執筆している。ツイッター 喜久井ヤシン (@ShinyaKikui) | Twitter 

 

   付録

番外 愛だけを残せ(10年)

シングルが2009年に出ていたので上記のリストには入れなかったが、忘れがたい名曲としてもう一点。アルバム版は「真夜中の動物園」のボーナストラックとして収録。シンプルなメッセージを合唱によって届ける壮快な逸品で、ユーチューブで公式のMVが公開されている数少ない曲の一つでもある。


愛だけを残せ / 中島みゆき [公式]