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(シリーズ・福祉作業所)第2回 「名探偵コナン」が私に教えてくれた人生の大切な真実

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 (文・南 しらせ)

私は過去に障害を持った方などが就労訓練を行う「就労移行支援」という制度を利用し、福祉作業所という場所に通ったことがある。その時は結局就職できずに利用を終えたのだが、最近になってもう一度作業所を利用しようかと考えるようになっている。

初めての作業所で感じた「私はこんなもんじゃない」というプライド

私が初めて作業所を利用したのは、大学を進路未定で卒業して間もない頃だった。同級生の多くは新卒で就職し、社会人としてしっかり働き、いい給料をもらっているのだろうなと、いつも想像していた。

当時通っていた作業所で私は皿洗いや、商品のラベル張りなどの作業を担当していた。正直なところ「大学まで出たのに(親に出させてもらったのに)、私はなんでこんなことをしないといけないんだろう」という思いは、ずっと頭から離れなかった。

作業にも身が入らなくて「私は、本当はこんなところにいる人間じゃないんだ」、「私はこんなもんじゃない!」と自分のプライドを抑えきれず、何度も叫び出したい衝動に駆られた。

結局私は訓練の途中で体調を崩してしまったのだが、その原因は、作業所という場所でくすぶっている自分をみじめに感じ、ありのままの自分自身を認められなかったからだと思う。そしてプライドの高さゆえにその苦しみを誰にも明かせず、一人で抱え込んで爆発させてしまったのだ。

「名探偵コナン」から教わった、人生の大切な真実

ここで急に話が変わるが、国民的人気漫画「名探偵コナン」のあらすじを簡単に紹介したい。

主人公の天才高校生探偵・工藤新一は、黒の組織に飲まされた謎の薬によって、小学生の体になってしまう。その後新一は自らを「江戸川コナン」と名乗り、元の体に戻るために黒の組織の謎や、数々の難事件を解いていく。

この作品で私がいつも気になるのが、新一が理不尽な出来事によってコナン君の姿にさせられた後のことだ。コナン君(新一)はきっと色々な悩みや葛藤を、一人胸に抱いていると私は想像するのだ。

体が小さくなって、高校生の時ならすぐに触れられた棚に手が届かない。本当は高校生なのに、もう一度小学校から勉強をやり直さないといけない。大好きな幼馴染の蘭にも、本当の真実を伝えられない。その度に感じるもどかしさ、悔しさ、やるせなさ。

「なんでこうなっちまったんだろう……。本当の俺は、こんなもんじゃないのに」

なんて言葉を、コナン君は吐かない。実際の彼は阿笠博士が発明してくれた便利な道具を使って、体が小さくなったハンデを補う。自分と同じ境遇の灰原哀を受け入れ、本物の小学生の元太たちを対等な存在として認めている。

新一からコナン君になるということは、人間として何もできなくなるということではない。できなくなったことも多いけれど、周囲の理解や助けがあれば、どんなに小さくてもできることはある。

コナン君のすごさは頭の良さだけじゃない。現実を受け入れ、それでも前へ進もうとする心の強さだ。それが私が「名探偵コナン」から教わった、人生の大切な真実のような気がする。

「新一」ではなく「コナン君」として人生を生きていきたい

今月に入って、私は自分で近所の作業所に電話をして、作業所の見学をお願いした。実際に見学に行ってみて、利用者の方の姿をちゃんと見ることもできた。私は自分のプライドが、以前よりも少し柔らかくなっているように感じた。

私は作業所に通っている皆さんのことを、コナン君みたいだなと思った。皆さんもコナン君のように色々な事情を抱えながら、「それでも今やれることをやろう」と懸命にここで努力されているのだ。私は、皆さんは実はものすごく強い人たちなのかもしれないと、初めて思えた。

私は皆さんから学ばなければいけないことが、学びたいことが、たくさんあるのではないか。

とはいえまだ100%決心はついておらず、実際に作業所を利用するかどうかはまだ分からない。けれど確かなのは、私はいいかげん過去の「新一」のはずだったのにという幻想を捨てて、そろそろ「コナン君」であることを受け入れて、もう一度人生を生きたいということだ。

私はコナン君みたいに、なれるのだろうか。今は無理でもいつかなれたらいいなと、思う。

 

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執筆者 南 しらせ

自閉スペクトラム症などが原因で、子ども時代から人間関係に難しさを感じ、中学校ではいじめや不登校を経験。現在ひきこもり歴5年目の当事者。

 

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