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参加者が居場所に期待するものは何か ~厚生労働省による調査事業に見るひきこもり当事者の本音~

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「未来の居場所づくり」シンポジウム東京(2月21日)
講演中は堀越啓仁参院議員 写真・ぼそっと池井多



文・ぼそっと池井多

 

厚生労働省がKHJ全国ひきこもり家族会連合会に委託し、調査がおこなわれてきた「居場所づくり事業」(*1)は、おおかたの調査結果が出そろい、昨日行われた「未来の居場所づくり」シンポジウム東京(*2)において、その速報値が発表された。

 

*1. 居場所づくり事業 正式名称は「社会福祉推進事業
『地域共生を目指すひきこもりの居場所づくりの調査研究事業』」

*2. 「未来の居場所づくり」シンポジウム東京 2020年2月21日 於 IKE・Biz としま産業振興プラザ なお、札幌と神戸でも同系のシンポジウムがすでに別日に開催されている。

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境泉洋座長(宮崎大学)による発表 写真・ぼそっと池井多

この事業では、全国から抽出されたいくつかの「居場所」や、「居場所」と考えられるひきこもり当事者会などを通して、利用者・参加者に居場所に関してのアンケートが実施された。

アンケート結果が公開されたので、見てみよう。 

 

居場所で得られたもの

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支援者のなかには、よく居場所を「就労支援の名前を出さない職業訓練の場」のように捉え、居場所で当事者になんらかの就労スキルを教えこむ場であるなどと考えている人もいるものである。

しかし、以下の結果を見ると、ひきこもり当事者が居場所で得るものは、就労のためのスキルアップであるよりも、

「こんな状況にあるのは自分一人ではない」

という事実の確認である方が大きいように思われる。

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 ただし、

「自分一人ではない」

という事実の確認も、けっして当事者全体を語れるほど強くはない。

居場所に参加して「自分一人ではない」と感じた人の約3分の2は、そう感じていないと答えている。

ひきこもった経緯、ひきこもっている状況はみな異なり、他の当事者の話を聞けば聞くほど、自らの事例の独自性が際立ってきて、

「やっぱり、こんなのは自分一人」

という感覚を居場所から持ち帰る者も多いことが考えられる。

居場所から帰るときに、

「自分の中のどのような独自性に絶望して帰るのか」

などといった問題が、今後に調査されてもいいだろう。

なぜならば、それは

「居場所の何に絶望して、居場所に来なくなるのか」

を明らかにすることが期待されるからである。

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 上の図では、

「居場所への参加が、外へ出るきっかけになったか」

という質問に対して、「はい」と答えた者は「いいえ」をわずかに上回っただけであった。

これは、すでにある程度、外へ出られるようになっている当事者が居場所へやってくることが多い、ということを示していると思われる。

 

居場所の何を評価して参加したか

次は、居場所へ来るにあたって、参加者は何を評価したから来たのかを見てみよう。

「雰囲気」と訊かれて、「はい」と答えた人は87人と、「いいえ」と答えた19人を大幅に上回った。 

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 「居場所」というと「場所」の語感が強いかもしれないが、「場所」の構成要素である地理的な距離や、場所としての空間評価は、雰囲気や、そこに集まる人ほどに重要ではないことがわかった。

とくに「眺めが良い」など場所としての物理的空間に関しては、ほとんどの参加者が評価の基準に入れていない。

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 居場所は場所よりも人

 いっぽう、居場所の構成要素である、そこに集まる「人」に関しては、もっと多くの参加者が評価の基準として重要視していることがわかった。

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このような結果を、それぞれの理由に対して「はい」と答えた人の割合をグラフに並べてみると、このようになる。

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地理的な距離はさることながら、居場所は「場所」としての空間よりも、世話人や他の参加者といった、そこへ「居る」「来る」であるとか、そのような人々から総合的に醸し出される雰囲気が重要であることが改めてわかった。

となると、「居場所の作り方」などとマニュアル化して大量生産できるものなのか、という問いが浮上してくるのである。

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写真・ぼそっと池井多

家族から見た居場所

他方では、ひきこもりの家族は居場所をどのように捉えているのだろうか。

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親御さんを主とする家族に「居場所に参加した理由」を質問すると、上記3項目がほぼ同じくらいに並んだ。

また下の図を見ても、居場所に参加して満足である理由において、親御さんの場合は「情報交換」が大きな割合を占めることがわかる。

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対象者数すなわち母数が小さいので、これだけで全国的な傾向を安易に語ることはできないが、問題はこれからどのように行政が日本各地に居場所づくりを実践していくのか、という点にある。

「居場所」という物理的構造をした空間が存在するわけではない。

いくら行政や支援者が上から当事者に居場所を提供しても、じっさいにそこへ行く当事者がそこを居場所と感じなければ、居場所として機能しない可能性が大きく残されている。

居場所とは、外部から居場所と規定されるものではなく、内発的に居場所と認識するところであるはずだ。

今後、行政が展開していく「居場所支援」なるものが、どれだけ実質をともなったものになるのかは、まだまだ未知数であるといえよう。

 

(了)

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< 記者プロフィール >
ぼそっと池井多(-・いけいだ) :まだ「ひきこもり」という語が社会に存在しなかった1980年代からひきこもり始め、以後ひきこもりの形態を変えながら断続的に30余年ひきこもっている。当事者の生の声を当事者たちの手で社会へ発信する「VOSOT(ぼそっとプロジェクト)主宰。
facebookvosot.ikeida
twitter:  @vosot_just

 

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