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声優から学ぶレジリエンス

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(文・南しらせ)

 声優という職業に、私が憧れを抱く理由。それは華やかな世界の裏側で、日々戦い続ける彼らのしなやかな強さであったり、何度転んでも起き上がる姿をかっこいいと思うからだ。

 

私が声優ファンになったわけ

私はアニメや声優が好きだ。私にとってこうしたコンテンツは、苦しいひきこもり生活を生き延びるための娯楽でもあり、自分を見つめ直すために必要な存在でもあった。

 

声優は、アニメやゲームのキャラクターの声・洋画の吹き替えなど、声を使って芝居をする役者である。華やかなイメージからか、子どもの将来なりたい職業ランキングでも上位に食い込むなど、憧れの職業とされることも多い。

 

しかしインターネットなどで少し調べてみると、そのイメージに反して声優を取り巻く状況は厳しいらしいと分かる。変化の激しい業界で、生き残っていける役者はほんの一握りだという。

 

なぜ、彼らはそのような世界で戦い続けられるのか。そこにひきこもり脱出のヒントがある気がして、私は次第に声優の世界に惹かれていった。

 

困難に立ち向かう、折れない強さを求めて

私が特に興味があったのが、声優のオーディションだった。声優が役をもらうためには、オーディションでその能力や適性を認められなければいけない。

 

聞けば人気声優といえどもオーディションに落ちることはザラにあるらしい。彼らが一つの役を得る過程で繰り返す何十、何百という挑戦と挫折の足跡。もし自分が同じ立場に置かれたらと思うと、胸が苦しくなる。間違いなく私の心はすぐ折れてしまい、どうにかなってしまうだろう。私になくて、彼にある強さとは一体何なのか。

 

彼らの強さの秘密を探るため、私は声優の自伝を読み、声優がやっているラジオを聴き、ひたすら情報収集を続けた。もはや娯楽というより修行のようだった。しかしその苦労もむなしく、私は彼らから得られた断片的な手がかりを、自分なりにまとめて言語化できなかった。あともうちょっとで何かが掴めそうな、もどかしい日々が続いた。

 

これ以上自分が納得できる答えを得たいのなら、もう自分が声優になって肌でその秘訣を感じ取るしかないとさえ思えた。しかし私には声優になる強さがない。その強さがないから、声優の強さの秘訣を調べているというのに……。私は完全に行き詰った。

 

「レジリエンス」との出会い

転機は、NHKのテレビ番組で放送されていた「レジリエンス」特集だった。

 

レジリエンスとは「跳ね返す力、回復力、困難な状況にもかかわらずしなやかに適応して生き延びる力」と、その番組では説明されていた。先行きの見えないストレスフルな社会を生き抜くために、近年注目されている考え方らしい。

 

「楽観主義でいること」、「恐怖と向き合うこと」、「新たな視点から意味を見つめること」など、レジリエンスの具体的な種類や方法も紹介されていた。その時私の頭の中で、声優とこの聞きなれない概念がぱっと結び付いた。

 

なぜ声優は厳しい競争や、逆境のなかで頑張ることができるのか。それは多くの声優がレジリエンスの概念を意識・無意識的に実践しているからではないか。これまで私が調べ上げた、声優たちの行動や証言の数々が、自分なりに一つの言葉として形になった瞬間だった。

 

現在私は声優から学んだ生き方(=レジリエンス)を、自分の生活に取り入れたいと試行錯誤している。今こうしてひきポスに参加させていただいていることも、私にとってのレジリエンスになればいいなと思っている。とはいえ、なかなか上手くはいかないのだけど。

 

この発見を経て、私はますます声優を好きになり、彼らへのリスペクトの思いを強くした。私も憧れの声優のように、困難に負けず、しなやかに生き延び、明日も歩き続けられるような、そんな人間になりたい。

 

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執筆者 南 しらせ

 

ひきこもり歴5年目の当事者。学生時代から人間関係に難しさを感じ、中学校ではいじめや不登校を経験。アニメ・声優オタク。好きなアニメは「宇宙よりも遠い場所」。